29 March

脱税など不正取引のペナルティー 重加算税と除斥期間の延伸

掲載日:2023年03月29日   
税務ニュース

ペナルティーの重加算税とは

税務調査において、税務署の調査官(国税調査官)が優先するのは、脱税などの不正取引を発見することです。国税調査官は基本的には税務調査で税金を取ることを目的としていますが、中でも不正取引を発見すると、非常に高い評価を得ることができます。1円でも多くの税金を取りたい税務当局にとっては、不正取引の追徴税額は大きくなる傾向がありますから、非常にありがたいのです。

不正取引が行われた場合、税務当局にとってありがたく、翻って私たち納税者にとって大きな負担になるものが二つあります。一つは重加算税というペナルティーであり、もう一つは除斥期間の延伸と言われるものです。前者は税務調査で間違いが発見された場合に上乗せで課される加算税の一つです。加算税は通常の計算ミスの場合、追徴税額に10%~15%程度上乗せで課税されます。しかし、その間違いが不正取引による場合、重加算税という加算税が課されることになり、その割合は原則35%と、飛躍的に割合が大きくなります。

除斥期間の延伸

次の、除斥期間の延伸ですが、除斥期間とはその期間を経過すれば税金を取られないことになる期間を言います。税金の時効は5年、という話を聞いたことがあるかもしれません。これが除斥期間で、法人税の場合、原則として過去5年間の申告については税務調査によりその申告の是正をして税金を取ることができますが、それ以前のものについては、原則として税金を取ることはできません。言い換えれば、5年逃げきれば、過去の法人税のミスを税務当局に問題視されることは原則ありません。なお、除斥期間は税目などによっても異なりますが、法人税や所得税、そして消費税は5年です。

しかしながら、これが不正取引になると話が変わってきます。不正取引をして税金を少なく申告した年度については、上記の5年の期間が2年延びて7年となります。これが除斥期間の延伸であり、2年分税金を取られる期間が増える訳ですから、当然のことながら追徴される税金も飛躍的に増えることになります。

「不正取引」とは何か?

こういう訳で、税務調査では不正取引があれば不利益が膨大になる訳ですが、ここで問題になるのは不正取引とは何か、ということです。法律上、不正取引は「事実の隠ぺい又は仮装」、若しくは「偽りその他不正の行為」と言われます。もう少し正確に申しますと、「事実の隠ぺい又は仮装」があれば重加算税が課税され、「偽りその他不正の行為」があれば除斥期間が延伸されます。これら二つの用語について、税理士などの専門家や国税調査官も同じ意味で捉えていることがありますが、実はその内容は大きく異なります。

「事実の隠ぺい又は仮装」とは、文字通り意図的に売上を申告せずに隠し預金としてプールしたり(事実の隠ぺい)、払ってもない経費を払ったことにしたり(事実の仮装)することを言います。このような行為により、税金が少なくなれば重加算税が課税される訳ですが、よく誤解されるのは「脱税目的」は重加算税の要件には当たらないということです。

例えば、工事担当者が予算消化のために、払ってもない経費を払ったと報告して、その架空の経費を経理が計上してしまったとします。この場合、目的は脱税ではなく予算消化ですが、架空の経費を払った事実があり、かつその架空の経費を計上した分税金は小さくなりますので、重加算税が課税されます。脱税目的ではなく、事実関係を「隠ぺい又は仮装」する目的があって税金が減れば重加算税の対象になる訳で、非常に誤解が大きいところです。

次に、「偽りその他不正の行為」ですが、これについては広く脱税的な行為を意味します。脱税的な行為ですから、多くの場合で「事実の隠ぺい又は仮装」があった場合と重なります。しかし、大きく異なるのは自主修正をした場合です。

自主修正における相違

自主修正とは、自分で過去の申告のミスを発見し、自主的にそのミスを修正する申告を行うことを言います。この場合、税務当局の手を煩わせることなく申告を直したため、原則としてペナルティーである加算税が減免されることになっています。とりわけ、重加算税については特殊で、自主的に架空経費を訂正すれば、他の加算税が課税されることはあってお重加算税が課税されることはありません。いわば、重加算税は自主修正でなかったことにすることができるのです。

一方で、「偽りその他不正の行為」を自主修正でなかったことにはできません。このため、架空経費を計上して税金を少なくしてしまったのであれば、その年度は自主修正をしようと、今後7年間は調査され税金も取られます。すなわち、一度「偽りその他不正の行為」をした申告をしまうと、そのリカバーは永遠にできません。このため、脱税的な行為はやはり絶対にやってはいけないのです。

このような大きな違いがありますが、このあたりを理解していない専門家や国税調査官が多いので注意が必要です。紙面の関係上これ以上は述べられませんが、この相違を理解していなかったがために、大きな不利益を被った例は多数ありますから注意が必要です。

ABOUT執筆者紹介

元国税調査官・税理士 松嶋洋

昭和54年福岡県生まれ。平成14年東京大学卒。国民生活金融公庫(現日本政策金融公庫)、東京国税局、日本税制研究所を経て、平成23年9月に独立。現在は税理士の税理士として、全国の税理士の税務調査や税務相談に従事しているほか、税務調査対策・税務訴訟等のコンサルティング並びにセミナー及び執筆も主な業務として活動。

著書に『最新リース税制』(共著)、『国際的二重課税排除の制度と実務』(共著)、『税務署の裏側』、『社長、その領収書は経費で落とせます!』『押せば意外に税務署なんて怖くない』などがあり、現在納税通信において「税務調査の真実と調査官の本音」という500回を超える税務調査に関するコラムを連載中。

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