20 January

【契約書の基本】トラブル防止のためのチェックポイント②不動産の賃貸借契約書

掲載日:2025年01月20日   
起業応援・創業ガイド

契約書の基本シリーズです。今回は多くの人がかかわる賃貸借契約書のチェックポイントを解説します。居住用や事業用としてアパートやマンションを借りようとしている方は必見です。

アパートやマンションを借りる時の「賃貸借契約書」とは

アパートやマンションを借りるとき、必ず賃貸借契約書を作成します。なぜこのような書類が必要なのでしょうか。重要事項説明書とどう違うのでしょうか。最初に目的や内容を確認しましょう。

目的

そもそも、賃貸借契約とは「目的となる不動産などを有償で使用する」あるいは「不動産を活用して金銭を稼ぐ(経済的利益を得る)」といった行為のための契約です。一般に、賃貸借契約を締結すると、貸主・借主の双方に次のような義務が生じます。

【貸主】

  • 物件を適切な状態で使用させる義務
  • 修繕費用の支払い義務
  • 改良費の支払い義務

【借主】

  • 家賃を支払う義務
  • 借りた物件を注意深く使用する義務(善管注意義務)
  • 原状回復の義務

重要事項説明書との違い

重要事項説明書とは、契約内容の中でも特に重要な事項について説明を記した書面を言います。

重要事項説明は、宅地建物取引業法で義務づけられています。賃貸借契約を締結する前に、宅地建物取引士が借主に対し、敷金・礼金や違約金などの契約内容、物件の設備や周辺環境などを説明することとなっています。一通り確認が済むと、説明内容を文書化した書面を仲介の不動産会社が借主に交付します。いわば「契約前の確認書」なのです。

一方、賃貸借契約書は、契約そのものを文書化したものです。契約締結後に生じるおそれのあるトラブルを未然に防ぐ効果があります。

ひな型

不動産の賃貸借契約書の様式は、おおよそ次のようになっています。

賃貸借契約までの流れ

賃貸借契約にいたるまでの手続きの流れは、通常、次のようになります。

  1. 物件を見て回る
  2. 気に入った物件の概要(周辺環境、家賃などの賃貸の条件、入居中ならば入居可能時期など)について教えてもらう
  3. 2が自分の使用目的に合っているかどうかを確認する
  4. 賃貸契約の申込をし、借りるだけの能力があるかどうかの信用調査を受ける
  5. 4の調査で承認が下りたら、賃貸借契約へ
     (1) 重要事項説明を受け、書面に署名する
     (2) 賃貸借契約を締結し、契約書に署名する

賃貸借契約書のチェックポイント2つ

賃貸借契約書では、主に次の点を重点的に確認するようにしましょう。

使用目的

事業を行いたい人は要注意です。もし契約上の使用目的が「居住用」であるにもかかわらず、賃貸物件で事業活動を行ったなら、契約違反となり、通告なしで契約解除となる可能性があります。居住以外の目的でどこまで使用できるのかを事前に確認しましょう。使用可能範囲について文書化しておくのが望ましいです。

明渡し時の原状回復

「原状回復」という用語から、人によっては「新品同様に戻さなくてはならない」という印象を受けるかもしれません。実際、そのように要求してくる貸主や不動産会社もあります。

実際には、国土交通省が原状回復について、次のようなガイドラインを示しています。

(1)原状回復とは 

原状回復を「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」と定義し、その費用は賃借人負担としました。そして、いわゆる経年変化、通常の使用による損耗等の修繕費用は、賃料に含まれるものとしました。

⇒ 原状回復は、賃借人が借りた当時の状態に戻すことではないことを明確化

そのため、原状回復の範囲は限定的であることに注意しておくといいでしょう。

なお、賃借している間に借主が自ら修繕することがあるかと思います。このような事態について契約書に規定してあることはほとんどありません。しかし、このような借主による修繕費用は原則、貸主に請求できることとなっています。ただし、請求できるのは「割れたガラスを張り替える」など、原状回復程度に限られるとされています。

注意点

賃貸借契約書については、次のような注意点があります。

賃貸借契約書に書いていないような事態が生じたときの対処

契約締結後、契約書に書いていないような事態が生じることがあります。例えば、車が建物に衝突したなど、偶発的な事故が生じた場合の損害の扱いです。このような場合、損害賠償責任が借主に生じないよう、交渉するしかありません。交渉しても難しいようならば、火災保険の内容を手厚くするなどで、可能な限り損害を回復できるようにしておく必要があります。

賃貸借契約書に書いてある条項に納得がいかない場合の対処

契約書に書いてある条項であっても、発動したときに納得のいかない事態となることがあります。主に次のようなケースです。

  • 退去時の原状回復に敷金を充てると書いてあるが、原状回復の範囲が過度に広くて敷金がまったく返戻されないケース
  • 貸主の都合で一方的に解約通知が届いたケース…契約書にある解約事由に該当すると言われた場合、建て替えたいので立ち退きを要求された場合など
  • 借主の過失の有無を問わず、入居している部屋で発生したトラブルの結果、他の入居者や建物に損害を与えたケース
  • 重要事項説明で説明されていない問題で不快感を覚えたケース…騒音、ごみ焼却、お墓の存在など、近隣の施設についての事前説明が不十分であったなど

このような事態が生じた場合、基本的には「契約の解除を求める」「金銭的な賠償を請求する」といった対処をすることになります。また、こういった問題の説明不十分は宅地建物取引業法違反に当たります。こういった法令違反について追及する必要が生じるかもしれません。

賃貸借契約は慎重に、自分のペースを大事に

賃貸借契約をいったん行うと、大きな権利と義務が発生します。契約や物件の状態をよく分からないまま契約するのは危険です。そして、不動産会社によっては重要事項説明をした直後に賃貸借契約を結ぶように求めてくるところもあります。

「すぐに契約を」と言われても受け入れる必要はありません。いったん持ち帰って考えるなど、慎重かつ冷静に検討する時間を持ってから契約に臨むとよいでしょう。

ABOUT執筆者紹介

行政書士 鈴木良洋

1974年生まれ。1996年行政書士試験合格、1998年中央大学法学部政治学科卒業。2002年行政書士登録。建設業、司法書士事務所、行政事務所勤務を経て2004年独立開業。20年超、外国人の在留手続を専門に外国人の起業・経営支援を行う。これまでの取扱件数4000件超。元ドリームゲートアドバイザー。

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