26 February

ほとんどの人ができない所得税の正しい計算。累進課税とは

掲載日:2024年02月26日   
税務ニュース

元国税職員さんきゅう倉田です。好きな税務調査は「任意調査」です。

2023年4月に東京大学に入学し、2月からは春休みを満喫しています。春休みにやることといえば、「確定申告」ですね。経費を入力し、売上を入力し、所得を計算し、社会保険料などを控除して、所得税率をかけて、所得税を計算する。

少し前までは紙の確定申告書に手書きで行っていました。ぼくが税務署で確定申告の応援業務を行っていたときは、所得税の税率表を首から下げて納税者のみなさんの補助として計算をしていましたが、今ではパソコンやスマホでの申告が主流です。

確定申告期間に税務署や確定申告の会場に行っても、紙で確定申告書を作成することはなく、パソコンが割り当てられネットワーク上で送信、控えはプリンタで出力します。面倒な計算もないので、とても楽になりました。税の三原則の中に「簡素」があります。税制度は無駄や余計なものを省いたものである必要があり、納税や申告の方法も同様です。確定申告の簡素化・単純化は納税者の納税を促すことは間違いありません。

確定申告が簡単になること、そして源泉徴収や年末調整によって個人が税金の計算をしなくてよい環境は、各人の納税意識の醸成や税制度の把握を妨げます。

筆者は「別に個人個人が税制度を理解していなくても、しっかり正しく納めていればいい」と思う一方で、自分がどのくらい納めているのか、納めている金額は周囲の人より多いのか少ないのか、税率はどのくらいなのかを知るべきだと考えています。

そこで、今回は所得税の計算に用いられている「累進課税制度」を紹介します。

所得税はどうやって計算する?

国税庁のホームページから、所得税の税率が書かれた表を拝借しました。

これだけ見てもなんのことだかさっぱりわかりません。

ちなみに、「国税庁」というのは財務省の外局です。財務省の中には主計局や主税局などがたくさんの部署がありますが、その中で特殊かつ独立性の強い部署が部署が外局として設置されています。この国税庁の下に国税局、そのさらに下に税務署があり、職員は異動によってそれらを行ったり来たりします。

みなさんが税金のことを調べる際は、ソリマチさんのサイトを見るか国税庁のサイトを見るかの2択で検討するとよいでしょう。

累進課税に話を戻します。先ほどの表を見ると、「課税される所得金額」「税率」「控除額」とあります。課税される所得金額とは、会社員の方であれば、収入から給与所得控除を引いて所得を計算し、そこからさらに扶養控除や社会保険料控除を引いて算出した金額です。ここに所得税をかけることになります。

税率は、まさしく所得税の税率です。現在は5%から45%までとなっていて、住民税が10%なので、裕福な方は合わせて55%の税率となり、いわゆる世に言うところの「稼いでも半分持っていかれる」という不満の根拠となっています。
課税される所得金額の一列目を見てみましょう。

1,000円からおよそ195万円までの範囲となっています。この範囲には5%の所得税がかかることがわかります。次の列も見てみます。

195万円からおよそ330万円までは10%の所得税がかかります。ちょっと計算してみましょう。課税される所得金額が200万円だとします。みなさんだったらどうしますか。200万円に10%をかけますか。税金の講演会やイベントでこの累進課税を計算してもらうことがありますが、ほとんどの参加者が正しく計算できません。

もし200万円×10%=20万円だとすると、「累進課税」とは言えません。累進課税の意味するところがわからなかったとしても、おかしいと思いませんか。

200万円の人の所得税が20万円だとすると、手元に残るのは180万円です。では、190万円の人の所得税を計算してみましょう。税率は5%なので190万円×5%=9.5万円。190万円の人の手元に残るのは180.5万円となります。これでは200万円の人より多くなってしまう。

たくさん働いた方が手に入るお金が少なくなるなんて、不合理だと思いませんか。きっと多くの人の労働意欲を奪い、国内経済の衰退を招くでしょう。

正しい計算方法では、1,000円からおよそ195万円の範囲には5%の所得税をかけて、それを超える範囲には10%の所得税をかけます。これが累進課税です。このような税率を「超過累進税率」と呼びます。

もう一度表全体を見てみます。

7列もあって計算が大変そうです。そこで、右端の「控除額」を使います。

例えば、所得が5,000万円だとします。さきほどのように、◯◯から〇〇の範囲には5%をかけて、△△から△△の範囲には10%をかけて・・・と計算するのは煩雑です。そこで、5,000万円に45%をかけます。そこから表の「45%」の横にある「4,796,000円」を引きます。すると、あら不思議、正しい所得税が計算できます。このような表を「速算表」といい、古来より国税職員に愛されています。

今回は累進課税制度の解説を行いました。自分で計算をする機会はないかもしれませんが、所得税の仕組みを理解するため、また自身の納税額を知るために重要です。

「税金が高いな」と思うこともあるかもしれませんが、もしかしたら、あなたはそんなに払っていないかもしれない。

ABOUT執筆者紹介

さんきゅう倉田

吉本興業

大学卒業後、東京国税局に入局。法人の税務調査などを行った後、吉本興業で芸人となる。著書に『お金の貯め方増やし方』(東洋経済新報社)などがある。

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