子どもと話したいお金と税金のはなし[第7回]:アルバイト学生と税金のはなし。勤労学生控除のメリットは?注意点は?
税務ニュース
大人になるために避けてとおれない、けれど難しいお金や税金のこと。本コラムでは、経営者や経理担当者のみなさんが子どもとお話をするきっかけになるように、お金と税金のトピックについて、身近な事例を取り上げて解説します。
みなさんの家族のなかに、アルバイトをしながら大学等に通っている人はいませんか?
じつは、アルバイト学生には税金の負担を軽減できる制度があります。
第7回では、「勤労学生控除」にスポットを当て、その内容と注意点について解説します。
約8割の大学生が働きながら学んでいる
近年、働きながら学ぶ学生が一般的になってきました。
日本学生支援機構「令和4年度学生生活調査結果」によれば、アルバイトをしている昼間部の大学生は、調査数の83.8%を占めています。
アルバイトをしながら学ぶ理由として、仕送りなど家庭からの支援だけでは学費や生活費を賄えないことが挙げられます。
この調査結果によれば、アルバイトをしている昼間部の大学生83.8%のうち31.5%の学生が、家庭からの給付のみでは修学が不自由・困難であること、または家庭からの給付がないことを、アルバイトに従事する理由として回答していました。また、アルバイトをしている昼間部の大学生のアルバイト収入は、その学生の収入全体の19.1%を占めていました。
他方、学生でもアルバイトなどで収入を得れば、サラリーマンが給与収入を得るのと同様に、所得税や住民税などの課税対象となります。学生だからといって、納税義務が免除されることはありません。
働く学生を税制上支援する勤労学生控除
このように、学生であってもアルバイトなどを通じて収入があった場合は、基本的に、所得の種類や金額などに応じて、所得税や住民税などの税金を納めなければなりません。
一方で、学生である、結婚している、子供がいる、または年老いた親がいるなどの個人の事情を考慮しなければ、税負担が不公平になってしまうおそれがあります。
そこで所得税法では、各人の個人的事情、社会政策上の要請、または最低生活費の保障といった税負担面の調整を、所得税額の計算の際に所得金額から一定金額を差し引くことで行っています。「所得金額から一定金額を差し引くこと」を「所得控除」といいます。
「所得控除」のひとつとして、学生の税負担を軽減し、学生を税制上支援する位置付けで設けられているのが「勤労学生控除」です。
「勤労学生控除」は、その年の12月31日の現状で、以下の3つの要件すべてにあてはまれば、一定金額(27万円)の所得控除を受けることができるというものです。
勤労学生控除の要件
- 給与所得などの勤労による所得があること
- 合計所得金額が75万円以下、かつ勤労以外の所得が10万円以下であること
- 特定の学校の学生・生徒であること
以下、勤労学生控除の要件について、詳しくみていきましょう。
勤労学生控除の要件
要件1:給与所得などの勤労による所得があること
「勤労による所得がある」とは、アルバイトなどを通じて収入を得ている場合が該当します。働き方について、正社員、パート、またはアルバイトなどの雇用形態は問いません。
ただし、業務委託など、個人事業主として得た事業所得などは「勤労による所得」に該当しません。この点、たとえばフードデリバリーサービス配達員などによる収入は、事業所得や雑所得に該当する場合があるため、注意が必要です。
また、奨学金や親からの仕送りも「勤労による所得」に該当しません。
要件2:合計所得金額が75万円以下かつ勤労以外の所得が10万円以下であること
年間を通じて得た収入がアルバイト収入のみである場合、その収入が130万円以下であれば、合計所得金額75万円以下という要件を満たします。これは、給与所得控除後の所得金額が75万円以下となるためです。
また、アルバイト収入以外に投げ銭などの動画配信による副業収入などがある場合、これらの副業収入は雑所得として扱われるのが一般的ですが、この雑所得などのアルバイト以外の所得が10万円以下である必要があります。
要件3:特定の学校の学生・生徒であること
「特定の学校」とは、次のいずれかの学校です(図表1)。
一般的な高校や大学であれば、基本的には「特定の学校」の要件に当てはまります。
また、放送大学、通信制の学校、専修学校(高等課程および専門課程)、または職業訓練学校なども、「特定の学校」の要件に当てはまる場合がありますが、授業時間数などによっては「特定の学校」の要件に当てはまらないケースもあるため注意が必要です。
通学している学校が勤労学生控除の要件に当てはまるかどうかわからないときは、通学している学校へ問い合わせるとよいでしょう。
なお、勤労学生控除には、年齢による制限はないため、社会人学生でも勤労学生控除の対象となります。
(図表1 「特定の学校」)
(注1)一定の者とは、次の者をいいます。
(注2)一定の課程とは、次の過程をいいます。
勤労学生控除を受けるための手続き
勤労学生控除を受けるためには、年末調整か確定申告を行わなければいけません。
アルバイト先が1カ所のみであれば、扶養控除等申告書に勤労学生控除を適用する旨を記載してアルバイト先に提出し、アルバイト先で年末調整を行ってもらいます。
勤労学生控除の注意点
勤労学生控除には、学生の税負担を軽減できるメリットがありますが、以下のような注意点があります。
- 親が扶養控除を受けられなくなり親の税負担が増える場合がある
- 複数のアルバイト先がある場合は確定申告が必要
子供(学生)を扶養している親は、一定の要件を満たせば扶養控除を受けることができますが、子供のアルバイト収入が103万円を超えると、子供は所得税法上の扶養親族に該当しないため親は扶養控除を受けることができません。
その結果、親の所得税などの負担が増え、親の手取り収入が減ってしまう可能性があります。
扶養控除を受けることができない理由は、所得税法上の扶養親族を判定する際に用いる「合計所得金額」の計算において、勤労学生控除(27万円)が影響を及ぼさないためです。
つまり、アルバイト収入が130万円以下なら勤労学生控除の適用により、子供本人については所得税は課税されませんが、アルバイト収入が103万円を超えているなら、子供が勤労学生控除の適用を受けるかどうかに関係なく、子供は所得税法上の扶養親族から外れてしまうことになります。
また、前述のとおり、アルバイト先が1カ所のみであれば、勤労学生控除の適用については、基本的に年末調整のみで完結しますが、アルバイト先が複数であるなどの場合には、学生が自分自身で確定申告を行う必要があります。
メリットだけでなく注意点も
勤労学生控除の制度は、いわゆる苦学生を税制上支援するための制度ですが、この制度は必ずしもメリットだけではありません。親の扶養から外れるなどの注意点もあります。制度のしくみを正しく理解することが重要です。
なお、令和7年度税制改正では、物価上昇などの経済社会の変化や、働き方の多様化、近年の人手不足と就業調整の問題などをふまえて、「年収の壁」に関する税金のルールの見直しが行われました。
この見直しにあわせて、給与所得控除の最低補償額や、勤労学生控除および扶養控除の合計所得金額要件なども見直されます。特定親族特別控除という、大学生年代の子を有する親族が所得控除を受けることができる制度も創設されます。今後、勤労学生に関する制度についても、さらなる見直しが行われる可能性があるため、これからの動向に注目してみましょう。
ABOUT執筆者紹介
税理士 武田紀仁(たけだのりと)
たけだ税理士事務所 所長税理士
東北工業大学 ライフデザイン学部 経営デザイン学科 准教授
クリエイターや文化芸術団体支援のための税理士事務所を設立し、会計・税務・経営に関するアドバイザリーサービスを行う(たけだ税理士事務所)。大学では、財務会計論、簿記論、租税法実務などを担当。研究では、主に非営利組織体の会計・税務・情報開示に関する実証的な研究に取り組んでいる。