あなたの知らない領収書の世界3~領収書控えの秘密編~
税務ニュース
令和4年1月より電子帳簿保存法が改正されました。その適用は2年間の猶予期間があるものの、電子取引データの保存は電子データでの保存が原則的な取り扱いになります。そんな電子データ時代でも、いまだに手書きの領収書の人気は根強いものがあります。手書きの領収書にはなにかとトラブルがつきものですが、現実的にはかなりの数の手書きの領収書が使用されています。コンピュータから出力された領収書が必ずしも正しいものだと言い切れるものでもありませんが、以前このコラム「あなたの知らない領収書の世界~「不正の香り」がする領収書編~」でご紹介した白紙の領収書を含め、偽造や改ざんが容易にできる手書きの領収書は不正やトラブルの香りがします。
手書きの領収書の証拠力を担保するためには、複写式の領収書の使用が最も効果があります。単票の領収書であれば、相手に渡した領収書がどのような内容だったか、あとから検証することが難しいのに対し、複写式であれば領収書の控えが発行側の手元に残りますので後々のトラブルにも対応ができるのです。
領収書の控えは会社内部での不正防止にも役立ちます。実は、領収書控えをきちんとチェックすると色々なことが分かってきます。
無断で領収書を発行していないか
領収書発行のトラブルに会社の担当者が無断で発行するというものがあります。そのようなケースでは横領や脱税などの不正に結びつくことも多いため会社としては、無断で発行できない仕組みを整備しなければなりません。手書きの領収書を発行する際には、領収書の発行番号を連番で付しておく必要があります。連番で記録しておくと、無断で発行した領収書は、控えごと切り取らない限り控えという証拠が残るのです。ただし、連番自体を発行の都度記入しているような場合だと、不正発行した部分を控えごと切り取って発行することは可能になります。
この時、領収書の束には切り取った跡が残ります。この跡はよく見なければわからない小さな証拠ですが、そのような跡が残っている場合は無断で発行している可能性があります。また、税務調査においても同様の手法で領収書の無断発行の有無をチェックしています。
無断発行している領収書の内容の復元も
領収書の無断発行は不正の端緒です。社内においてもしっかりとチェックする必要があります。
無断発行したと思われる兆しを見つけたら、どのような内容で発行したかを調査しなければなりません。
“なにか怪しい”
この感覚はベテラン経理マンの嗅覚や税理士の勘、または税務調査官の経験などに基づくようです。
不正のしっぽをつかむための最も手っ取り早い方法は、担当者本人に直接聞くということですが、不正をしている人はなかなか本当のことは話してくれません。証拠を突き付ける必要があるのです。例えば、先ほどの連番をずらして無断で発行した領収書を控えごと切り取っているようなケースでは、切り取ったであろう部分の次の控えの領収書を見てみましょう。もちろん、その控えにはその時に発行した取引に基づく内容が記載されていますが、まれに前の無断で発行した領収書の内容が筆圧の関係で読み取れることがあります。そのようなケースではインクで書かれているわけではないので微妙な凹凸を読み取ることになりますが、その凹凸を簡単に読み取る方法があります。これはその次の控えの領収書をコピー機でコピーするのです。
コピー機は光を当てその反射した情報で複写を再現しますが、ポールペンなどの筆圧がかかっていた部分についても光の加減によって文字として再現できるのです。コピーすることで、前の無断で発行した領収書の内容が現れます。実は、これは税務調査などで使われている常套手段なのです。社内でのチェック際にも使ってみるとよいでしょう。
コピーしてみて「金50,000円也」という文字が浮かんで来たら・・・まず疑われるのは売上の計上もれ、次に疑われるのは社内の不正行為。またはその両方です。いずれにしても会社が困った状況になるので、そうならないように事前に社内のチェック体制を強化しておく必要はあります。
また、電子化された領収書では正規の手続きでは不正はできないものの、抜け道はいくらでもあります。この場合にも、社内チェック体制は不正防止には必要です。
経理の適正な運用という点では、内部統制は王道といえるでしょう。
ABOUT執筆者紹介
税理士・米国税理士 出口秀樹
BDO税理士法人 札幌事務所
税理士、米国税理士(EA)。BDO税理士法人代表社員。
1967年北海道札幌市生まれ。1991年北海道大学文学部卒。1998年5月出口秀樹税理士事務所開所。より広い専門知識を身につけるため、小樽商科大学商学研究科入学、2005年修了。中小企業の税務、会計、経営のサポートを行うとともに、個人の税務対策などにも積極的に取り組んでおり、その内容は多岐に及ぶ。経営者や幹部、若手リーダー向けのわかりやすい財務分析や財務三表の読み方セミナー、不動産オーナー向けの税務対策セミナーなど講師としても活躍中。
著書に『事業存続のためのM&Aのススメ』(共筆、中央経済社)、『知れば知るほど得する税金の本』(三笠書房《知的生きかた文庫》)、『会社の整理・清算・再生手続きのすべて』(共著、中央経済社)、『改訂版 会社経営100問100答』(共著、明日香出版社)などがある。
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