31 January

給与所得と、副業の事業所得がある場合のはじめての確定申告

掲載日:2024年01月31日   
税務ニュース

終身雇用制度の縮小や非正規雇用の増加など、労働市場の変化に伴い、多くの労働者が安定した収入を確保するために副業に取り組むようになっています。副業は、異なる分野でのスキルや経験を積む機会となり、キャリアの多様化に貢献するといわれています。また、個人の成長や新たなキャリアパスの開拓にも役立っていることでしょう。

従来は副業を禁止または制限する企業が多かったですが、最近では副業を許可する企業が増えています。これは従業員のワークライフバランスの向上や、多様な経験を通じた人材の成長を促すためなどといわれます。

今回は、給与所得と事業所得の両方がある場合の確定申告について、はじめての方に知っておいていただきたいことについてふれていきます。

事業所得の計算の概要

まず、事業に関連して得たすべての収入を集計します。これには、販売収入、サービス提供による収入、事業に関連するその他の収入が含まれます。必要経費について、事業運営にかかった費用(必要経費)を計上します。主には、材料費、仕入、交通費、交際費、通信費(電話、インターネット等)、家賃や水道光熱費(事業用の部分)、機器、備品の購入費や修理費、広告宣伝費といったものがあげられます。これらの経費は、事業と直接関連している必要があり、適切な証拠(領収書や契約書など)を保持しておく必要があります。

上記の集計後に、総収入から必要経費を差し引き、事業所得を算出します。1か所のみの給与が年末調整済みでその他の所得がなく、事業所得が20万円未満であれば確定申告をする必要はありません。

また、青色申告の承認を受けている場合で、帳簿への記載や申告期限などの要件を満たすことができれば、最大65万円の特別控除を受けることができます。これにより、事業所得からさらに一定額を控除できることがあります。

給与所得が年末調整されていれば確定申告には無関係?

本業の給与所得は、年末調整されているのが一般的ですので、雇い主から受領した給与所得の源泉徴収票を用いて確定申告をおこなうことになります。年末調整が完了しているからという理由で、確定申告に含めなくても良いのではないか、という質問を受けることがあります。これについては、納税済みの所得税を重複して納めるというわけではなく、給与所得とその他の所得を合算して算出した所得税と、給与所得で納税済みの所得税との差額を納付するというイメージになりますので、必ず確定申告には含めることになります。お気を付けください。

事業所得申告に添付する資料と不要な資料

事業所得の場合、申告の添付資料として決算書(青色申告の場合)や収支内訳書(白色申告の場合)を作成します。日々の請求書や領収書を提出することは、申告時には求められていません。ただし、すぐに破棄することもできません。整理して保管しておく必要があります。添付資料は、日々の取引を記帳、集計することで作成しますので、会計ソフトを利用すると便利です。

会計ソフトを利用することで複式簿記の原則に基づいた帳簿を作成することも可能になり、青色申告にもチャレンジしやすくなります。知識は必要ですが事業を行う上で価値のある知識ですのでぜひチャレンジしてみていただきたいです。会計ソフトの便利な機能と、アシストヘルプ機能を使って、多くの方が青色申告に取り組んでいる印象です。決算書や収支内訳書は、事業所得の金額を表す資料として利用され、それら資料に記載されている金額を確定申告書に転記し、添付もすることになります。

確定申告書の作成をより簡単に行うには?

給与所得の金額は、源泉徴収票に基づいて転記、事業所得の金額は決算書・収支内訳書から転記をします。それらを合わせて所得の合計額を算出した後は、合計所得から控除できる項目について記入、計算をします。いわゆる所得控除です。主には、社会保険料控除、生命保険料控除、地震保険料控除、医療費控除、寄付金控除、扶養控除、基礎控除といったものがあげられます。年末調整の際に差し引かれた所得控除も、源泉徴収票から転記して記載します。また、年末調整では控除することができない、ふるさと納税などの寄付金控除や、医療費控除などについても記入が必要です。

確定申告書は、確定申告書作成コーナー(※)の利用、あるいは各会計ソフトで利用できる電子申告の機能を利用するのがおすすめです。これらを利用することで、入力するべき箇所に迷うことがなく、申告書内の自動計算箇所の入力を省略することができるからです。

また、国税庁のウェブサイトからダウンロードしてe-Taxを利用することもできますし、紙で提出することも可能ですが、これらは入力を省略できる部分が少ないため、やや難易度が高いです。

確定申告の提出できる期間はあらかじめ決まっている!

提出期限は確定申告該当年の翌年2月16日から3月15日までです。ただし、申告により還付税額がある場合には、還付申告の扱いになり翌年1月1日から申告が可能です。

納税を忘れずに

申告書を提出して安心してしまう前に、納税の手続きを忘れずに行ってください。納税の方法も毎年利便性が高まっており、インターネットバンキングも対応可能ですし、クレジットカードなどの利用も可能です。クレジットカード納付は、利用のための手数料がかかってしまいますのでご注意を。できれば手数料がかからない方法をおすすめします。私の一番のおすすめは振替納税という方法です。振替納税なら、振替日(令和5年分の振替納税日は令和6年4月23日)まで無利息で納税時期を遅らせることができるからです。一部のネットバンクでは取り扱いができませんが、納期限までに振替納税の手配をすれば令和6年3月15日納期分からの振替もできますので、ぜひ取り入れてみてください。

おわりに

確定申告は、一年間の事業成績を表すと同時に、ご自身の経済状況を正確に理解し、社会的責任を果たす重要なプロセスです。多くの書類や計算が必要で、時には複雑に感じるかもしれませんが、一歩一歩丁寧に進めていくことで、事業の課題と向き合う絶好の機会となります。必要経費の計算や所得控除の適用など、細かい部分にも注意を払い、正確な申告を心掛けましょう。一連のプロセスを通じて、今後のビジネス展開に役立つ力を身につけることができると信じています。

ABOUT執筆者紹介

税理士 うばとしこ

税理士。大学卒業後、大手リース会社の営業職、税理士事務所への転職、結婚、出産を経て、2016年4月に税理士登録、2017年11月に独立開業。主に法人税務顧問のほか個人事業主を対象とした経理サポートのオンラインサロン「ゆるふわ経理部」を主宰。YouTube「ゆるふわチャンネル」での発信活動、全国各地の商工会議所や法人会、その他上場企業からの直接オファーで年間約50本のセミナー講師を務める。各種媒体への執筆活動は多数実績あり。2022年6月「経理マインドの強化書」出版/中央経済社、2023年5月「図解と会話でまるわかり!インボイスと消費税がすべてわかる本」出版/ソーテック社

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「経理マインドの強化書」出版/2022年6 中央経済社
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