経営者が知っておきたい相続の基礎知識|争続を防ぐためのポイントも解説
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多額の資産を持つ経営者は、会社や個人の財産の相続について基礎知識を習得しておくことが大切です。法律で定められた「法定相続人」が複数人いる場合、遺言状を作成しないと「争続」が起きてしまう可能性があります。争続とは、遺産の分配についてトラブルになり、遺族同士の関係が悪くなることです。
そこで本記事では、経営者が知っておきたい相続の基礎知識と争続を防ぐためのポイントについて紹介します。
そもそも相続とは
相続とは、被相続人(亡くなった方)の資産や負債を相続人(相続を受ける方)に引き継ぐことです。相続人は法律で定められており、配偶者や子ども、親、兄弟姉妹などが該当します。ただし、遺言書で指定することで、家族以外の人物に遺産を引き継がせることも可能です。
相続の方法
遺言書を作成していない状況で亡くなり、なおかつ法定相続人が複数人いる場合は、遺産分割協議を行います。両方のケースについて詳しくみていきましょう。
遺族で遺産分割協議を行う
遺言書がない場合は、法定相続人全員で遺産の分配や負債の扱いなどについて取り決め、遺産分割協議書に全員の署名と押印をして役所へ提出します。1人でも署名・押印が欠けていれば、協議の内容は確定されません。
そのため、遺産を多く受け取りたい人が現れると遺産分割協議が成立せず、「争続」へと発展する恐れがあります。特に、財産額が多かったり家族関係が悪かったりする場合に争続になりやすいため、なるべく遺言書を作成しておくことが大切です。
なお、遺産分割協議でまとまらなかった場合は、家庭裁判所において「遺産分割調停」を行い、それでも解決しない場合は「遺産分割審判」となります。そこまで発展すると、今後の遺族同士の関係が悪くなる可能性が高いでしょう。
遺言書に従う
遺言書がある場合は、その内容に従って遺産分割や負債の扱いを決めます。遺言書には、被相続人が手書きで作成する「自筆証書遺言」と公証役場において作成した「公正証書遺言」があります。
遺言書を作成する際は、遺言書の内容に従って相続手続きを進める人物「遺言執行者」を立てましょう。なお、相続人の廃除や取り消し、子どもの認知といった遺言の内容は、遺言執行者がいなければ行えません。
遺言執行者は法定相続人の中から選ぶことも可能ですが、不満の声が出る可能性があるため、できれば弁護士や司法書士といった専門家に依頼しましょう。
相続の対象となる財産
相続の対象となる財産は次のとおりです。
- 現金
- 銀行口座の預金
- 不動産
- 売掛金や貸付金
- 株券
- 小切手
- 自動車や家財、船舶、宝石、美術品など
- 慰謝料請求権、損害賠償請求権など
また、次のような負債も対象となります。
- 借金
- 買掛金
- ローン残債
- 小切手
- 未払いの税金
- 未払いの光熱費や携帯電話代など
- 未払いの家賃、医療費など
- 損害賠償金
なお、財産だけ相続して負債を相続しないことは不可能です。相続を放棄する場合は、負債だけではなく財産も放棄することになります。
相続の対象にならない財産
次の財産は相続の対象になりません。
- 生活保護受給や国家資格など個人における専属的な権利義務
- 香典や弔慰金など
- 生命保険から支払われる保険金(受取人指定方法で異なる)
- 死亡退職金
- 遺族年金
- 仏像や祭具など
経営者の相続の対象についてよくある質問
経営者の相続の対象となる財産や負債において、よくある質問にお答えします。
Q.経営者の個人資産はどうなる?
法人と社長は別人格の扱いです。そのため、社長ではない場合と同じ形で個人資産は相続されます。例えば、個人が所有している不動産や自動車などは相続の対象です。社用車は会社のものであるため、相続の対象ではありません。
Q.会社の資産はどうなる?
会社の株式は、社長個人の財産として相続します。ただし、会社の資産・債務は相続されません。会社の資産は社長個人のものではなく会社のもののため、相続ができないのです。
また、会社の借金や買掛金などの負債も同様です。
Q.社長の地位は誰に引き継がれる?
社長の地位を配偶者や子どもに引き継ぐケースはありますが、必ず引き継ぐわけではありません。法律的には、経営者は会社と委任契約を結んでおり、経営者の死亡をもって契約が終了します。そして、次の経営者を選任する手続きを株主総会で行います。
そのため、社長の地位を引き継いでほしい人と事前に話し合い、承諾を得ておく必要があります。
Q.会社の連帯保証人は引き継がれる?
経営者が会社の借金の連帯保証人になっている場合は、次の経営者に連帯保証人も引き継がれます。そのため、次の経営者候補と話し合うときは、連帯保証人も引き継ぐことになる旨を伝えておくことが大切です。
Q.経営者個人が会社に貸し付けているお金はどうなる?
経営者個人が会社に貸し付けているお金は個人が持つ債権です。そのため、相続の対象となります。
経営者が知っておきたい相続税の基礎知識
相続財産の価値によっては、相続税が発生します。相続税は相続時に発生する税金のため、納税するのは相続人です。ここで注意したいのが、莫大な資産を相続したものの現金の割合が少なくて、相続税を納税できなくなることです。
そうなれば、不動産や動産などを現金に換えて納税しなければなりません。例えば、豪邸を相続したものの現金が数百万円しかない場合、相続税を納税できない可能性があります。そうなれば、豪邸を売却して現金化し、納税する必要があるのです。
このような自体を防ぐためにも、相続税対策を行う必要があります。それでは、相続税の計算方法や相続対策について詳しくみていきましょう。
相続税の計算方法
相続税の計算方法は次のとおりです。
まず相続税の対象となる財産(課税財産)を明らかにします。専門家などにも相談しながら、確認しましょう。
(1)課税財産(相続税の対象となる財産)-基礎控除3,000万円+(600万円×法定相続人の数)=課税遺産総額
(2)課税遺産総額×相続税率-控除額=相続税額
複数の相続人がいる場合は、それぞれが相続した遺産額に相続税率を乗じて控除額を差し引きましょう。相続税率と控除額は次のとおりです。
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | - |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
なお、配偶者や未成年の子どもなどへの相続については、一定割合の控除が認められています。条件が細かいため、専門家に相談することをおすすめします。
相続税対策①生前贈与する
生前贈与とは、亡くなる前に財産を相続人に贈与することです。年間110万円までの贈与が非課税になります。ただし、毎年同じ人物に対して同額を贈与すると「連年贈与」とみなされ、高額の税金がかかる可能性があります。
連年贈与とみなされないように、振り込む時期をずらしたり金額を変えたりしましょう。また、子どもの進学のように自然なタイミングで贈与することも有効です。
相続税対策②小規模宅地等の特例を利用する
一定の要件を満たすことで、住宅の評価額から一定割合を控除できます。330平方メートルが上限で、軽減割合は80%です。また、配偶者や同居している親族など細かな要件があるため、専門家に相談しましょう。
相続税対策③養子の活用
相続税の基礎控除額は法定相続人の数で変動するため、孫や実子の配偶者を養子にすると基礎控除が増えて、相続税を抑えることができます。ただし、法定相続人の数に含めることができる養子の数は、実子がいる場合は1人まで、実子がいない場合は2人までと定められています。また、養子となった孫は相続税が2割加算される点にも注意が必要です。
養子縁組は家族に相談なく行うとトラブルになるリスクがあるため、事前に十分に話し合って決めましょう。
相続で遺族に負担をかけないためにも基礎知識を身につけましょう
相続税は、課税される財産の評価額や控除などによって、金額が大きく変動します。多額の財産を持つ場合は、相続税によって遺族が困ることがないように対策しましょう。また、会社の財産や負債は相続されない、経営者の地位が自動で承継されないなど、よくある間違いについても確認が必要です。
今回、解説した相続の基礎知識や相続対策の方法などをチェックして、より良い相続方法を考えてみてください。
ABOUT執筆者紹介
加藤良大
フリーライター
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歴11年フリーライター。執筆実績は23,000本以上。
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