14 January

概算取得費と市街地価格指数

掲載日:2025年01月14日   
税務ニュース

概算取得費とは

個人が資産を譲渡した場合には、譲渡所得が課税されることになりますが、譲渡所得は資産を譲渡した収入から、その資産の取得費と仲介手数料など譲渡に要した費用を控除して計算されます。しかし、先祖代々相続してきた土地など、資産の取得費がわからない資産は実務ではよく見られます。このような資産については、概算取得費という計算で取得費を計算することになります。

この概算取得費ですが、譲渡収入の5%とされています。言い換えれば、資産の取得費が不明の場合には、概ね譲渡収入の95%が課税対象になる訳で、大きな税負担となります。

市街地価格指数という評価

概算取得費では取得費の金額が低すぎることもあり、実務上概算取得費に代えて、他の方法で取得費を推計することができないか問題になります。このような場合に使える方法として、よく言われるのが市街地価格指数という指数を使った方法です。この方法は、土地の取得費を推計する場合に使われる方法で、実は税務署が、取得費が分からない土地の譲渡所得を計算するために課税上使い、課税処分の適否を判断する国税不服審判所でも合理的とされました。

具体的には、市街地価格指数は市街地の宅地価格の推移を指数化した指数ですので、現時点の指数を土地を取得した時点の水準に合わせることで、取得時の大まかな土地の時価を推計することができます。このようにして推計した土地の時価を土地の取得費とすることが実務ではよく見られます。

しかし、市街地価格指数は柔軟に使えるものではありません。「市街地」の指数ですから都市部でないと妥当性がないとされますし、この指数は「宅地」を対象にしたものですから、例えば「農地」の取得費を推計することはできないとされます。実際、国税不服審判所も認めた方法なのに、税務署から否認された事例も多数ありますので注意してください。

概算取得費と更正の請求

市街地価格指数に止まらず、その他の方法で資産の取得費を推計する方法もリスクはゼロになりませんので、概算取得費を選択される方も多いと思われます。しかし、一旦概算取得費を選択してしまえば、後日市街地価格指数などによって推計した取得費を使い、税金の計算をやり直して還付を受ける、といったことはできません。なぜなら、このように税金の計算を修正して還付を受ける手続きを更正の請求といいますが、更正の請求は計算が法律に従っていないような場合にしかできない、とされているからです。

法律上、資産の取得費が分からないものについては、概算取得費で計算しなければならない、とされていますので、概算取得費で計算しても法律の規定に従っていることから、更正の請求は認められないと結論付けられるのです。このため、推計した金額を取得費とするのであれば、最初の申告でリスクを取って行う必要があります。

実額証明ができれば大丈夫

ただし、この更正の請求の取扱いにも例外があります。それは、申告した後、後日売買契約書が見つかるなどして実際の取得費が判明した場合です。この場合には、その実際の取得費が概算取得費を超えている場合、更正の請求により所得税の還付が認められます。

この理由は、概算取得費は法律上、正確には①実際の取得費が分からない場合及び②実際の取得費が分かり、その金額が譲渡収入の5%を下回る場合のいずれかの場合に適用されると規定されているからです。このため、実額が判明し、その金額が5%を超えれば、法律上概算取得費を使うことはできません。すなわち、この場合には概算取得費による計算は法律に従っていない計算ということになり、更正の請求の対象になるのです。

いずれにしても、実額が証明できれば問題ありませんので、土地などの資産の取得費については、それを証明できるよう資料の保存にも注意しましょう。

ABOUT執筆者紹介

元国税調査官・税理士 松嶋洋

昭和54年福岡県生まれ。平成14年東京大学卒。国民生活金融公庫(現日本政策金融公庫)、東京国税局、日本税制研究所を経て、平成23年9月に独立。現在は税理士の税理士として、全国の税理士の税務調査や税務相談に従事しているほか、税務調査対策・税務訴訟等のコンサルティング並びにセミナー及び執筆も主な業務として活動。

著書に『最新リース税制』(共著)、『国際的二重課税排除の制度と実務』(共著)、『税務署の裏側』、『社長、その領収書は経費で落とせます!』『押せば意外に税務署なんて怖くない』などがあり、現在納税通信において「税務調査の真実と調査官の本音」という500回を超える税務調査に関するコラムを連載中。

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