経営相談の現場から[シリーズ第10回]融資を申し込んだら、社長の私に連帯保証を求められました
起業応援・創業ガイド
Contents
筆者は経営コンサルタントとして、日々経営者の方々のお悩みを伺っています。このシリーズは「経営相談の現場から」というテーマで、中小企業経営者や個人事業主の方から実際にあったご相談内容を取り上げます。今回は、近年話題の「経営者保証」に関するご相談です。
社長は連帯保証人にならなければなりませんか?
J社長 「昨年、美容室を営む株式会社Jを設立しました。1店舗目が軌道に乗ったので、今は2店舗目の出店準備をしています。店舗物件の工事費や新たに雇用するスタッフの人件費などの資金2000万円の融資を、地元のJ信用金庫に申し込みました。初めての借入です。」
筆 者 「事業拡大の第一歩ですね。融資は決まりそうですか?」
J社長 「J信金の担当者からはほぼ決まりそうだと言われましたが、社長である私が連帯保証人になるよう求められました。これは引き受けなければならないものでしょうか。」
筆 者 「会社が融資を受けるときに社長が連帯保証をする義務はありません。しかし実際はこれに応じないと融資を受けづらいことが多いようですね。」
そもそも“会社の連帯保証人になる”とはどういうこと?
J社長 「そもそも“会社の借金を社長が保証する”というのは、どういうことなのでしょうか。」
筆 者 「端的に言えば、J社長が連帯保証人になっている状態で会社が倒産したら、会社が返済できなかった借金をJ社長が個人のお金で肩代わりする、ということです。このことは“経営者保証”と呼ばれています。」
J社長 「“会社の借金を社長個人が肩代わり”ですか。自分が作った会社なのに、他人事みたいだなあ。この会社は私がひとりで作ったので、もともと、社長である私には、会社の事業や会社の借金について全責任があると思っていましたが・・・。違うのですか?」
筆 者 「私も社長はそのくらいの心構えで経営すべきと思いますが、法律上は、J社長という“個人”と株式会社Jという“法人”は、別の存在、つまり別人格です。ですから、会社に借金があってもその責任がJ社長個人に及ぶことはありません。」
J社長 「友人が借金をしても私は責任を負わないのと同じ、ということでしょうか。」
筆 者 「その通りです。ただしJ社長が連帯保証人になっていたら話は別です。その点でもご友人の借金と同じです。借入の当事者である株式会社Jが返済できなくなったら、連帯保証人であるJ社長に責任が及びます。」
金融機関が社長に連帯保証を求める理由
J社長 「なるほど。しかし会社というものは設立も廃業も自由にできますよね。連帯保証人にさえならなければ、会社名義の借金は、事業がうまくいかなければ会社をつぶしてチャラにする、・・・ということができてしまうのではないですか?」
筆 者 「そういうことになります。私見ですが金融機関が社長に連帯保証を求める理由には、“会社の借金の肩代わり役になってほしい”という側面だけでなく、“連帯保証によって社長が事業の責任をしっかり自覚してほしい”という側面もあると思います。連帯保証人になっていなければ社長個人には責任が及ばないので、事業が苦しくなれば社長は簡単に会社を倒産させてしまうかもしれません。経営者保証は、それを防ぐ手段として機能しますから。」
J社長 「そうですね。事業がうまくいかなくても自分の責任を自覚していれば、無駄な費用を削ったり、自分の役員報酬を削ったりして、再建に向けて頑張りますよね。でももし“これは自分の借金じゃない、自分には責任がない”という気持ちで経営していたら、そこまで頑張れません。」
筆 者 「はい。経営者保証には、経営者の頑張りを後押しする効果があります。だから金融機関は、経営者保証に応じる会社への融資のハードルを下げることができるのでしょう。」
連帯保証人の社長が返済できなかったらどうなる?
J社長 「今回私がJ信金に連帯保証を求められているのは2000万円ですが、もっと大きい、億単位の金額の連帯保証人になっている社長もきっと多いですよね。そんな大金を社長個人が肩代わりすることなど、ふつうは不可能ではありませんか?もし返済できないとどうなるんでしょうか。」
筆 者 「社長が連帯保証人になっている状態で会社が倒産した場合、社長個人の預貯金から返済できなければ自宅などを処分して返済に充てたり、社長のその後の勤め先からの給料を返済に充てたりすることになります。そのようにして返済できる目処が立たない場合、会社の破産と同時に社長個人も自己破産するケースも多く見られます。」
J社長 「そんなことになったら家族にも大変な迷惑がかかってしまいますね。」
筆 者 「はい。経営者保証には融資のハードルを下げるメリットがありますが、万が一のときには社長と社長の家族の生活に大きな影響を及ぼします。経営者保証つきの融資を受けるときには、このメリットとリスクをしっかり理解した上で判断しなければなりません。」
近年は経営者保証なしの融資も増えている
今回は経営者保証に関するご相談を取り上げて、経営者保証のメリットとリスクを解説しました。金融機関と融資取引をするなら、経営者保証は避けて通れない話題です。経営者は経営者保証のことをしっかり理解しておく必要があります。
会社が融資を受けるときには多くのケースで経営者保証が求められますが、近年は経営者保証をつけない融資も徐々に増えています。この記事で触れた通り、経営者保証は円滑な融資に必要なものです。しかし経営者が負うリスクがとても大きいことから、「本来必要がないケースにまで経営者保証を求める慣行を撤廃しよう」という動きが少しずつ広がりつつあります。
経営者はこの動きについても知っておくべきでしょう。次回の記事では、経営者保証をつけない融資について取り上げます。
ABOUT執筆者紹介
経営コンサルタント 古市今日子
株式会社 理 代表取締役
経済産業大臣登録 中小企業診断士
外資コンサルティングファームなどで16年間経営支援の経験を積
事業再生に携わるほか、自治体の経営相談員や創業支援施設の経営
中小事業者・起業希望者の経営相談への対応件数は年間約200件