離職を防げ!不妊治療と仕事の両立のために会社はどう取り組むか?
社会保険ワンポイントコラム
近年の晩婚化等を背景に、不妊治療を受ける夫婦は増加しており、公益社団法人日本産科婦人科学会の2019年調査(ARTデータブック)によると、日本では14人に1人が生殖補助医療により誕生しているようです。出生数の低下や、治療に多額の費用がかかることから、不妊治療の保険適用も議論されておりましたが、2022年4月から保険適用されることになりました。
また、2021年2月に次世代育成支援対策推進法(以下「次世代法」)に基づく行動計画策定指針が改正され、一般事業主行動計画に盛り込むことが望ましい事項として「不妊治療を受ける労働者に配慮した措置の実施」が追加、2021年4月より適用され、従業員101人以上の企業には、行動計画の策定・届出、公表・周知が義務付けられています。働きながら治療を受ける人も増加しており、会社としても理解や対応が必要となります。
今回は、不妊治療と仕事の両立の現状と、会社としての取組について解説します。
不妊治療と仕事の両立について
「不妊」とは、妊娠を望む健康な男女が避妊をしないで性交をしているにもかかわらず、一定期間妊娠しないことをいいます。公益社団法人日本産科婦人科学会では、この「一定期間」について「1年というのが一般的である」と定義しています。
2017年に厚生労働省が企業および労働者に対し実施した調査では、不妊治療をしたことがあると答えた人の割合は13%、そのうち不妊治療と仕事の両立ができずに退職した人は16%でした。不妊治療と仕事を両立している人のうち、両立が難しいと感じた人の割合は87%、難しいと感じる理由については、「通院回数が多い」、「精神面で負担が大きい」「待ち時間など通院時間にかかる時間が読めない、医師から告げられた通院日に外せない仕事が入るなど、仕事の日程調整が難しい」が多くなっています。不妊治療と仕事の両立ができず離職する従業員が増加することは、労働力の減少、採用費用の増加等、企業にデメリットをもたらすため、職場の理解や対応がいっそう求められるといえます。
不妊治療の保険適用について
国の審議会(中央社会保険医療協議会)で審議された結果、関係学会のガイドラインなどで有効性・安全性が確認された次の治療については、2022年4月から保険適用されるようになりました。
保険適用の対象となる治療内容は、「一般不妊治療」と「生殖補助医療」に分れます。また、生殖補助医療のうち、次の内容に加えて実施されることのある「オプション治療」については、保険適用されたものや、「先進医療」として保険診療と併用できるものがあります。
更に、不妊治療は保険診療となりますが、次の制限があります。
そして、窓口での負担額は治療費の3割負担となり、高額療養費制度の対象となりますので、治療費が高額な場合、月額上限もあります。保険適用によって、治療を受けやすくなったといえますので、これまで断念していた夫婦も不妊治療に取り組むケースは増えると思われます。
会社としてどう取り組むか
不妊治療が保険適用されるようになり、経済的な負担は軽減されることになりましたが、不妊治療は、頻繁な通院が必要であったり、個人の状況や病院の込み具合により予定通りにいかなかったりということも多くあり、仕事との両立が困難になりがちです。
それでは、会社としては、どう取り組めば良いのでしょうか。
厚生労働省が事業主・人事部門向けに作成した「不妊治療を受けながら働き続けられる職場づくりのためのマニュアル」において、会社が社員の不妊治療と仕事との両立支援の取組を行うには、以下のステップが必要としています。それぞれ詳しくみていきましょう。
① 取組方針の明確化、取組体制の整備
会社の方針をトップが示すことで、従業員が制度を利用しやすくなるとともに、上司や同僚のサポートも得やすくなります。取組方針の明確化や主導する部門や担当者の設定は制度設計や取組を進める上で重要といえます。
② 社員の不妊治療と仕事との両立に関する実態把握
会社としてどういった取り組みが必要なのかを知るためにアンケートの活用などで実態把握をするとよいでしょう。不妊治療をしていることを知られたくない人もいますので、アンケートについては、匿名とすることをおすすめします。
③ 制度設計・取組の決定
実態把握した結果を踏まえて、制度設計をします。不妊治療をしている(または予定している)従業員が会社や組織等に希望することとしては、「不妊治療のための休暇制度」や「時間や場所にとらわれない柔軟な勤務を可能とするフレックスタイム制度や在宅勤務制度」「有給休暇を時間単位で取得できる制度」が多く挙げられていますが、その他、「有給休暇など現状ある制度を取りやすい環境作り」や「上司・同僚の理解を深めるための研修」等もあるようです。
仕事との両立の難しさに仕事の日程調整の難しさを理由に挙げる人も多いことから、対応したいものです。必要であれば就業規則の整備も必要です。また、環境整備に取り組む中小企業は「両立支援等助成金」も利用できますので、助成金受給もあわせて検討しても良いかもしれません。
④ 運用
制度利用が円滑に行われるよう、制度の周知が必要です。また、不妊治療をしていることを職場の一部にでも伝えている人のうち、職場で上司や同僚から嫌がらせや不利益な取扱いを受ける人もいるようですのでハラスメントが生じない取り組みも必要です。
⑤ 取組実績の確認、見直し
一定期間経過後、取組実績を確認し、自社の制度が従業員の要望に対応しているか、利用しやすいか等の確認、見直しをし、より良い制度にしていく必要があります。
今回は、不妊治療と仕事の両立についての現状と、会社としての取組について解説しました。不妊治療が身近になった現在、不妊治療と仕事の両立に悩む従業員を支援するためには、まずは職場の従業員一人一人が不妊治療について正しく理解し、支援する気持ちを持つことが大事ではないかと思います。そのためにも、会社としては積極的に取り組んでいきたいものです。
ABOUT執筆者紹介
松田法子
人間尊重の理念に基づき『労使双方が幸せを感じる企業造り』や障害年金請求の支援を行っています。
採用支援、助成金受給のアドバイス、社会保険・労働保険の事務手続き、給与計算のアウトソーシング、就業規則の作成、人事労務相談、障害年金の請求等、サービス内容は多岐にわたっておりますが、長年の経験に基づくきめ細かい対応でお客様との信頼関係を大切にして業務に取り組んでおります 。
[democracy id=”330″]