アフターコロナを乗り切るために、決算書+『説明資料』を作成しよう
税務ニュース
コロナウイルスが5類に分類され、さぁこれからコロナ禍の損失を取り返そうという昨今でございますが、まだまだその爪痕は大きいのが実情ではないでしょうか?
これから起業するにしても、体制を立て直すにしても、自社の状況を財務的(数値的に)に説明出来る事だけでなく、自社が今後更に良くなっていくよ!という期待感のあるメッセージを持って伝えられる説明資料が重要です。
事実、筆者が関与させて頂いている中小企業において、通常時は業種柄融資を受けにくいお客様や債務超過に陥っていた会社様が、今回ご紹介する説明資料の作成に取り組み、見事多額の融資を受ける事に成功して、コロナ禍においても大きく売り上げを伸ばす事が出来ました。
決算書だけではダメな理由
会社の財務状況を示す書類として、一般的には決算書の提出が求められます。
「単年度」の決算書を見ると、そこから分かる事は意外と少ない事に気づかされます。財務の数値というのは「比較」してみて初めて意味をもってくると考えられます。仮に黒字だったとしても、前期やコロナ前の「自社と比較」してどうなのか?「同業他社と比較」したらどうだろう?こういった比較概念を通じて決算書は初めて意味を成すという事がご理解頂けると思います。
そして、決算書には業績に関する定性的な情報はほぼ皆無です。上記のように比較して、良いポイントがあったしても、その会社が何をがんばった結果そうなったのかは少なくとも単年度の決算書からは全く読み取る事は出来ません。
年に一度必ず作成する事から決算書自体は珍しいものではなく、存在して当たり前のものとなります。しかしながら上記の通り「決算書だけ」では自社の説明として不十分だという事です。ここで重要なのは『ちょっとした』差別化要素です。
どうでしょう?決算書だけではなく、自分の言葉で綴った説明資料を作成している企業様は少ないのではないでしょうか。そこに数値的な比較や自社の定性的な情報が入った説明資料があればそれだけで差別化出来るはずです。
資金調達と説明資料
中小企業の資金調達の大部分が金融機関からの借入によるものだと思います。金融機関の立場に立つと、貸出先がきちんと返済してくれる事はもちろんの事、良い会社とお付き合いをしてその他のサービスを利用して欲しいというのが本音です。
では実際に我々の窓口になってくれている金融機関の「担当者の本音」はどうでしょうか?
彼らにとっての「良い会社」は今後の業績に期待が持てる事と、融資の審査が通りやすい会社が該当すると考えられます。とりわけ、社内稟議等の工数が少なくて済む手のかからない会社は間違いなく担当者にとって良い会社ではないでしょうか。
融資については、本当に貸しても大丈夫か?条件はどうする?という審査が当然行われる訳ですが、これも数値で表される定量的なものだけではなく「定性的な」要素が大きいと融資担当者も言っています。実際に融資の現場では、財務指標が同じような会社に対する融資で金利が1%以上違ったり、返済期間も数年長い等の大きな条件面での差が生まれています。社長自身の人柄や組織運営といった定性部分のウェイトが大きくなければ、現実に提示される条件にここまで大きな差がつくとは思えません。
融資の申し込みを受けた担当者は、融資の承認を得る稟議書を作成する過程でたくさんの文書を書くそうです。上記の決算書や簡単なヒアリングだけで説得力のある文書を書く事は困難を極めると思います。担当者があなたの会社だけを担当してくれるのなら良いのですが、決してそうではないですよね?
また、担当者も2-3年で変わってしまうのが現状です。資金調達が担当者の経験に左右されるようではこれまた困ってしまう訳です。誰が担当しても高確率で融資を引けるように、そして優先して対応してもらえるためには「良い会社」として定性面を補う説明資料を作成すべきなのです。
説明すべき内容
前置きが長くなりましたが、ここから説明資料に記載すべき事を示していきたいと思います。難しく考える必要はありませんし、最初はA4サイズ1枚でも十分です。毎年毎年ブラッシュアップしていきましょう。会計事務所に依頼してみても良いかもしれません、我々会計事務所は、仕事柄人の話を聴く事が好きな人が多いと思いますので、社長の考えている事をいっぱい話して頂いて、数値とリンクさせてもらいましょう。
ただし、あくまで大事なのは「社長の言葉で」書いてもらう事です。
①外部環境・内部環境
外部環境というと畏まった感じがしますが、現在の業界の状況です。業界環境に一番お詳しいのは社長です!ありのままに現在の状況が良いのか?悪いのか?を述べて下さい。業界平均等はインターネットで検索すれば比較的簡単にデータも入手できます。ストーリーとして美しいのは『外部(業界)環境は厳しかったが、自社はがんばった!』です。
次に内部環境は自社についてです。これは敢えて先に答えを申し上げますが、「強み」と「機会」に焦点を当てて書いて下さい。我々中小企業の成長戦略は基本的に『強みを活かして機会に投資する』しかないと考えてます。つまり、外部環境は厳しかったが自分たちの強みを期待の持てる分野に投下してがんばった(がんばっている)というストーリーです。
②施策と効果
稚拙な表現ですが、この一年間でがんばった事を書きましょう。がんばっていない会社を私は一社も見た事がありません。前年対比で売上が伸びていたとすれば、「客数」が増えたか「単価」が上がったかのいずれかだと思いますので、仮にそれが偶然の産物であったとしても敢えてアピールしましょう。また、今はまだ成果に繋がっていなくても全然OKです。成果が出ない=種まきです、「この施策が来期芽吹くと確信している。」と記載してください。
③アピールポイント
「強みなんて分からない、差別化要素なんてないよ・・・」という声もよく頂戴します。そんな訳ないですよ!今年あなたの会社の売上が0円だったら分かりますが、1円でも売上があったとすればあなたの会社に依頼した人がいるという事ですよね?
その理由は何でしょうか?例えば大手と比べ小回りが利く事や、元請けに可愛がってもらって受注した仕事は「社長の幅広い人脈」な訳です。立派な差別化要素であり中小の戦略要素です。社長ご自身が「うちの差別化要素はこれだ」と宣言した瞬間に、それがアピールポイントになります。こんな事は差別化要素にならないのでは・・・と考えずに、自信を持って書きましょう。
視点は財務・組織・マーケティングの3つ
会社の分析は財務・組織・マーケティングの3つの視点からなされるとバランスが良いと思います。
財務については会計事務所と相談しながら数値的に良かったポイントを記載します。小さな事でも構いません。売上は変わらなくても、客数が増えているのならそれはOKです。
次に組織です。人や組織にまつわる事を書きます。社長のスキルやノウハウで増えたものでも良いですし、こんな社員を採用したから来期はスゴイことになるはず・・でも構いません。ここがかなり重要で、社長さんか経理さんとしか基本的に会わない金融機関の担当者では書ききれない部分だと思います。全く変化のない組織も珍しいので、敢えて変わった点をアピールしましょう。
人が育っている事、育てる意志が明確に見えている事はその会社への評価がとても高まります。事業は継続し、会社は永続する事を目指すべきであり、そんな会社に投資したいと考えるものです。
最後にマーケティング、売上や自社の商品サービスについてです。売上を増やしたくない社長さんはいないです。まだ試作段階でも構いません、色々な事に挑戦している社長は魅力的に映ります。一方で、突飛な事ばかりの経営者は信用されません。あくまで『強みを活かして機会に投資する』を念頭に置いてください。今ある強みを活かせるのは、今戦っている市場か隣接したものであると考えられます。そして「今期これだけ伸ばします!」という宣言も入れちゃいましょう!
意識の改善と社内への共有
当該説明資料を継続的に作成頂くと分かるのですが、最初は文章力の無さに愕然とします(笑)しかし続けていくと、この説明文書に書けるように新しい施策をやってみようというモチベーションが湧いてきます。
また、当該資料は是非とも社内で共有してください。社長の考えている事は意外と伝わっていないものです。それを共有する絶好の機会です、そして「組織」の部分はより現場に近い管理職の方にも書いて頂いたり、「マーケティング」は営業担当者に書いて頂くと期待感が増します。
以上のように会社の説明資料は資金調達にも有用ですが、それだけでなく自社の状況を社外だけでなく、社内にも共有する「事業計画書」のような意味合いもあります。
外部環境はまだまだ厳しいですが決算書+説明資料で、自社をもう一段成長させてみてはいかがでしょうか?
ABOUT執筆者紹介
代表社員税理士 米田明広
2013年に税理士登録し、あすか税理士法人最年少役員就任。2018年に株式会社エネックスを設立、中小企業のコスト削減提案を行っている。現在は、税務会計だけでなく事業承継やM&Aといった戦略策定、システム導入による業務フロー改善といった業務を通じて、北海道の中小企業の経営課題を解決すべく活動している。
[democracy id=”403″]