帳簿・書類の電子保存(後編)
税務ニュース
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前編は「帳簿」と「書類」の電磁的記録(電子データ)による保存制度についてご案内しました。今回は、法改正を重ねてようやく中小企業者にも使えるようになってきた書類のスキャナ保存制度についてご案内します。
紙の書類をスキャン(画像として読み取り)して電子データで保存するスキャナ保存制度は、2005(平成17)年度の改正により施行されましたが、2016年(平成28年)改正でデジカメやスマホでの読み取りが認められるようになるなど要件が緩和され、国税庁の2018(平成30)事務年度においては累計承認件数が2,898件(前事務年度比57.0%増)となっています。スキャナ機能の向上と安価なシステムの普及も伴って、利用件数の拡大につながっているようです。
スキャナ保存の対象となるものは?
前編で掲載した【「帳簿」・「書類」保存の全体イメージ】のとおり、国税関係帳簿書類には大きく分けて国税関係「帳簿」と国税関係「書類」の2種類がありますが、電子データ記録によるスキャナ保存が認められるのは、国税関係「書類」のうち決算関係書類以外のものについて、税務署長の承認を受け、保存要件を満たしたものだけです。その「書類」の具体例としては、契約書・領収書・請求書・納品書などの重要書類や見積書・注文書・検収書などの一般書類で、取引相手から受け取ったものや自己が作成して取引相手に交付したものの写しが挙げられます。なお、承認を受けてスキャナ保存した「書類」は原本を破棄することができます。
スキャナとは?
書面を電磁的記録(電子データ)に変換する入力装置のうち次の要件を満たすものです。
① 解像度200dpi(A4サイズで約387万画素相当)以上の読み取りができること
② 24ビット以上のカラー画像(※)による読み取りができること
※ 資金や物の流れに直結しない一般書類の保存はグレースケール画像も可能
なお、これらの条件を満たすかぎりにおいてはスマートフォンやデジタルカメラにより撮影した画像でも差し支えありません。
2019(令和元)年度の主な改正と法令解釈の見直し
1. 新たに事業を開始した個人事業者の承認申請期限が緩和されました(改正)
事業開始日から5か月以内に「帳簿」・「書類」の備え付けを開始し、かつ、事業開始日から2か月以内に承認申請書を提出すれば、事業開始1年目から国税関係「帳簿」・「書類」のデータ保存と「書類」のスキャナ保存が適用されることになりました。
2. 過去の重要書類もスキャナ保存が認められるようになりました(改正)
スキャナ保存の承認を受けた日以前に作成したり、受領した契約書・領収書等の書類(「過去分重要書類」)について、適用届出書を所轄税務署に提出すれば、スキャナ保存と原本の破棄ができるようになりました。
3. スキャナ保存ソフトの法的要件に係る確認が簡略化されました(法令解釈の変更)
電子帳簿保存法の法的要件について公益社団法人日本文書情報マネジメント協会(「JIIMA」)が確認し認証したソフトを利用して承認申請書を提出する場合には、その承認申請書の記載事項や添付書類が簡略化されることになりました。
スキャナ保存の適用を受けるための要件は?
スキャナ保存に係る適用要件の前提は、確実な手順や電子的な措置により、保存されているスキャンデータが真実のもの(原本と同等で、かつ、正しいもの)であることを担保させることです。したがってスキャナ保存については、「書類」に係るスキャンデータの記録事項が「帳簿」に紐づけられ、どちらからでも確認できるようになっていることや、「書類」のデータを日付や金額などの範囲を指定・組み合わせて複合的に検索できることも要件となるため、これらの要件を満たすシステムを導入しなければなりません。また、「書類」のスキャナ保存作業にあたり、紙の段階における改ざんやスキャン後の改ざんを防止するための手順および入力期限などが、社内規程に基づいて確実に運用されていることが必要です。
スキャナ保存の詳細な要件についてはこちら
<国税庁サイト 「電子帳簿保存法におけるスキャナ保存の要件が改正されました」>
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/sonota/03.pdf
(注)2019(令和元)年度の法令改正と合わせて、上記内容について検索要件・入力期限・適正事務処理要件などに係る法令の解釈が変更(緩和)され、スキャナ保存の運用がしやすくなりました。
「書類」のスキャナによる保存についての税務署への承認・届出手続き
1. 承認申請書の種類
① 「書類」のスキャナ保存の場合
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/hojin/pdf/3-1.pdf
② 「書類」のスキャナ保存でJIIMA認証のある市販ソフト使用の場合
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/hojin/pdf/3-2.pdf
2. 申請書の提出
既存の保存義務者 | 新設法人 | |
提出先 | 納税地の所轄税務署長 | |
提出期限 | 電子保存開始の3か月前の日まで | 設立日から同日以後6か月を経過する日までに保存を開始する場合は設立日以後3か月を経過する日まで |
添付書類 | ① 電子計算機(コンピュータ)処理システムの概要を記載した書類 ※申請者が開発したプログラムでない場合は不要 ② 電子計算機処理(コンピュータ)に関する事務手続の概要を明らかにした書類(当該電子計算機処理を他の者に委託している場合には、その委託に係る契約書の写し) ③ 申請書の記載事項を補完するために必要となる書類その他参考となるべき書類 |
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承認 | 保存開始日の前日までに承認または却下の処分がなかった場合は、承認があったものとみなす | 提出日から3か月を経過する日までに承認または却下の処分がなかった場合は、承認があったものとみなす |
3. 「過去分重要書類」のスキャナ保存の適用届
スキャナ保存の承認を受けている国税関係「書類」のうち、その基準日前に作成または受領をした書類(「過去分重要書類」)のスキャナ保存をする場合。
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/hojin/pdf/5.pdf
「書類」のスキャナ保存は社内体制が重要です!
2019(令和元)年度における改正や法令解釈の変更によりスキャナ保存の導入や運用がしやすくなったため、今後もますますの利用拡大が期待されます。とはいえ、電子帳簿保存法に規定された要件を満たすシステム(ソフトウェア)の導入とこれを運用するための社内体制が必要であることに変わりはありません。「書類」の作成または受領から始まり、スキャナ入力、入力データの確認、タイムスタンプの付与までのそれぞれの事務処理について、2人以上が入力に携わるための手順を示す業務フローを設けます。一方で、定期的な検査については入力に直接関わらない者(社内・社外を問わない)が行いますが、実施回数などについても決め、検査結果は実施記録として残しておきます。もちろん不備が発覚した場合には、改善をする体制も整えます。
なお、これらの事務処理を適正に行うための事務処理規程を社内に整備する必要があります。適正な事務処理要件を満たした規程の備え付けと運用は、スキャナ保存の適用要件となっています。
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