20 February

あなたの知らない領収書の世界(インボイス編)

掲載日:2023年02月20日   
税務ニュース

税理士は知っているけれども、一般の人には知られていない領収書をテーマにした「あなたの知らない領収書の世界」。読者の皆様のおかげで回数を重ねることができ、今回も取り上げていただくことになりました。読者の皆様には、大変、感謝しております。

さて、今回の領収書の世界は、インボイス制度が導入された後の世界についてです。しかし、インボイスの世界は、私たち税理士にとっても未知の世界です。そういう意味では、“だれも知らないインボイスの世界”ともいえるのです。

インボイス制度の簡単な内容

インボイス制度につきましては、新聞報道やネット上の記事でかなり詳しく取り上げられており、ここでは簡単な内容を見ていきます。インボイス制度は、令和5年10月1日より実際の取り扱いが始まります。今までの領収書、請求書と取り扱いが異なる部分がいくつかありますがそれは消費税の取り扱いに限られます。つまり、そのほかの取り扱いについては、従来のそれとは異ならないということを理解しておくとよいでしょう。

例えば、品物の料金を支払った際にもらった領収書は、インボイス発行事業者かどうかは関係なく、その代金を支払った証拠にはなります。インボイス発行事業者以外のものが発行した領収書であっても、法人税や所得税の課税所得を計算するうえでは、いままでと同じように損金や必要経費の金額として処理することができます。異なる点は消費税の計算での取り扱いですが、インボイス発行事業者が発行した領収書については、消費税の計算をするうえでも今までと同じ取り扱いができます。

インボイス制度が始まっても、インボイス発行事業者が発行した領収書は、いままでの各税金の処理がそのまま使うことができるのです。そうすると、異なる点はただ一つです。インボイス発行事業者以外の人が発行した領収書の消費税の取り扱いということなのです。

消費税の納税額の具体的な計算(本則課税)は、以下で計算されます。

預かった消費税等-支払った消費税等

 

自分が販売したときには、代金のほかに消費税等額を預かりますが、その預かった消費税等額から、自分が事業のために使った仕入や経費などに含まれている支払った消費税等額を差し引いた金額を納付することになります。

今回のインボイス制度では、この計算式の「支払った消費税等」の取り扱いが変わるのです。すなわち、この支払った消費税等額として計算に使うことができるのは、インボイス発行事業者が発行したものに限られるとされたのです。

インボイス制度で領収書の何が変わるのか

では令和5年10月1日からインボイス制度が始まって、領収書の世界はどのように変わるのでしょうか。

領収書の世界では3種類の領収書が流通することになります。一つは、インボイス発行事業者が発行した“適格請求書としての領収書”とよばれるもの。さらにインボイス発行事業者が不特定多数に対して発行する“簡易適格請求書としての領収書”というものがあります。

3つめがインボイス発行事業者以外の事業者が発行した“ただの領収書”です。発行する側としては、インボイス発行事業者として登録した事業者のみがインボイス(簡易インボイスを含む)を発行することができ、登録していない事業者はインボイスを発行することはできないという違いが生じます。

一方、領収書を受け取る側としては、その受け取った人が一般の消費者であって税金の処理にその領収書を使用しない人にとっては、その領収書の効力などは一切影響がありません。一般消費者にはなんの影響もないのです。

領収書を受け取った側で変わるのは事業者の消費税の計算だけです。先にご紹介した通り、消費税計算は、原則として受け取った消費税等から支払った消費税等を差し引いた金額が納税額となります。この支払った消費税額の証明書となるのが、適格請求書と簡易適格請求書いわゆる(簡易)インボイスなのです。ですので、仮になにか商品を購入して支払いをしたとしてもインボイスがなければ消費税計算上は差し引くことができないということになります。

ただし、いきなり控除を認めないとすると、税負担が大きくなることから段階的に控除率を下げるという措置もとられています。具体的には、インボイス制度導入の令和5年10月1日から令和8年9月30日までは80%の控除が可能となり、その後令和11年9月30日までは50%の控除が認められ、それ以降については原則通り100%控除が認められないこととなるのです。

領収書の記載される内容は

令和5年10月1日からインボイス発行事業者が発行する領収書は以下の項目が記載されていることになります。

① 適格事業者の氏名または名称および登録番号
② 課税資産の譲渡等を行った年月日
③ 課税資産の譲渡等に係る資産または役務の提供の内容(軽減税率対象の場合はその旨)
④ 課税資産の譲渡等の税抜価額または税込価額を税率ごとに区分して合計した金額及び適用税率
⑤ 税率ごとに区分した消費税額
⑥ 書類の交付を受ける事業者の氏名または名称

なんだか難しくて複雑な感じがしますが、いままでの領収書と異なる部分は①のなかの登録番号と④⑤の税率に関する部分だけです。ただ、それでも現在の領収書よりも複雑な形になるのは事実です。また、現在、一般的に簡易な領収書として流通している、例えばタクシーの領収書などのような不特定多数の者に交付するような領収書については、上記の項目より少ない項目で対応が可能となっています。その簡易適格請求書では、上記の⑥が不要となっています。

要するに、不特定多数に対する領収書については、受け取った者の記載がいらないということです。これは、いちいち記載する手間を考えた措置ともいえます。この簡易適格請求書を発行できる事業者は、小売業、飲食店業、写真業、旅行業、タクシー業、駐車場業(不特定多数の者に対するものに限る)、その他不特定多数に対して交付する事業に限られています。

インボイス制度の今後

インボイス制度は主に受け取る側の消費税に影響が大きな制度ですが、今後はどうなるのでしょうか?

すでにご説明した通り、消費税の計算においてインボイスがない場合の控除率は段階的に引き下げられます。また、また、小規模事業者については、消費税の控除について1万円未満の取引についてはインボイス制度開始から6年間の間はインボイスがなくても帳簿記載があれば控除が認められるということになっています。また、3万円未満の公共交通機関の運送費など一定特定の取引については、そもそもインボイスの交付義務が免除されています。さらに、免税事業者がインボイス制度導入を機に課税事業者になった場合に3年間に限り、その納税額を売上高にかかる消費税額の20%にするという特例も用意されています。

このように特例が数多く存在し、しかもその特例の期限がそれぞれ異なっているため、正確に理解することはかなり難しいですし、現場ではある程度混乱が予想されます。さらに、これからの改正もあると思われますので、その動きには注意が必要です。

ABOUT執筆者紹介

税理士・米国税理士 出口秀樹

BDO税理士法人 札幌事務所

BDO税理士法人ホームページ

税理士、米国税理士(EA)。BDO税理士法人代表社員、株式会社ドルフィンマネジメント代表取締役。

1967年北海道札幌市生まれ。1991年北海道大学文学部卒。1998年5月出口秀樹税理士事務所開所。より広い専門知識を身につけるため、小樽商科大学商学研究科入学、2005年修了。中小企業の税務、会計、経営のサポートを行うとともに、個人の税務対策などにも積極的に取り組んでおり、その内容は多岐に及ぶ。経営者や幹部、若手リーダー向けのわかりやすい財務分析や財務三表の読み方セミナー、不動産オーナー向けの税務対策セミナーなど講師としても活躍中。2021年7月BDO税理士法人 札幌事務所所長

 

著書に『知れば知るほど得する税金の本』『知れば知るほど役立つ会計の本』(共に、三笠書房《知的生きかた文庫》)、『会社の整理・清算・再生手続きのすべて』(共著、中央経済社)、『改訂版 会社経営100問100答』(共著、明日香出版社)などがある。

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