新型コロナウイルス感染症予防の為に出勤自粛を要請できるのか?
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新型コロナウイルスが初めて中国の武漢で発症した2019年12月8日から丸1年が経ちました。感染者数の増加、ワクチン開発の動向、GoToトラベルなど、新型コロナに関連する話題が相変わらず世間を賑わせています。
自治体による不要不急の外出自粛要請が叫ばれる中で、航空機で県外に旅行した者への対応、身近に濃厚接触者がいた場合の対応・・・等、企業側が従業員のプライベートな行動にどこまで関与できるか、対応に苦慮されているケースがあると思います。
新型コロナウイルス感染症の拡大防止が強く求められる中で、事業主が自主的に従業員を休業させる場合については、法はどのようなスタンスを取っているのでしょうか?
1.原則
一般的に会社側の自主的判断で休業させる場合には、労働基準法第26条の「使用者の責に帰すべき事由による休業」にあてはまり、休業手当(平均賃金の100分の60以上)を支払う義務が発生します。
例えば、発熱などの症状があることのみを理由に一律に従業員を休ませる場合も「使用者の責に帰すべき事由による休業」にあてはまり、休業手当を支払う義務が発生します。また、休業手当を支払った場合、支給要件を満たせば、雇用調整助成金の支給対象になります。
2.例外
不可抗力による休業の場合は、使用者に休業手当の支払義務はありません。
ここでいう不可抗力とは、
- その原因が事業の外部より発生した事故であること
- 事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故であること
この2つの要件を満たすものでなければならないと解されています。
具体的には、海外の取引先が新型コロナウイルス感染症を受け事業を休止したことに伴う事業の休止である場合等、企業側が配置転換や在宅勤務などで休業回避の努力をもってしてもどうにもならない事態に限られています。このように、休業手当の支払い義務を免れるケースというのはかなり限定的なため、会社側の自主的判断で休業させる場合の多くのケースでは、休業手当(平均賃金の100分の60以上)を支払う義務が発生する、と考えておいた方がよさそうです。
それでは、あくまでも本人の自主的な自宅待機を促す「出勤自粛要請」の場合はどうなるのでしょうか?
3.「出勤自粛要請」の場合
会社側が自宅待機を命ずる場合と違って、年次有給休暇で対応することも考えられます。ただし、年次有給休暇は、原則として労働者の請求する時季に与えなければならないものなので、会社が一方的に取得させることはできません。そのためにも、あらかじめ新型コロナ感染症予防に対するガイドラインを策定し、従業員に周知しておくことが望ましいと思います。ガイドラインには、発熱があった場合の取り扱い、県外に出かけた場合の取り扱い、本人や家族に濃厚接触が認められた場合の取り扱い、自宅待機の期間とその間の処遇、PCR検査実施時のルール等を定めておきます。また、年次有給休暇の残日数がない者については、年次有給休暇の先取り取得を認めてあげる等、柔軟な対応をしてあげることも有用です。
航空機で旅行に行ったケースなどでは、旅行部分は有給扱い、自宅待機命令部分は休業手当という複合型もあり得ると思われます。
まとめ
- 会社側の出勤自粛要請は可能。ただし、業務命令として自宅待機させる場合は、休業手当(平均賃金の100分の60以上)を支払う義務が発生する。
- 年次有給休暇が残っている場合は、年次有給休暇で対応することも一案。ただし、企業側の一方的な年次有給休暇への振り替えは不可。
- 休業手当を支払った場合、支給要件を満たせば、雇用調整助成金の支給対象になる。
- 新型コロナ感染症予防に対するガイドラインを策定しておく。
ということになります。
細かい詳細については、厚生労働省の特設ページに記載されています。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00007.html#Q4-1
新型コロナウイルス感染症予防の方針について、会社と従業員間で十分に話し合ったうえで、お互いに協力しあって安心して休むことができる体制を整えていただくことが懸命です。
最後までお読みいただきありがとうございました。
ABOUT執筆者紹介
中山卓
社会保険労務士 キャリアコンサルタント 社会福祉士 保育士
社会保険労務士法人オフィスALPACA 代表社員
株式会社エンパワーメント・ジャパン 代表取締役
一般社団法人さくらキャンプ 代表理事
静岡県三島市出身。静岡県東部の会計事務所にて、主に福祉関係の顧問先を数多く担当。2013年より障害福祉事業に特化した社会保険労務士事務所として独立開業し、北は北海道、西は九州まで、オンラインと対面によるサポート体制により、全国の顧問先約200社超。2017年より放課後等デイサービス『さくらキャンプ』を立ち上げ、発達に課題を抱える児童の通所支援事業にも携わる。また、社会保険労務士による日本初の法律系ロックバンドWORKERS!のリーダーとしても活動中。「ロックで伝える社会保険」をテーマに社会保険、労働法をわかりやすく伝えるための活動を行っている。
社労士バンドWORKERS!と弁護士倉重公太朗氏と法政大学キャリアデザイン学部松浦ゼミの学生たちとのコラボ企画により「キャリア自律の歌 制作プロジェクト」が目下進行中。現在、法政大学大学院キャリアデザイン学研究科在学中。
社会保険労務士法人オフィスALPACA
株式会社エンパワーメント・ジャパン
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社労士バンドWORKERS! オフィシャルWEBサイト
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