17 May

(小規模事業者向け・障害福祉事業向け)令和6年度改正 処遇改善加算の基本理解

掲載日:2024年05月17日   
社会保険ワンポイントコラム

はじめに

福祉業界では、毎回大きく注目される3年に1度の報酬改定。今回も多岐にわたって報酬の改定が起きておりますが、とりわけ話題になっているテーマに「処遇改善加算1本化」が挙げられます。福祉事業者にとって、非常に馴染みのある「処遇改善加算」というキーワード。2009年の「介護職員処遇改善交付金」に始まり、その後数々の制度改正を繰り返し、「福祉・介護職員処遇改善加算(以下、「処遇改善加算」という。)」「福祉・介護職員等特定処遇改善加算(以下、「特定処遇改善加算」という。)」「福祉・介護職員等ベースアップ等支援加算(以下、「ベースアップ加算」という。)」の3つの加算に分かれて運用されてきました。

それぞれ申請要件、支払要件、支払対象者等が細かく規定されており、この3つの違いを理解するだけでも大変難解な制度となっておりました。今年はさらに令和6年2月からの「福祉・介護職員処遇改善臨時特例交付金(通称:臨時特例交付金)もありましたので、新規参入した障害福祉事業者や、初めて処遇改善加算を申請しようとする事業者にとっては、用語ひとつとっても、理解するのに苦労されたことと思います。

私の印象としては、これまでの複雑になり過ぎて収拾がつかなくなった3つの制度が、今回の改正でだいぶすっきり明瞭で分かりやすい制度になったように思います。

一口に「処遇改善加算」と言っても、介護福祉事業者向け、障害福祉事業者向けとでは様式も申請窓口も異なります。また、医療業界においても、令和6年6月より「ベースアップ評価料」という似たような名称の診療報酬改定があり、インターネット上の記事を見ていると、いろいろな名称、いろいろな情報が入り混じっています。今回は障害福祉事業における小規模事業者の処遇改善加算に絞って解説していきます。

福祉・介護職員処遇改善加算

福祉・介護職員処遇改善加算は、その名のとおり、福祉・介護職員の処遇を改善する為に使うことを前提とした加算となります。利用者の人数に応じて、国民健康保険団体連合会(以下、「国保連」という。)へ請求する報酬に一定の割合で上乗せされます。計画届の様式には処遇改善加算の見込額を記入する欄がある為、よく「処遇改善加算っていくらもらえるの?」という質問を受けますが、答えは「利用者の人数による」となります。受け取った加算の全額を年度内に給与または賞与として支払うことが要件となっています。

ここでいう“年度”とは、4月1日から翌年3月31日までの期間を指します。国保連への請求は、4月提供分が5月に審査され6月に入金されるという流れですので、入金ベースではなく、提供ベースで考えます。給与または賞与での支払いも提供ベースに合わせて3月31日までに払いきるのがよいのですが、実際には3月提供分の金額が確定するのは翌年度の4月以降となる為、行政サイドは「7月の実績報告までに払いきればよい」と柔軟な対応をしてくれています。

以下、処遇改善加算の給付率となります。

「(旧)福祉・介護職員処遇改善加算」は一定のキャリアパス要件を満たすことによって、Ⅰ型からⅢ型まで分かれておりましたが、今回の改正により、「(新)福祉・介護職員処遇改善加算」では、Ⅰ型からⅤ型まで区分が増えています。

福祉・介護職員等特定処遇改善加算

従来の処遇改善加算において、制度を複雑で使いにくいものにさせていたものひとつに、「(旧)福祉・介護職員等特定処遇改善加算」の存在がありました。要は、主任クラスの中間管理職の待遇の底上げを図ったものです。「サービス管理責任者(通称:サビ管)」や「児童発達支援管理責任者(通称:児発管)」も支給対象にできるという点は利用しやすかったものの、障害福祉人材を「A:経験・技能のある障害福祉人材(勤続年数10年以上の職員)」「B:他の障害福祉人材」「C:その他の職種」に区分し、特定処遇改善加算の支給額に差を設けなければならない(AがBより、BがCより多くなければならない)という特別ルールの難しさがありました。

今回の改正により、「サービス管理責任者(通称:サビ管)」や「児童発達支援管理責任者(通称:児発管)」も支給対象にできるという「(旧)福祉・介護職員等特定処遇改善加算」の最大の魅力が、(新)処遇改善加算では大幅に拡大して大変運用しやすくなりました。

具体的には、こちらの通達(P3-P4あたり)をご参照ください。

厚生労働省「福祉・介護職員等処遇改善加算等に関する基本的考え方並びに事務処理手順及び様式例の提示について」

厚生労働省「別紙1」

新加算等を用いて行う賃金改善における職種間の賃金配分については、福祉・介護職員(※)への配分を基本とし、特に経験・技能のある障害福祉人材(介護福祉士等であって、経験・技能を有する障害福祉人材と認められる者をいう。具体的には、福祉・介護職員のうち介護福祉士、社会福祉士、精神保健福祉士又は保育士のいずれかの資格を有する者、心理指導担当職員(公認心理師を含む。)、サービス管理責任者、児童発達支援管理責任者、サービス提供責任者、その他研修等により専門的な技能を有すると認められる職員(別紙1表5の例示を参考)のいずれかに該当する者であるとともに、所属する法人等における勤続年数10年以上の職員を基本としつつ、他の法人における経験や、当該職員の業務や技能等を踏まえ、各事業者の裁量で設定することとする。以下同じ。)に重点的に配分することとするが、障害福祉サービス事業者等の判断により、福祉・介護職員以外の職種への配分も含め、事業所内で柔軟な配分を認めることとする。ただし、例えば、一部の職員に加算を原資とする賃金改善を集中させることや、同一法人内の一部の事業所のみに賃金改善を集中させることなど、職務の内容や勤務の実態に見合わない著しく偏った配分は行わないこと。

つまり、「(旧)福祉・介護職員等特定処遇改善加算」の「A:経験・技能のある障害福祉人材(勤続年数10年以上の職員)」に該当する「サービス管理責任者(通称:サビ管)」や「児童発達支援管理責任者(通称:児発管)」については、令和6年4月以降は支給対象にしてよい、ということになります。

法人として設立10年未満の事業所であっても、事業者の判断で「実務経験10年以上」と読み替えることもできますので、だいぶ柔軟な対応ができるようになりました。

注意点としては、ただし書きの部分です。特定の家族従業員に多額の処遇改善加算を支払うといった行為は、今後の実地指導で厳しく見られる可能性がありますのでくれぐれもご注意ください。

また、代表取締役、代表理事、理事長など、代表権をもつポジションにある方を支給対象にすることは完全にNGです。代表権がない一般の取締役、一般の理事の方であれば、従業員兼務役員として従業員性があることをきちんと雇用契約書で示せることが重要です。

福祉・介護職員等ベースアップ等支援加算

令和4年10月1日からスタートした加算になります。ベースアップ等支援加算の内、2/3以上が基本給等(基本給又は決まって毎月支払われる手当)で支給しなければならないルールとなっています。その内容は、(新)処遇改善加算において、「月額賃金改善要件Ⅱ」に引き継がれています。

令和7年度からは、処遇改善新加算Ⅳの1/2以上を月額(基本給又は固定的賃金)により支給しなければならない月額賃金改善要件Ⅰの適用が始まります。令和6年度においては、新しい処遇改善加算開始年度ということもあって、本格的な運用開始に向けた猶予期間としての対応となりますが、令和7年度の本格的な運用に向けて、今年度は1年間かけて処遇改善加算の分配方法をよく検討しなければならない年度となります。

今まで一時金又は賞与をベースに処遇改善加算の分配を行っていた事業所において従来の加算要件を維持するためには、月額給与に振り替える対応を講じなければならない場合も出てくるかもしれません。その為にも、この猶予期間中に経験・資格等に応じた昇給又は定期昇給の仕組みをきちんと整備することが重要です。

以前、行政の実地指導で「処遇改善加算は取ることを前提として設けられた制度」と説明を受けたことがあります。今までは要件のハードルが厳しく、より高い処遇改善加算を取ることに躊躇している事業者も多く見受けられましたが、今回かなり親切設計となっており、昇級の仕組みの整備に必要なひな形まで国が用意してくれています。また、今年度においては、キャリアパス要件の多くを令和6年度中に整備すればよいこととなっており、1年間の猶予期間を設けてくれていますので、まだ体制が未整備の事業者においても、積極的に「(新)処遇改善加算Ⅰ(またはⅡ)」を目指していただければと思います。

参考2 キャリアパス・賃金規程例(小規模事業所用))※一番右のシートです。

最後に

処遇改善加算の実務対応の難しさは、計画書を出して加算を申請することにあるのではなく、受け取った加算を対象職員の皆さまへどう分配するかにあります。令和6年4月15日提出期限の申請を終えてホッとしたいタイミングではありますが、早めの段階で適正な支払方法の検討に向けて協議を始められることをお勧めします。また、令和6年4月15日の提出期限に間に合わなかった事業者であっても、年度の途中から申請することも可能です。詳しくは、厚生労働省コールセンターや所轄の自治体窓口にご相談ください。

【福祉・介護職員処遇改善 厚生労働省コールセンター】

電話番号:050-3733-0230
受付時間:9:00~18:00(土日含む)

最後までお読みいただきありがとうございます。

ABOUT執筆者紹介

中山卓

社会保険労務士 キャリアコンサルタント 社会福祉士 保育士
社会保険労務士法人オフィスALPACA 代表社員
株式会社エンパワーメント・ジャパン 代表取締役
一般社団法人さくらキャンプ 代表理事

 

静岡県三島市出身。静岡県東部の会計事務所にて、主に福祉関係の顧問先を数多く担当。2013年より障害福祉事業に特化した社会保険労務士事務所として独立開業し、北は北海道、西は九州まで、オンラインと対面によるサポート体制により、全国の顧問先約200社超。2017年より放課後等デイサービス『さくらキャンプ』を立ち上げ、発達に課題を抱える児童の通所支援事業にも携わる。また、社会保険労務士による日本初の法律系ロックバンドWORKERS!のリーダーとしても活動中。「ロックで伝える社会保険」をテーマに社会保険、労働法をわかりやすく伝えるための活動を行っている。

社労士バンドWORKERS!と弁護士倉重公太朗氏と法政大学キャリアデザイン学部松浦ゼミの学生たちとのコラボ企画により「キャリア自律の歌 制作プロジェクト」が目下進行中。現在、法政大学大学院キャリアデザイン学研究科在学中。

社会保険労務士法人オフィスALPACA
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社労士バンドWORKERS! オフィシャルWEBサイト

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