22 December

少量多品目の皆さん、自分で野菜の価値を下げていませんか?

掲載日:2025年12月22日   
農家おすすめ情報

ネガティブな表現はやめましょう

道の駅や直売所、マルシェ、スーパーの 「顔の見える農家」 コーナーなど、少量多品目農家や新規就農者が野菜を販売できる場所は年々増えています。そこには、食べ方の提案や農家からのメッセージが添えられ、工夫にあふれた取り組みが広がっています。

一方で、規格外の野菜が「せっかく作ったのにもったいない」「少しでもお金になればいい」という理由で並べられることもあります。それ自体は間違いではありませんが、多くの場合、「見切り品」「訳あり品」「キズあり」「B品」などネガティブな表現が添えられています。正直さは大切ですが、こうした言葉を使うことで値段を下げたり、量を増やしたりと、結果的に農家側のデメリットが増えるのも事実です。

キズありのナス

労働力は同じ

規格に合う野菜も規格外の野菜も、販売までに必要な労働力は同じです。栽培にかけた時間、収穫の手間、洗浄や調整作業、袋詰め。やることは同じなのに、値段に大きな差がついてしまうのはおかしな話です。そこには、ネガティブな言葉によって自ら価値を下げてしまい、価格差が生まれている状況があります。これは本来、改善すべき点です。

価値を見出せば野菜は売れる

スーパーの「顔の見える農家」 コーナーで、大きくなりすぎたキュウリを目にすることがあります。農家が見れば、収穫時期を逃しているのは一目瞭然で、一般のキュウリと比べて見た目の魅力も劣ります。さらに、小家族世帯が増えている今、量が多すぎると敬遠される可能性もあります。

真ん中には大きなキュウリが

しかし、大きなキュウリにも価値はあります。味はウリに近づき、サラダなどの生食ではなく、加熱調理に向きます。売り場のポップに「おすすめ!大きなキュウリの中華炒め」と書くだけで、「訳あり品」ではなく「料理用の新しい食材」として、値段を下げる必要も量を増やす必要もありません。

ネガティブワード「間引き菜」

ニンジンを例にしてみます。

規格サイズのニンジンを育てる過程で行う間引き作業。これまで間引き菜は、自家消費か廃棄されることが一般的でした。最近、スーパーの「顔の見える農家」コーナーで、洗ったニンジンの間引き菜20本100円で売られているのを見かけました。間引き菜を商品にする考え方はとても良いのですが価格が安すぎます。先ほど述べたように、規格品も規格外も必要な労働力は同じで、「間引き菜=価値が低い」という固定観念が価格を引き下げています。

タケイファームでは、「1本1本が価値を持つ野菜」という考えで、栽培するニンジンの90%をレストランへ1本40円で販売しています。しかも洗わずに出荷するため、調整作業にかかる時間と労力は最小限です。

1本を洗う時間が1分かかるとして、20本で20分。先ほどのスーパーで販売されていたケースでは、1時間で3袋しか作れず売上げは300円です。一方、タケイファームでは、洗うことなく数を数えるだけなので、調整作業にかかる時間は30秒。同じ20本でも売り上げは800円になります。違いは「間引き菜」として扱うか「価値ある野菜」として扱うか、それだけです。価値を下げないために、納品書には「間引き菜」とは書かず「ニンジンミニ」と記載しています。

サイズをそろえることでさらに価値があがるミニニンジン

サイズはさらに小さく“極小シリーズ”へ

「間引き菜」は価値が低いという思い込みを外すだけで、新しい商品が生まれます。タケイファームでは、ここから“極小シリーズ”が誕生しました。

最近のフランス料理店やイタリア料理店では、飾りとして「小さな野菜」をそのまま皿に載せるスタイルが増えています。先日出荷したのは、葉が5cmほどのニンジンです。根は太さ1mm、長さ2cmほど。「このサイズのニンジン、カッコよくないですか?」と聞くと、「カッコイイです。今までいろいろなニンジンを使ってきましたが、このサイズは初めてです!」。と返ってきました。もちろん、この極小サイズのニンジンにも1本ずつ値段をつけています。他にも小指の爪ほどのカブや長さ3cmのオクラなど、極小シリーズのバリエーションは増え続けています。

シェフが驚いたニンジン極小

左が出荷している3センチのオクラ、右は通常サイズのオクラ

ネガティブをやめ、価値へ変える

「見切り品」「訳あり品」「キズあり」「「B品」、そして廃棄対象だった「間引き菜」。これらは、農家自らが価値を下げる言葉を付けてしまうことで、本来得られた利益を逃してきたともいえます。しかし、視点を変えれば「価値ある商品」に変えられます。

繰り返しになりますが、規格品も規格外品も、そこにかかる労働力は同じなのです。
だからこそ、少量多品目の皆さん、自ら野菜の価値を下げるネガティブな表現はやめませんか。価値は作り出すもので、伝え方ひとつで大きく変わります。

ABOUT執筆者紹介

武井敏信

タケイファーム

タケイファーム代表。「営業はしない」がポリシー。今まで350種類を超える野菜を栽培し、年間栽培する野菜は約140品種。独自の販売方法を生み出し、栽培した野菜の95%をレストランへ直接販売している。趣味は食べ歩き。一般社団法人Green Collar Academy理事。青山学院大学ABS農業マーケティングゲスト講師。京都和束町PR大使。

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