【創業ガイド Vol.12】「法人設立後の役員報酬の決め方 個人と法人の税負担のバランスが大事」
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法人設立後、「役員報酬の金額はいくらにしたらいいだろう」「どのように役員報酬を決めればいいのか」などの疑問をお持ちの方、多いのではないでしょうか。これからご説明する役員報酬のルールを守る範囲であれば、基本的に役員報酬は自由に決定することができます。
例えば、赤字の会社でも役員報酬は支給することができますし、売上や利益の何%以内にしなければならないなどのルールは存在しません。
今回は、
- 役員報酬の金額の決定の仕方のポイント
- 役員報酬を決定する際のルール
についてまとめてみました。
役員報酬の金額の決定の仕方
個人と法人の税負担のバランスが大切
役員報酬を800万円に設定した場合で考えてみましょう。その結果、赤字が100万円なので、法人での税金負担は※ほとんどありませんでした。法人の税負担がなくて、よかったです!!という話では実はないのです。
役員報酬を800万円にしていますので、この分は、個人に対して課税される「所得税」がかかります。
したがって、個人での税金、法人での税金をそれぞれ考えていくことが必要になります。単純に税負担を一番少なくしたいということであれば、個人と法人の税負担を合算して、一番税負担が低くなるように役員報酬を設定するのがオススメです。
※地方税の均等割などは負担あり
その他の役員報酬の決め方
法人と個人とどちらにお金を残していきたいか?これも役員報酬の決め方で考えるべきポイントです。法人にしっかりとお金を残して、次のステージに投資を行いたい場合は、役員報酬は低めに設定して会社にお金を残すこともありますし、個人で住宅ローンを組みたいとお考えの場合は、役員報酬を高く設定することで、審査に有利になることもあるでしょう。
社会保険の負担も忘れずに検討
税負担というと、法人税や所得税だけではありません。役員報酬を支給すると、社会保険がかかります。役員報酬が高ければ高いほど、当然社会保険の負担も増しますので、併せて検討していきましょう。
役員報酬の相場は?
役員報酬は、他社はいくらぐらい支給しているのだろうというのは、気になるところです。
資本金2000万円未満の役員報酬は605万円、2000万円以上の企業では850万円という統計データがあります。
企業規模 資本金 | 役員の平均年収 |
---|---|
資本金2,000万円未満の株式会社 | 605万円 |
資本金2,000万円以上の株式会社 | 850万円 |
資本金1億円以上の株式会社 | 1,392万円 |
業種や規模により異なりますので、この数字と乖離するケースもありますが、一般的な水準としてご参考にされてみてください。
役員報酬のルール
役員報酬には、ルールが法律で決められています。そのルールに従って、報酬を決定して支給を行わない場合、法人税の計算をする際に、「税務上の経費にできない」などで税負担が多くなり、損をすることもあります。
これからお伝えする役員報酬のルールは、法人を経営していく上では基本的なルールになりますので、今回でしっかりおさえておきましょう。
定期同額給与
役員報酬の金額は、好きな時に変更してはいけません。「定期同額給与」というルールがあります。
「定期同額給与」とは、1カ月以下の一定期間ごとに定額で支払い続ける給与であり、特別な届出等は不要で経費にすることができる役員報酬です。このルールにしたがって、役員報酬の金額は、毎月同額で、一定期間ごとに定額を支給しなければなりません。また、不相当に高い金額の場合は、法人税法上も費用となりません。
また、役員報酬の金額は、「期首から3カ月以内に決定」しなければなりません。特殊なケースに該当しない限り、この3カ月をすぎてから変更をすると役員報酬の金額が一部費用として認められず、税負担が増えることがあります。
※特殊なケースは、以下臨時改定事由で説明。
役員賞与の取り扱い 事前確定給与
役員賞与として、毎月一定額で支給する役員賞与は、金額と支給日などを期限までに税務署に届け出ておくことで、費用とすることができます。これを「事前確定届出給与」と言います。
しかし、事前確定届出給与の適用を受けるには、一定の期限までに「事前確定届出給与に関する届出」の提出が必要です。この届け出を出すことなく、役員賞与を支給しても、上でご説明した定期同額給与に該当しませんのでご注意ください。「事前確定届出給与」は、一度出すと届け出通りの支給日と金額で支給をしないと、税法上費用とならず、非常に縛りが厳しい規定です。
株主総会の決議が必要
役員報酬の決定は、「株主総会の決議」取締役会の決議が必要となります。
ただし、実務上は株主総会で決めるのは役員報酬の総額のみで、個々の役員の報酬は取締役会または代表取締役で決めるよう一任されるケースも多いです。
臨時改定事由
定期同額給与が基本ルールですが、役員の地位の変更や業務内容の重大な変更があった場合の役員給与の金額の変更(改定)は、認められます。
①役員の地位変更
例えば、社長の退任に伴い、副社長が新社長として就任するケースなどをいいます。
②業績悪化
会社の業績が悪化したなどの事由で行う役員報酬の減額改定については認められます。
まとめ
役員報酬の金額設定のポイントや役員報酬のルールをお伝えしてきました。
このまとめの内容で、小規模な会社で必要な役員報酬の知識は網羅しています!!
今回紹介した内容を参考にご自身と会社にとって一番よい役員報酬の金額をご検討ください。
ABOUT執筆者紹介
税理士 吉村知子
ビジネス拡大のため、開業してから法人化を目指す個人事業主や法人のための税理士として、ともにビジネスの飛躍を目指す経営のサポートを行う。また、法人や個人事業主の顧問契約だけでなく、個人事業主向けの講座を開講。確定申告をゴールとしながら、経営者として必要となるお金の知識を学ぶオンラインプログラムが大好評。