25 July

インボイス事業者への登録は必須?フリーランス・クリエイターは3つの視点で「防御力」を高めてインボイス制度に対応しよう。

掲載日:2022年07月25日   
税務ニュース

「損をする」「取引が減る」「免税事業者がいなくなる」など、巷で何かと噂されることが多いインボイス制度。でも、慌ててはいけません。大切なのは、インボイス制度による影響や負担を正しく理解し、事前に対策を行うことです。

そこで説明したいのが、クリエイターのインボイス制度に対する「防御力」。本コラムでは、クリエイターがインボイス制度に対応するためのポイントをやさしく解説します。

インボイス制度はクリエイターにとって影響が大きい?

インボイス制度の概要を簡単におさらい

まず、インボイス制度と消費税の計算の仕組みについて、簡単におさらいしましょう。
インボイス(invoice)とは、「商品の明細が付いた請求書」を意味します。8%や10%などの複数税率のもとで、正確な消費税額・税率等を、売手(受注側)・買手(発注側)・税務署の誰が見てもわかるようにする手段として導入されました。

消費税の納税義務がある課税事業者の場合、消費税の納税額は、売上に含まれる預かった消費税から、仕入や経費に含まれる支払った消費税を差し引いて計算します。この計算の仕組みを「仕入税額控除」といいます。買手(発注側)は売手(受注側)から交付されたインボイスを保存し、正しく帳簿を作成してその帳簿を保存しておくことで、「仕入税額控除」が認められます。

インボイスは消費税の課税事業者でなければ発行できません。そのため、インボイスを発行することができない免税事業者は、①課税事業者になってインボイスを発行するか、それとも②現状を維持して免税事業者のままでいるか、「経営上の判断」が求められることになります。

前者①の場合は消費税の納税負担が発生して「損をする」可能性があり、後者②の場合はビジネス上の関係に影響が生じて「取引が減る」可能性がある、そのため「免税事業者がいなくなる」のではないか、と巷では噂されているわけですね。

 

影響が大きいと予測されるビジネスの特徴は?

インボイス制度による影響が「特に」大きいと考えられる事業者の特徴として、一般的には以下の3つを挙げることができます。

① 現状、消費税の免税事業者である。
② 売上は法人(課税事業者)からの依頼が中心である。
③ 仕入や経費に関する取引先は、個人事業主等の免税事業者が多い。

これをクリエイターに当てはめるとどうでしょうか?

クリエイティブ事業者のうち、映像クリエイターや、漫画家・イラストレーターは、制作会社やプラットフォーム事業者などの法人(課税事業者)から仕事の依頼を受注する、いわゆるB to B取引が売上取引の多くを占めるケースが予想されます。そのため、インボイス制度による影響は大きいと考えられます。また、クリエイティブ事業者の場合、フリーランス・クリエイター同士でパートナーシップを締結して協働することも多く、さらに、駆け出しクリエイターの場合は消費税の免税事業者に該当するケースも多いため、クリエイターが課税事業者を選んだ場合を考慮してもインボイス制度による影響が大きいことが予想されます。

この点、業界的にも懸念点が指摘されています。
日本アニメーター・演出協会(JAniCA)からは、アニメ制作者の多くは個人事業主(免税事業者)に該当すること、彼らはインボイス制度により課税事業者となる選択を迫られること、また、アニメ制作会社にとっても新たな事務負担が発生すること、これらの点により制作現場の環境を悪化させる可能性がある旨が指摘されています。

他にも、国税庁から公開されるインボイス事業者の登録番号を経由することにより、クリエイターの匿名性が保たれない可能性がある点も指摘されています。

 

やはり、事業規模が小規模なクリエイターであってもインボイス事業者への登録は不可欠で、巷の噂のように「損」をしてしまう運命にあるのでしょうか?そうとは限りません。クリエイターが置かれている状況によっては、インボイス事業者に「直ちに」登録することは、かならずしも必要というわけではないのです。

以下では、クリエイターがインボイス事業者に登録する必要性と、クリエイターがインボイス制度に向けて対策するうえでのポイントを、3つの側面から考えてみましょう。ポイントとなるのは、この3つです。

  • 納税の負担
  • 取引先との関係性による影響
  • 経理事務の負担

クリエイターのインボイス制度対策3つのポイント!

ポイント①:納税負担について理解する

免税事業者のクリエイターが、インボイスを発行するために消費税の課税事業者になった場合には、当然ながら、消費税の納税義務が生じます。消費税の計算の仕組みは一言でいうと、「売上に含まれる消費税から仕入や経費に含まれる消費税を差し引く」というものでしたね。特に、漫画家・イラストレーター・ライター・ミュージシャン等に代表されるクリエイティブ事業は、他の業種と比較して「仕入や経費の金額が小さい」という特徴があります。

そのため、消費税の納税負担は、想定していた以上に大きくなってしまうかもしれません。どれくらいの納税負担が生じる可能性があるのか、事前にシミュレーションを行っておくことが大切です。

ポイント②:取引相手との関係性による影響が大きい制度ということ理解する

「取引相手がインボイスを発行できない場合には『仕入税額控除』が認められない」というのがインボイス制度の仕組みでしたね。そのため、「相手がインボイス事業者か否か」という点が、取引相手を選ぶうえで判断基準の一つとなり得ます。

つまり、あなたが受注側のクリエイター(免税事業者)であるケースで、発注側(課税事業者)が消費税の負担を懸念しているような場合には、以下のような可能性が考えられます。

  • 取引継続のための条件としてインボイス事業者への登録を求められる可能性。
  • インボイスを発行できない場合には消費税分を値引きして欲しいと求められる可能性。
  • 免税事業者との取引自体を嫌がられてしまう可能性。

逆に、あなたが発注側である場合には、協働する相手や委託・外注の相手についても同じ観点から考える必要が出てきます。

つまり、もし発注側のクリエイターであるあなたがインボイス発行のため課税事業者になることを選んだ場合には、今後、クリエイティブ事業を一緒に行う同業のクリエイター(免税事業者)との取引をどうするか、先ほどの項目と同様の観点から判断しなければならない立場になるということです。

 

しかし一方で、発注者側の立場の視点に立ってみると、このようにも考えられませんか?

取引相手がインボイス事業者に登録していてもしていなくても、「この人と取引を続けたい」「この人にお仕事をお願いしたい」という関係性ができている場合には、取引相手にインボイス事業者に「直ちに」登録してもらうことは、かならずしも必要ではないかもしれませんね。すなわち、インボイス制度は「取引の相手先ありきの制度」であり、取引先との良好な関係性が築けているか否かという点も、インボイス制度の対策を考えるうえで重要な判断要素になるのです。

後述しますが、「クリエイティブが命」のクリエイターにとっては、この影響が特に大きいのです。

ポイント③:インボイス事業者になると経理事務が煩雑になることを理解する

インボイス事業者になることを選んだ場合の負担は、消費税の納税負担だけではありません。経理事務の負担についても、「覚悟」しておく必要があります。

インボイス事業者になった場合には、経理事務の負担の増加は避けられません。例えば、委託・外注したクリエイター、利用したタクシー事業者、または消耗品を買った個人商店等がインボイス事業者か否かについて、請求書や領収書を逐一チェックする必要が出てきます。さらに、今まで必要がなかった消費税の申告に関する業務等も増えます。

このように、免税事業者がインボイス事業者になると、今までの経理事務の延長線上の感覚では対応が難しくなることが想定されます。

特に、クリエイターにとっては、煩雑になった経理事務に追われて、本業である創作活動に集中できなくなってしまうことにもなりかねません。自身の売上基盤を支える創作活動に支障が出ては元も子もありませんね。

インボイス事業者になることを考えている場合には、会計ソフトの選択や、経理事務をどのように行うか等の業務フローも含めて、事前にしっかりと対策を練っておく必要があるでしょう。

「簡易課税制度」がクリエイターにとっての救済策になる?

インボイス事業者になることを考えている場合には、これらの3つのポイントに加えて、「簡易課税制度」を選択することも検討しましょう。

原則どおりの方法で消費税の納税額を計算する場合には、「仕入や経費の取引ひとつひとつについて、インボイスをチェックしながら帳簿に記帳していく」必要があるため、経理事務が煩雑になります。この点、「簡易課税制度」は、「小規模事業者の事務負担に配慮する観点」から設けられた制度で、「簡易課税制度」を選択することにより、消費税に係る事務負担を大幅に減らすことができます。

「簡易課税制度」を選択した場合のメリットとして、例えば以下のような点が考えられます。

  • 消費税の納税額を簡易的な方法で計算することができる。
  • 仕入や経費の取引先がインボイス事業者か否かを確認する必要がない。
  • 仕入や経費の金額が小さいクリエイターにとっては、原則的な方法で計算した場合よりも、消費税の納税負担が軽減される可能性がある。

他方、「簡易課税制度」を選択した場合には、例えば以下のような注意点もあります。

  • 売上規模が小規模の事業者に限定されている(基準期間の課税売上高が5,000万円以下の場合のみ)。
  • 事前に届出が必要「簡易課税制度」を一度選択すると、原則として2年間は変更できない(2年縛り)。
  • 「みなし仕入率」を使用して消費税の納税額の計算を行うため、仕入や経費について実際に支払った消費税額よりも小さい金額で計算することになる可能性がある。
  • 「簡易課税制度」の選択については、インボイス制度の経過措置も考慮に入れて事前にシミュレーションを行っておくと良いでしょう。

 

「防御力を高めること」がインボイス制度対策のポイント

本コラムでは、クリエイターがインボイス事業者に登録する必要性と、インボイス制度に向けて対策するためのポイントを3つの側面から解説しました。

対策のポイントを一言でいうと、「自分たちにとっての影響や負担を正しく見極めること」です。「税金の負担の面」や「制度の仕組みの面」にばかり目が行きがちなインボイス制度ですが、みなさんの周りにこそ、対策のヒントが溢れています。自分たちのビジネスモデル、自分たちが置かれている現状、そしてインボイス制度による影響や負担を正しく理解したうえで、経理事務等の業務フローを含めて、慌てずに事前の対策を行っておきましょう。インボイス制度については、制度の仕組みや負担についての一般的な理解だけでなく、自分たちの置かれている現状への理解も深めて「防御力を高めること」が大切なのです。

また、クリエイターにとってのインボイス制度は、「取引の相手先との関係性による影響が大きい制度」であるという点が重要です。クリエイターにとっての商品価値は、「創造性・独創性(Creativity)」です。この価値は、市場価値や経済的な合理性だけでは測ることのできないものです。そのため、たとえクリエイターがインボイスを発行できなくても取引関係に直ちに影響が生じない、すなわち、相手がインボイス事業者か否かに関わらず、「この人と仕事をしたい・取引を継続したい」と考えてくれる関係性が取引先と築けている場合には、インボイス事業者に「直ちに」登録することは、かならずしも必要というわけではないのです。クリエイターにとっては、売上を生み出す「攻撃力」である自身のクリエイターとしての価値も、インボイス制度に対する「防御力」になる可能性があるのです。

この点、インボイス制度の導入は段階的に行われ、一定の経過措置期間が設けられています。そのため、取引先側で「仕入税額控除」の金額がゼロになるという影響が直ちに発生するわけではありません。価格についてはお互いに話をよく聞いて相談しながら、ソフトランディングしていくことになるでしょう。

もちろん、事業規模が小規模なクリエイターであっても、「インボイス制度を担う一員となること」についても、考えておく必要があるでしょう。その準備のための「最初の一歩」として、まずは、本コラムで取り上げた3つのポイントを参考にして、インボイス制度に対する理解を正しく深め、事前に対策を行っておきましょう。

取引先とコミュニケーションをとりながら、経理事務フローの見直しにより創作活動を継続できる環境を整え、クリエイターとしての価値を高めていく。そんな観点からインボイス制度への対策を始めてみるのも大切だと考えられます。

(免責事項)本コラムの内容は、投稿時点での税法、会計基準、会社法その他の法令等に基づき記載しています。また、読者が理解しやすいように厳密ではない解説をしている部分があります。本コラムに基づく情報により実務や判断を行う場合には、専門家に相談し、または十分に内容を検討のうえ実行してください。本情報の利用により損害が発生することがあっても、当事務所は一切責任を負いかねます。なお、当事務所では本コラムに関する個別のご質問は受け付けておりません。予めご了承ください。
ABOUT執筆者紹介

税理士 武田紀仁

たけだ税理士事務所

クリエイターとスモールビジネスを支える税理士。クリエイティブ産業で活動する中小法人や、漫画家・イラストレーター・デザイナー・ものづくり作家などの個人事業主(フリーランス)を対象とした税務・会計・経営アドバイザリーサービスを得意とする。また、自身のもう一つのライフワークとして、文化芸術領域の会計と情報開示についての研究活動も行っている。

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