01 September

帳簿・書類の電子保存(前編)

掲載日:2019年09月01日   
税務ニュース

1998(平成10)年7月1日から施行された「電子帳簿保存法」(正式には「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」)は、国税庁の発表によると2017(平成29)事務年度においてその累計承認件数が20万件を超えています。事務処理の電子化がかなり普及してきている昨今、帳簿書類の保存についても電子化したいという事業者ニーズが表れています。

今回は、Ⅰ.帳簿・書類の電磁記録等による保存制度とⅡ.書類のスキャナ保存制度のうち、主にⅠ.帳簿・書類の電磁記録等による保存制度ついてご案内します。

「帳簿」・「書類」保存の全体イメージ (Ⅰ・Ⅱ共通)

自己が一貫してコンピュータを使用して作成した「電磁的記録等(電子データ等)」と、取引の相手方が発行したものや自己が手書き等で作成したものをスキャンして保存した「スキャナ保存」に区分します。

表中の〇は税務署長の承認を受けて一定の要件を満たす場合に可能、×は不可を意味します。

帳簿」・「書類」の種類 原則 特例
電磁的記録等 スキャナ保存
国税関係帳簿書類 国税関係「帳簿 ・帳簿(仕訳帳、総勘定元帳など) ×
国税関係「書類 重要書類 ・決算関係書類(貸借対照表、損益計算書、棚卸表、など) ×
・契約書、・領収書、など 〇(※)
・請求書、・納品書、・送り状、・輸出証明書、・預り証、・預金通帳、・小切手、・約束手形、有価証券受渡計算書、・社債申込書、・借用証書、など 〇(※)
一般書類 ・見積書、・注文書、・検収書、・貨物物流証、・入庫報告書、など 〇(※)

※取引の相手方発行分をCOM(電子計算機出力マイクロフィルム)にしたものは不可

「帳簿」・「書類」を電子保存することのメリット・デメリット (Ⅰ・Ⅱ共通)

メリット デメリット
  • 紙で保管するためのコストが削減できる
  • 紛失や滅失が防止できる
  • 閲覧時のタイムラグが解消できる
  • 資料の検索スピードが向上する
  • データの紐づけが簡単にできる
  • 情報管理の負担が軽減できる
  • 導入コストがかかる
  • タイムスタンプの付与、定期的なバックアップ、運用における役割分担など新たな事務負担が発生する

デメリットよりもメリットのほうが多いので、運用すれば全体のコストは大幅に軽減できるでしょう。

「帳簿」・「書類」の電磁的記録による保存の要件

上表の全体イメージのとおり、国税関係帳簿書類は国税関係「帳簿」と国税関係「書類」がありますが、一貫してコンピュータを使って作成し、税務署長の承認を受け、保存要件を満たしたものは、電磁的記録(電子データ)による保存が認められます。コンパクトディスク、USBメモリ、外付けハードディスクやサーバーなどを使って保存すれば、紙での保存は不要となります。

なお、「帳簿」・「書類」それぞれの保存要件は以下のとおりです。ここでは、COM(電子計算機出力マイクロフィルム)による保存のケースは実務的に少なくなっているので省略します。

  「帳簿」 「書類」
真実性 ① 訂正等の事実および内容を確認することができるシステムを使用
(データの訂正や削除、追加入力の内容および履歴が事後的に確認できればよい)
② 帳簿間での記録事項の相互関連性の確保
(一の帳簿から他の帳簿へ転記される場合に連番を付けるなどして帳簿間の関連がわかればよい)
③ コンピュータ処理システムの開発関係書類等の備え付け
(システムの概要・開発内容・操作説明・事務手続要領が明らかになるものがあればよい)
可視性 ④ 見読可能装置の備え付け等
(データがディスプレイ画面や書面で速やかに出力できればよい)
⑤ 検索機能の確保
(取引年月日、勘定科目、金額などの条件により検索・範囲抽出ができればよい)

「帳簿」・「書類」の電磁的記録等による保存についての税務署への承認手続きなど

1. 承認申請書の種類

電子帳簿保存法関係の承認申請書には、「帳簿」用、「書類」用、「スキャナ」用の3種類があります。その中でもそれぞれの内容に応じて申請書様式が区分されていますので注意してください。各種様式については、下記のとおり国税庁ホームページからダウンロードできます。

① 「帳簿」の電磁的記録による保存の場合

https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/hojin/pdf/1-1.pdf

② 「帳簿」の電磁的記録による保存でJIIMA認証のある市販ソフト使用の場合

https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/hojin/pdf/1-2.pdf

③ 「帳簿」のCOM(マイクロフィルム)による保存の場合

https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/hojin/pdf/1-3.pdf

④ 「書類」の電磁的記録による保存の場合

https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/hojin/pdf/2-1.pdf

⑤ 「書類」のCOM(マイクロフィルム)による保存の場合

https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/hojin/pdf/2-2.pdf

 

2.申請書の提出

  既存の保存義務者 新設法人
提出先 納税地の所轄税務署長
提出期限 電子保存開始の3か月前の日まで 設立日から同日以後6か月を経過する日までに保存を開始する場合は設立日以後3か月を経過する日まで
添付書類 ① 電子計算機(コンピュータ)処理システムの概要を記載した書類
※申請者が開発したプログラムでない場合は不要         

② 電子計算機処理(コンピュータ)に関する事務手続の概要を明らかにした書類(当該電子計算機処理を他の者に委託している場合には、その委託に係る契約書の写し)

③ 申請書の記載事項を補完するために必要となる書類その他参考となるべき書類

承認 保存開始日の前日までに承認または却下の処分がなかった場合は、承認があったものとみなす 提出日から3か月を経過する日までに承認または却下の処分がなかった場合は、承認があったものとみなす

 

3. 承認後の留意事項

税務調査などで「帳簿」・「書類」の電磁的記録による保存要件を満たしていないと判断された場合には、その承認が取り消されるだけでなく、青色申告の帳簿等の保存要件も満たさないことになるため青色申告の承認も取り消される可能性がありますので注意してください。

さらには、消費税の仕入税額控除に係る帳簿等の保存要件も満たさなくなり仕入税額控除も否認される恐れがあります。

最近市販されているほとんどのソフトでは「帳簿」や「書類」が保存要件を具備したうえで容易に電子データ化できるようになっています。さほど運用には負担がないでしょうから、保存にかかる費用や事務コストを少しでも削減したいとお考えの事業者の皆様はご検討されることをお勧めします。

ABOUT執筆者紹介

税理士 西原 憲一

西原会計事務所

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