出荷する野菜は洗うべきか洗わざるべきか。タケイファームが野菜を洗わない理由。
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野菜は洗うべきか、洗わざるべきか
「出荷する野菜は洗いますか?洗いませんか?」少量多品目農家であれば、一度は悩んだことがあるテーマではないでしょうか。現在、タケイファームでは基本野菜を洗いませんが、この結論に至るまでに17年かかっています。それまでは疑問を持ち悩みながら洗い続けていました。結論から申し上げると、どちらにも正当な理由があり、販売先によっても変わり、どちらも正解ということになります。
タケイファームが野菜を洗わない理由
今までは、「野菜セットの販売」「マルシェの出店」「百貨店への出荷」「レストランへの直販」の4つの販路を持っていましたが、「レストランへの直販」の1本に絞ったことで野菜を洗わないスタイルが確立されました。現在は、栽培した野菜の95%をレストランへ販売しています。
レストランには意外と土付きが喜ばれる
畑にはシェフの皆さんが見学にやってきます。中には、土付きのままのニンジンをかじったり、鼻に近づけて香りを嗅いだりします。手が土で汚れることなど全く気にしていません。フレンチのシェフが「フランスでは野菜は洗っていないのが普通。洗った野菜を直接お店に届けたらびっくりする」と言っていました。確かに僕がフランスのマルシェで見た野菜は洗っていないものが売られていました。海外で修行していたシェフにとっては、土付きの野菜は普通なのです。
あるレストランから注文が入った時に、サンプルで洗っていないニンジンを入れたことがあります。次回の注文には、「土付きニンジンもお願いします」と連絡が来ました。取引先には、ホテルの中のレストランもあるのですが、衛生上、土をホテルの中に持ち込むことを禁止している場合もあります。私は土付きのまま送るという考えがありますので、その場合は、野菜が最初に到着するホテルの購買課で洗う対処がされています。

土付きのまま販売されているマルシェの野菜
野菜の鮮度低下と傷むのを防ぐ
「見た目がきれいな方が売れやすいのでは?」と思われるかもしれません。しかし、タケイファームでは、見た目よりも「品質」を優先しています。洗った野菜は確かに美しく見えますが、表面の保護層が失われることで傷みやすくなります。特にカブやニンジンのような根菜類は、洗うことで皮の一部が傷つき、そこから乾燥や腐敗が進行しやすくなります。土付きのまま保存すると、外気の影響を受けにくく、長期間鮮度を保つことが可能です。レストランでは、仕入れた野菜をすぐに使うわけではなく、数日間保存することもあります。洗ってしまうと水分が蒸発しやすくなり、乾燥や変色が進むため、結果的には使える期間が短くなります。土付きのままの方が日持ちし、調理前に適切に洗えばよい、というのがシェフの意見なのです。

出荷する土付きのカブ
野菜の香りを伝えたい
「野菜本来の香りを届ける」という考え方があります。例えば、土付きのニンジンを手に取ると、ほんのりと土の香りが混ざった自然な香りを感じられ、シェフたちからも「野菜の香りが強い方が、料理に深みが出る」との声を多くいただきます。特にシンプルな調理法、例えばグリルや蒸し焼きにすると、土付きのまま届いた野菜の香りの違いがよく分かるそうです。
他との差別化に
レストランが野菜を購入するのは市場や八百屋が多いので、そこへ出荷する生産者は大抵洗っています。タケイファームから届く野菜は、他との差別化につながったのです。
作業効率の短縮
「品質を守るための判断」が、結果的に「作業効率の短縮」という副産物を生みだしました。少量多品目の場合、出荷する野菜の種類がたくさんありますので、洗う機械を買いそろえることは現実的ではありません。したがって基本は手洗いとなります。土付きの野菜が受け入れられるレストランへの出荷は、時間の節約、労働力の軽減となり、結果、作業効率が向上されました。
洗う派の理由
タケイファームでは基本的に野菜を洗わずに出荷していますが、「洗うべき」と考える農家や流通業者も少なくありません。出荷先によっては、洗わないと出荷できないルールがある場合もあります。
一般消費者向けの野菜は洗った方が好まれる
店頭では、ほとんどの野菜が洗われて販売されています。この販売スタイルは消費者にとっては至って普通のことでこの販売方法を気にする人はいないでしょう。過去に野菜セットの客から直接聞いた話ですが、「土をシンクの中に持ち込みたくない」という意見もありました。一般消費者にとっては、味や香りよりも見た目や毎日の調理の手間を優先している人が多いということも事実です。中には土付きの方が新鮮というイメージを持ち、受け入れる人もいますが、大半の消費者は洗った野菜を好みます。

野菜セットに入れていた洗ったカブ
鮮やかな色の野菜は洗うべき
最近では、赤・黄・紫など、カラフルな色の野菜が多く栽培されるようになりました。その野菜を販売するために色をPRする必要がある場合はきれいに洗ってある方がお客さんに伝わります。

カラフルな野菜は洗うべき
洗うべきか、洗わざるべきか、最適な選択を
出荷する野菜を洗うべきかどうかは、一概にどちらが正解とは言えません。販売先のニーズや野菜の種類、鮮度管理の考え方によって最適解は変わります。農家として重要なのは、「誰にどのような形で野菜を届けるのが最も価値を高めるのか」を常に考えることだと思います。自分の経営スタイルや取引先との関係を踏まえたうえで、最適な方法を選択することが大切です。
ABOUT執筆者紹介
武井敏信
タケイファーム代表。「営業はしない」がポリシー。今まで350種類を超える野菜を栽培し、年間栽培する野菜は約140品種。独自の販売方法を生み出し、栽培した野菜の95%をレストランへ直接販売している。趣味は食べ歩き。一般社団法人Green Collar Academy理事。青山学院大学ABS農業マーケティングゲスト講師。京都和束町PR大使。