子どもと話したいお金と税金のはなし[第1回]:本当にあった税金の怖い話
おんすけと学ぶ税務情報
大人になるために避けてとおれない、けれど難しいお金や税金のこと。本コラムでは、経営者や経理担当者のみなさんが子どもとお話をするきっかけになるように、身近な事例を取り上げて解説します。
第1回では、子どもがなりたい職業の上位にランクインしているYouTuberに注目します。未成年のYouTuberでも期限までに正しく申告して納税しなければ、社会的制裁(ペナルティ)を受けてしまうことがあるのです。
本当にあった税金の怖い話
子どものなりたい職業は?
日本の子どものなりたい職業は、「スポーツ選手」「医者・看護師」につづいて「You Tuber・ゲームクリエイター・ファッションデザイナー」などのクリエイターが人気です。YouTuberは日本以外(タイ、マレーシア、ポーランド、アメリカ)でも、なりたい職業の上位にランクインしており、世界的にも人気が高い職業といえます。
〈図表1 子どものなりたい職業〉
YouTuberなどによる相次ぐ申告漏れ
一方で、YouTuberやインフルエンサーによる相次ぐ申告漏れのニュースが話題になっています。動画広告収入やネット上の投げ銭などの「所得(もうけ)」を正しく申告していなかったのです。なかには数千万円のペナルティが課されたケースや、「税金の申告が必要だとは知らなかった」という主張をしたものの通常よりも重いペナルティが課されたケースもありました。
さて、ここで素朴な疑問です。
小学生YouTuberのような未成年者でも税金の申告をしなければならないのでしょうか?
子どもだって税金の申告が必要
未成年者でも申告が必要
日本での成年年齢は20歳と民法で定められていました。この民法が改正され、2022年4月1日から、成年年齢が20歳から18歳に変わったのは記憶に新しいところです。
未成年者に対しては、その判断能力や責任能力などに配慮したルールが設けられています。たとえば、未成年者が行った契約の取消しや、少年法による罪を反省する機会などがあります。
しかし、所得税という税金のルールでは、成年と未成年という区別がありません。未成年者であっても「所得(もうけ)」があれば、原則として税金の申告が必要になるのです。
親のアカウントでも申告が必要
YouTubeなどへの動画投稿を趣味として行うだけなら未成年者でも可能です。しかし、広告収入などを得ようとする ― つまり収益化できるアカウントを作成する ― なら、基本的には18歳以上であるなどの条件が必要です。
そのため、未成年者がYouTube動画を収益化しようとする場合には、親などがアカウントを作成して管理する必要がありますが、未成年者が親の収益化アカウントで活動していても「所得(もうけ)」があれば、原則として確定申告が必要になります。
このように、未成年や学生だから税金の免除や優遇があると考えてしまいがちですが、「所得(もうけ)」があれば、原則として税金の申告をしなければなりません。なぜなら、税金のルールは所得がある人すべてを対象にしているからです。
税金の申告が必要な理由
国民の義務と申告
そもそも、なぜ私たちは税金の申告をしなければならないのでしょうか?
それは、確定申告に代表される税金の申告が、憲法に定められている「納税の義務」を果たすための重要な手続きの一つだからです。このような手続きによって国民が納めた税金は、学校や図書館、公園、道路など、みんなで利用する施設(公共施設)や、警察や消防など生活を守るサービスなど(公共サービス)に役立てられています。
「国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負ふ。」
日本では、国民ひとりひとりが自主的に税務署に申告を行うことで税金の額を確定させて納税するという前提で成り立っています(これを「申告納税制度」といいます)。たとえば、所得税の確定申告は、1年間の収入から必要経費などを差し引いて「所得(もうけ)」を計算し、申告書に記載して税務署に提出し税金を納めるという一連の手続きです。
親が代理で申告することもできる
未成年者にとって税金の申告はハードルが高いのも事実ですが、未成年の子どもの申告を親が代理で行うこともできます。親は未成年の子どもに対して親権があり、そのうちの一つである財産管理権により、税金の申告を代理で行うことができるのです。
申告しないとペナルティが!
期限までに税金の申告をして納税すれば、本来の税額を納税するだけで済みますが、後になって納税額が本来納付すべき額に足りないことがわかると、追加で支払う税金が生じたり、ペナルティが課されたりすることがあります。
それが発覚するきっかけの一つが税務調査です。「申告納税制度」を維持するためのしくみの一つである税務調査の結果、「申告をしないで放置していた」「申告すべき収入が漏れていた」「ウソをついて実際よりも所得(もうけ)を少なく申告していた」などが発覚した場合には、ペナルティが課されることがあります。また、ごまかしや隠ぺいなど悪質な場合には、通常よりもさらに「重い」ペナルティが課されてしまいます。
未成年や学生でも申告の義務が免除されないのと同様に、特別な事情がない限りペナルティが軽減されることもありません。「未成年だから申告しなかった」「税金のことが難しくてわからなかった」という言い訳は通用しないのです。
自分の周りの人にも影響が?
未成年や学生にとっての動画投稿は、「ちょっとしたお小遣い稼ぎ」のような軽い気持ちで行われることが多いでしょう。しかし、動画による収入や家族の状況によっては、親など自分の周りの人の税金に影響を及ぼすことがあるのです。
たとえば、子どもが16歳以上23歳未満の場合、一定の要件のもと保護者の所得から一定の金額が控除される「扶養控除」というしくみがあります。しかし、子どもの収入が一定額を超えると、親は扶養控除を受けられなくなり、結果として親の税額が増えてしまいます。
また、前述のとおり、親が子どもの代理で確定申告を行うことは可能ですが、税金を支払うときは、親のお金ではなく、子どものお金で支払う必要があることに注意しましょう。親が子どもの代わりに税金を支払った場合には、贈与税が生じるケースがあるためです。
このように、子どもYouTuberであっても税についての知識がなければ社会的制裁(ペナルティ)を受けてしまうことがあります。「知らなかった」では言い訳にならないのが税金のルール。自分だけでなく自分の身内にも不利益が生じることがある、税金にはそんな「怖い話」が本当にあるのです。
このような税金の基本的な知識は、いずれ社会の構成員になる子どもにとって、とりわけ大切な知識の一つといえます。子どもと対話する際のトピックの一つにしてみてはいかがでしょうか。
ABOUT執筆者紹介
税理士 武田紀仁
クリエイターとスモールビジネスを支える税理士。クリエイティブ産業で活動する中小法人や、漫画家・イラストレーター・デザイナー・ものづくり作家などの個人事業主(フリーランス)を対象とした税務・会計・経営アドバイザリーサービスを得意とする。また、自身のもう一つのライフワークとして、文化芸術領域の会計と情報開示についての研究活動も行っている。
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