20 March

個人事業主も活用したいクラウドファンディングのしくみと税金[第6回]:パトロンサイトと寄付型クラウドファンディング

掲載日:2025年03月20日   
税務ニュース

近年、フリーランスや個人事業主も活用できる資金調達手段として注目されているクラウドファンディング。何回かの連載で、フリーランスや個人事業主が知っておきたいクラウドファンディングのしくみと税金について解説します。

第6回では、クリエイターやアーティストにお馴染みの「パトロンサイト」や「投げ銭」と、寄付型クラウドファンディングの違いにスポットをあててみましょう。

クリエイターの資金調達方法

クリエイターやアーティストが活動を継続するためにはお金が必要です。

クリエイターやアーティストの資金調達の手段として、たとえば、pixivFANBOX(ファンボックス)やPatreon(パトレオン)などの「パトロンサイト」や、YouTubeのスーパーチャット(スパチャ)などのオンラインの「投げ銭」が挙げられます。

「パトロンサイト」とは、クリエイター支援プラットフォームです。
パトロン(patron)とは後援者や支援者を意味し、「パトロンサイト」では、クリエイターがコミュニティを作成・運営し、限定作品や先行情報などを自身のファン(愛好者)に向けて公開・発信することができます。「パトロンサイト」を通じて、ファンはクリエイターやアーティストを、継続的にもしくは作品ごとに支援することができます。

オンラインの「投げ銭」とは、映像・音楽・記事・イラストなど、クリエイターやアーティストがネット上で公開しているコンテンツに対して、視聴者やファンがオンラインで送金することをいいます。「投げ銭」というと、街頭やステージで活動するクリエイターやアーティストに対する「おひねり」をイメージする人も多いかもしれませんが、ネット上で活動するクリエイターやアーティストに対しても行われています。

このように、ファンは「パトロンサイト」や「投げ銭」を通じた「支援金」というかたちで、クリエイターやアーティストを応援することができます。一見すると、これらは「支援」や「応援」という意味で、寄付型クラウドファンディングと似ています。

「パトロンサイト」や「投げ銭」と寄付型クラウドファンディングは、どのような違いがあるのでしょうか?本コラムでは、両者にかかる税金の違いに焦点をあててみましょう。

寄付型クラウドファンディングと税金

寄付型クラウドファンディングには、寄付(寄附)に関する税金のルールが適用されます。

たとえば、クラウドファンディング実施者が個人で、支援者も個人の場合、実施者が個人から受け取った支援金は、贈与税が課税されます。

贈与税には年110万円の基礎控除が設けられており、ある実施者が1年間に個人の支援者から提供された支援金をすべて合計し、その合計額が110万円以下なら、贈与税の申告も納税も不要となります。

寄付型クラウドファンディングの税金については、第5回で詳しく解説しています。

「パトロンサイト」や「投げ銭」と税金

一方、「パトロンサイト」や「投げ銭」により支援金を得た場合は、原則として申告が必要です。

基本的に、「パトロンサイト」や「投げ銭」により支援金を得たら事業所得または雑所得として、所得税および住民税が課税さることとなります。

この場合、所得区分については、その目的・状況により判断しなければなりません。

たとえば、YouTuberが動画配信により継続的に「投げ銭」を得ている場合や、イラストレーターが継続的に「パトロンサイト」を通じて支援金を得ている場合には、事業所得として申告が必要です。

他方、普段はサラリーマンなどの給料で生計を立てている人が、副業イラストレーターとして「パトロンサイト」を通じて支援金を得た場合や、趣味の延長で行った動画配信により「投げ銭」を得た場合には、雑所得として申告が必要です。

つまり、「パトロンサイト」や「投げ銭」により得た支援金が、事業所得と雑所得のどちらに該当するかは、原則として、専業であれば事業所得に、副業であれば雑所得に該当することになるのです。

「パトロンサイト」や「投げ銭」による支援金は贈与に該当する?

「パトロンサイト」や「投げ銭」による支援金は、応援してくれるファンからの贈り物(プレゼント)であるため、寄付型クラウドファンディングのように、贈与として申告したいと考える人も多いのではないでしょうか?

なぜなら、贈与税は年間110万円まで税金がかからないためです。

しかし、クリエイターやアーティストが「パトロンサイト」や「投げ銭」を通じて得た支援金について、贈与として申告することは現実的ではないと考えられます。

なぜなら、贈与は「自分の財産を『無償』で相手にあげること」で、「対価性がない」「身内から」といったものが典型例として想定されているためです。これに加えて、贈与税には「相続税を補完する」という性質があることも理由として挙げられます。

一般的に、「パトロンサイト」や「投げ銭」を通じて得た支援金は、「チップ」と同じだと考えられています。

確かに、クリエイターやアーティストが「パトロンサイト」や「投げ銭」を通じて得た支援金については、ファンとしては「応援したい」という動機があり、贈り物としての側面があることは否定できません。

しかし、「パトロンサイト」や「投げ銭」を通じて得た支援金は、サービスを受けたことに対する心づけとして相手に渡す「チップ」と同様に、基本的にはパフォーマンスや配信、限定作品や先行情報などの対価として得るものです。

そのため、贈与には当てはまらず、基本的に所得税の対象になります。
日本ではあまり馴染みがありませんが、外国で一般的なチップ収入は、所得税の対象となっているのです。

他方、寄付型クラウドファンディングの特徴は、支援者がクラウドファンディング実施者の社会貢献活動に対して資金を提供し、見返りを求めないというものです。

寄付型クラウドファンディングにおいて、支援者が受け取るリターンの多くは、「お礼の手紙」「定期的な活動報告」などであり、「対価性」がないことが一般的です。

このように、「パトロンサイト」や「投げ銭」を通じて得た支援金は、一般的に「対価性」があるため、税金の取扱いにおいて、寄付型クラウドファンディングとは異なものといえるのです。

支援金に対する税金は目的・状況により判断

ただし、寄付型クラウドファンディングであっても、リターンの品物の市場価値が高かったり、リターンの内容が過剰なものになったりすると、寄付型クラウドファンディングではなく購入型クラウドファンディングとみなされ、税金の取扱いが異なってくる可能性があります。

また、第5回で解説したとおり、寄付型クラウドファンディング実施者が個人で、支援者が法人の場合、実施者が法人から受け取った支援金は、一時所得に該当します。

「パトロンサイト」や「投げ銭」による支援金も、寄付型クラウドファンディングによる支援金も、同じ「共感」を通じた資金調達といえますが、どのような税金がかかるかは、資金調達の目的や状況により異なることに注意が必要です。

特に、「パトロンサイト」や「投げ銭」による支援金は贈与になると思い込み、110万円以下だからという理由で申告しないまま放置していた場合などは要注意です。税務調査が入ってペナルティが課される可能性があります。

「確定申告が必要だとは思っていなかった」「贈与になると思っていた」など、「知らなかった」では済まされないのが税金のルールです。悩んだときは、専門家や税務署に相談することをおすすめします。

(免責事項)本コラムの内容は、投稿時点での税法、会計基準、会社法その他の法令等に基づき記載しています。また、読者が理解しやすいように、原則的な取扱いを簡略化して説明しています。本コラムの情報に基づいて実務や判断を行う場合には、専門家・税務署に相談、または十分に内容を検討のうえ実行してください。本情報の利用により損害が発生することがあっても、当事務所は一切責任を負いかねます。なお、当事務所では本コラムに関する個別のご質問は受け付けておりません。予めご了承ください。
ABOUT執筆者紹介

税理士 武田紀仁

たけだ税理士事務所

クリエイターとスモールビジネスを支える税理士。クリエイティブ産業で活動する中小法人や、漫画家・イラストレーター・デザイナー・ものづくり作家などの個人事業主(フリーランス)を対象とした税務・会計・経営アドバイザリーサービスを得意とする。また、自身のもう一つのライフワークとして、文化芸術領域の会計と情報開示についての研究活動も行っている。

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