経営相談の現場から[シリーズ第12回]経営者保証なしで借りられる金融機関はどこですか
起業応援・創業ガイド
筆者は経営コンサルタントとして、日々経営者の方々のお悩みを伺っています。このシリーズは「経営相談の現場から」というテーマで、中小企業経営者や個人事業主の方から実際にあったご相談内容を取り上げます。
シリーズ第10回から3回連続で、近年話題の「経営者保証」をテーマにJ社長のご相談を取り上げています。前々回の記事(第10回)では「そもそも経営者保証とは何か?」というご相談を、前回の記事(第11回)では「どうすれば経営者保証を外せるか」というご相談を取り上げました。今回は、実際に経営者保証なしで借りようとするときの具体的なアクションを解説します。
筆頭に挙げられるのは日本政策金融公庫
J社長 「前回、経営者保証なしで融資を受けるためには経営者自身が“経営者保証に関するガイドライン”を理解することが重要だと分かりました。いざ実際に経営者保証なしで融資を受けようとするときは、どの金融機関を選ぶのが良いでしょうか?」
筆 者 「各金融機関が経営者保証を外す取り組みを始めていますが、筆頭に挙げられるのは政府系金融機関である日本政策金融公庫(以下、公庫)です。」
J社長 「公庫は、どんな取り組みをしているのですか?」
筆 者 「業種や業況によって例外はありますが、“経営者保証に関するガイドライン”への対応として始まった“経営者保証免除特例制度”というものがあります。ガイドラインに沿うような良好な経営状況であれば、経営者保証が免除されます。具体的には、公庫が掲げる7つの要件のいずれかを満たしていれば免除されます。」
J社長 「その要件を満たすのはどれくらい難しいものでしょうか?」
筆 者 「多くの会社にとって、それほど難しい要件ではないと思います。7つすべてではなくどれかひとつでも満たせばよいのですから。例えば7つのうち1つは、以下のような要件です。」
・会社から社長個人への貸付金がないこと(例えば、社長個人の口座に役員報酬を超える金額のお金を移していないこと)。
・公庫からの借入残高がある場合、返済が遅れていないこと。
・2期連続の赤字でないこと。あるいは、債務超過でないこと。
J社長 「確かにそれほど高いハードルではなさそうです。しかし私の会社は創業2期目で、税務申告はまだ2期終えていません。わが社のような創業まもない会社は対象外でしょうか。」
筆 者 「いいえ、J社長のような創業期の会社も大丈夫です。7つの要件の中には、以下の要件もありますから。」
J社長 「えっ、それだけですか?創業期の会社は無条件で経営者保証を免除されるということですか。」
筆 者 「はい。公社では、創業まもない会社であるというだけで経営者保証が免除されます。利率や返済期間の面でも、創業期の会社は有利な条件になっています。」
J社長 「それは意外です。融資の審査では、業歴が浅いことは不利になると思っていました。」
筆 者 「公庫は公的な金融機関として、創業期の会社のように民間の金融機関から借りるのが難しい会社を重点的に支援する役割を担っているからですね。」
J社長 「そうですか。しかしわが社も来期になって3期目を迎えたら一人前の会社として扱われて、経営状況も見られるようになるということですね。」
日本政策金融公庫では、経営者保証なしの融資が主流
筆 者 「以前から公庫は経営者保証をつけない融資に積極的でした。創業期の会社でも業歴が長い会社でも、公庫で経営者保証を求められたというお話はあまり聞いたことがありません。業種・業況・事業者様のご希望などに応じて経営保証をつけることもあるようですが、経営者保証なしの融資のほうが主流でしょうね。」
J社長 「公庫の融資に経営者保証がつくとしたら、やはり経営状況が悪いからですか?」
筆 者 「そうとは限りません。経営者保証をつけると利率を低くできる場合があるので、事業者様のほうから“経営者保証をつけたい”と希望するケースもあるでしょう。」
J社長 「もし返済中の融資に経営者保証が付いている場合、それを外してもらうことはできるのでしょうか。」
筆 者 「良いご質問ですね。既存の融資も“経営者保証免除特例制度”を活用して借り換えることで、経営者保証を外すことができます。ただ、経営者保証をつけた理由が経営状況の悪さにあった場合は、まずはそれを改善するのが先ですね。」
J社長 「なるほど。しかし経営状況が要件になるのは、わが社にとっては不安要素です。これから2店舗目を出店するので、それが軌道に乗るまで収支が安定しないでしょうから・・・。」
無担保・無保証人で借りられる「マル経融資」
筆 者 「公庫の “マル経融資”という融資制度を知っておくと役に立つかもしれません。これは、無担保・無保証人で借りられることでよく知られています。無保証人ですから当然経営者保証も不要です。」
J社長 「マルケイですか、変わった名称ですね。」
筆 者 「正式名称は“小規模事業者経営改善資金”です。内部書類などに“経”の一文字をマルで囲んで書いていたのが由来だそうですよ。」
J社長 「なるほど。マル経融資では、経営状況が悪くても経営者保証なしで借りられるのですか?」
筆 者 「その可能性があります。マル経融資では、先ほどの“経営者保証免除特例制度”にあったような経営状況の要件がありません。ただその代わり、商工会・商工会議所の推薦が必要です。」
J社長 「推薦ですか。どうすれば推薦してもらえますか?」
筆 者 「J社長のケースでしたら、2店舗目を軌道に乗せる過程で商工会議所等の経営指導を受けて、その流れで推薦をもらう流れがよいですね。もし経営状況が一時的に芳しくなくて決算の数字が良くなくても、商工会議所が指導する中で“J社長はきっと新店を軌道に乗せられる”と手ごたえを感じてもらえば推薦を出してくれるでしょう。」
J社長 「なるほど、マル経融資は商工会議所のお墨付きで成り立っているのですね。しかしわが社は商工会議所に入会していないのですが・・・。」
筆 者 「このマル経融資を使うために商工会議所等の会員になる方もいらっしゃるようですよ。会員にならなくても経営指導は受けられますが、経営指導を6か月以上受ける必要がありますので、この機に入会なさる方が多いようですね。」
J社長 「そうですか。しかし6か月間もの経営指導を受けるとなると、ちょっと気構えますね。」
筆 者 「そうですよね。でもあまり大げさに捉える必要はありません。今私とお話ししているような雑談程度の経営相談や、セミナーなどの情報を提供してもらう程度のサポートも経営指導としてカウントされるケースを見聞きしています。気楽に足を運んでみてはいかがでしょうか。」
経営者保証は経営者必須の知識
シリーズ第10回から第12回まで3回にわたり、近年話題の「経営者保証」をテーマにJ社長のご相談を取り上げました。経営者保証のことは経営者にとって必須の知識です。
例えばご友人の借金の連帯保証契約書に署名する際、皆様は、連帯保証するリスクや万が一のときの対処法、そもそも連帯保証人が本当に必要なのか、保証人をつけないわけにはいかないのか、ということを調べて検討した上で承諾することでしょう。それと同じで、ご自身の会社の借入の経営者保証についても、しっかり理解した上で検討したいですね。
ABOUT執筆者紹介
経営コンサルタント 古市今日子
株式会社 理 代表取締役
経済産業大臣登録 中小企業診断士
外資コンサルティングファームなどで16年間経営支援の経験を積
事業再生に携わるほか、自治体の経営相談員や創業支援施設の経営
中小事業者・起業希望者の経営相談への対応件数は年間約200件