07 May

融資審査のとき、銀行員は何を見ているか【企業評価編】

掲載日:2019年05月07日   
税務ニュース

≪2019年4月から変化する金融行政≫

2019年3月31日をもって金融庁が銀行に長年課してきた「金融検査マニュアル」の運用が廃止されていきます。これは、金融検査マニュアルが銀行の融資姿勢を委縮させ、金融仲介機能を麻痺させ、融資が伸び悩んできたという弊害を金融庁自らが認め、金融行政の方針を転換するに至ったためといえます。また金融庁はこれと前後して銀行に対し「事業性評価融資」への取り組みを推進しています。事業性評価融資はまだ馴染みが薄いですが、基本的には「担保や保証に依存しすぎず、企業・事業全体を評価して融資する」という本来あるべき融資の姿です。

このような金融庁の方針転換が今春から広く反映されることになりますが、すでに銀行では自己査定や企業格付制度も根付いており、金融検査マニュアル廃止による大きな混乱は生じないと思われます。

≪これまでの銀行融資の状況≫

業績優秀な企業を除いて中小企業向け融資のほとんどは、不動産担保、預金・有価証券担保、信用保証協会付き、連帯保証人といった「担保と保証」でガチガチに固められた状況です。プロパー融資(銀行独自融資)ましてやプロパーの無担保融資も多くはないといえます。しかも、多くの銀行ではプロパー融資よりも保証協会付融資を優先することが多く、案件審査は信用保証協会に丸投げに近い状況にあると言っても過言ではありません。なお、信用保証協会の保証額と無担保枠には限りがあり、無担保枠の上限が融資残高の上限になるということも少なくありません。

プロパー融資では、財務分析システムによる算出結果をベースに「定量評価」に偏りがちな「企業格付(※1)」と不動産・預金等の物的担保に基づく審査がベースとなっています。プロパー融資の無担保部分は企業格付の高い企業では相応に与えられるものの、企業格付が中位以下の場合は無担保部分を期待できないような状況です。

(※1)企業を総合評価により指標化し10~15段階に区分します。格付により融資の金利、最長期間、無担保上限額などが自動的に算出されます。企業格付は自己査定の債務者区分「正常先、要注意先、要管理先、破綻懸念先、実質破綻先、破綻先」とも連動します。融資残高が一定基準に満たない場合は、格付が付与されないこともあります。

≪銀行員は何を見ているか≫

精緻な財務分析システムを持つ銀行では、企業の決算書から総合評価点数、粉飾度合、倒産確率なども自動で弾き出されますので、紙の決算書から企業の財務内容を正確に把握・評価できる銀行員は多くないと言えます。

では銀行員は何を見ているか。
極端に言えば「売上の増減はどうか、黒字か赤字か、預金・融資残高はどうか、担保はあるか、保証協会の枠はあるか」程度です。とはいえ、企業融資に精通した銀行員は財務内容の隅々までチェックし、減価償却資産や在庫リスト等の内容も把握した上で、機械や車両の稼働状況、工場や従業員の様子、製品や商品の流れ方といった数字に表れにくい「定性的な面」を見て実態把握に努めています。経営者や経理担当者との面談、訪問調査、外部調査資料等も重ね、企業のビジネスモデル、付加価値を生む仕組み、市場競争の優位・劣位性の要因なども把握し、定量的な面と定性的な面の両方を企業評価と融資審査に反映させています。

またメインバンクであれば、売上や仕入を預金の動きから把握したり、日々の売上や製造ラインの状況、資金繰りも常に気に留めたりしています。
ただ、銀行も人手不足感もあり、かつてのように細かな状況把握に時間を費やせず、企業融資に精通した銀行員が稀有な存在になってきています。

≪これからの企業評価の指針と企業の対応≫

金融庁より「事業性評価融資」の推進を求められており、銀行は企業評価に各自の指針や手法を織り込まねばなりません。とはいえ始まって間がない制度であり、独自色を打ち出すにはまだ時間が必要かと思われます。(ただ、担保や保証については現状では大きく変わりません。)

融資における企業評価手法には、企業の財務内容の裏付けとなるビジネスモデル、販売先・仕入先・提携先のネットワーク、特許・意匠・商標等の知的財産、のれん・ブランド・技術力・販売営業ノウハウ・保有資格・地域特性等の無形資産などを的確に評価する「目利き能力を持つ人材」が必要ですが、銀行が独自で人材を育成するには時間が掛かります。(外部専門家に一部を委託する可能性はあります。)

とはいえ企業は自社を正しく、より高く評価してもらえるよう、先手を打つ必要があります。銀行が納得する資料や判断材料をもって説明することは今後も同じですが、ビジネスモデル等を図式化したり、分かりやすい説明書を準備したり、決算書のほか試算表、資金繰表、受注明細、経営計画書等を作成・提示していくことが大切になってきます。また時代に合わせた事柄も評価材料になりますのでブラッシュアップしていくように心掛けましょう。

ABOUT執筆者紹介

中小企業診断士
北谷 政典

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