子どもと話したいお金と税金のはなし[第9回]:生き物は備品と同じ?動物園のゾウやサーカスのライオンと税金のはなし
税務ニュース

大人になるために避けてとおれない、けれど難しいお金や税金のこと。本コラムでは、経営者や経理担当者のみなさんが子どもとお話をするきっかけになるように、お金と税金のトピックについて、身近な事例を取り上げて解説します。
動物園や水族館の主役といえば、ゾウやイルカなどの生き物たち。これらの生き物は、税金のルールではパソコンなどの備品と同じように取り扱われ、課税の対象となる場合があります。
第9回では、税金のルールにおける生き物の取扱いにスポットを当ててみましょう。
生き物は減価償却資産として取り扱うのが税金のルール
動物園や水族館などにいるゾウやイルカなどの生き物は、動物園や水族館などにとって欠かせない存在です。このような生き物は、税金のルールではどのように取り扱われているのでしょうか?
じつは、動物園や水族館などにいる生き物は、税金のルールでは「資産」として取り扱われます。
動物園や水族館のゾウやイルカ、ペンギンといった展示や集客のための生き物は、一般的に、展示可能な期間について1年以上の期間を見込むことができ、かつ、取得に要する金額も10万円以上であることがほとんどです。
このように、事業のために用いられる生き物で、1年以上使用可能かつ10万円以上という要件に当てはまるものは、税金のルールでは、事務用パソコンや店舗用什器と同様に、減価償却資産の「器具および備品」に該当します。
減価償却とは?
事業のために用いられる建物、車両、または器具備品などの資産は、使用により物理的や機能的に価値が減少し、また、時間の経過とともに価値が減少します。このような資産を減価償却資産といいます。そして、事業用の減価償却資産を取得したときは、取得時に支払った全額を一度に必要経費とするのではなく、取得時に支払った金額を資産の使用可能期間全体にわたって分割し、少しずつ必要経費として配分する必要があります。これを減価償却(depreciation)といいます。
この使用可能期間に相当するものとして、法定耐用年数が財務省令「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」の別表により定められています。
「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」では、生き物は「器具及び備品」に該当し、さらに植物と動物に区別されて法定耐用年数が定められています。動物であればその法定耐用年数は、魚類は2年、鳥類は4年、そのほかの生物は8年とされています(図表1)。
(図表1)生物の法定耐用年数
| 生物 | 植物 | 貸付業用のもの | 2年 |
| その他のもの | 15年 | ||
| 動物 | 魚類 | 2年 | |
| 鳥類 | 4年 | ||
| その他のもの | 8年 |
したがって、たとえば水族館の展示用にペンギンを一匹80万円で購入した場合は動物(鳥類)に該当するため4年間にわたって毎年20万円ずつ、イルカを一頭800万円で購入した場合は動物(その他のもの)に該当するため8年間にわたって毎年100万円ずつ、必要経費として配分することとなります。
減価償却資産にかかる税金
減価償却資産としての生き物には、「固定資産税(償却資産)」が課税される場合があります。
「固定資産税(償却資産)」とは、1月1日の減価償却資産の所有者に対して課される地方税です。「固定資産税(償却資産)」の対象となる減価償却資産は、次の4つの要件に該当するものです。
- 土地及び家屋以外の事業の用に供することができる資産であること。
- 無形減価償却資産(ソフトウェア等)でないこと。
- 減価償却額又は減価償却費が法人税法または所得税法の規定による所得の計算上損金又は必要な経費に算入されるもの(これに類する資産で法人税又は所得税を課されない者が所有するものを含む。)であること。また、その取得価額が少額である資産その他の政令で定める資産以外のもの。
- 自動車税や軽自動車税の課税客体で普通自動車、原動機付自転車、軽自動車、小型特殊自動車及び二輪の小型自動車以外のものであること。
観賞用、興行用その他これらに準ずる用途に供している生物についても「固定資産税(償却資産)」の対象です。したがって、動物園や水族館のゾウやイルカはもちろん、興行用に該当するサーカスのライオンなども「固定資産税(償却資産)」が課税される場合があるのです。
牛や豚には税金が課されない?
動物園や水族館にいる生き物だけでなく、農場にいる牛・馬・豚などの生き物や、果樹園にある果樹(みかん、柿、栗など)も減価償却資産に該当します。たとえば「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」によれば、競走馬は4年、栗の樹は25年、柿の樹は36年、いちじく樹やアスパラガスは11年という法定耐用年数が定められています。
ただし、牛や馬、果樹などには、「育成期間」が存在するため、定められた「成熟の年齢又は樹齢」まで減価償却できません。国税庁の通達によれば、成熟の年齢または樹齢は、たとえば競走馬は満2歳、栗の樹は満8年、いちじく樹は満5年とされています。
また、サーカスや水族館・動物園の生き物は固定資産税(償却資産)の対象となりますが、農場の生き物や果樹園にある果樹は、固定資産税(償却資産)の課税対象外とされています。
生き物と一口に言っても、税金の取扱いはさまざまであるため、注意する必要がありますね。
ABOUT執筆者紹介
税理士 武田紀仁(たけだのりと)
たけだ税理士事務所 所長税理士
東北工業大学 ライフデザイン学部 経営デザイン学科 准教授
クリエイターや文化芸術団体支援のための税理士事務所を設立し、会計・税務・経営に関するアドバイザリーサービスを行う(たけだ税理士事務所)。大学では、財務会計論、簿記論、租税法実務などを担当。研究では、主に非営利組織体の会計・税務・情報開示に関する実証的な研究に取り組んでいる。





















