子どもと話したいお金と税金のはなし[第4回]:環境と税金のはなし。森林環境税を知っていますか?
おんすけと学ぶ税務情報
大人になるために避けてとおれない、けれど難しいお金や税金のこと。本コラムでは、経営者や経理担当者のみなさんがお子さんとお話をするきっかけになるように、お金と税金のトピックについて、身近な事例を取り上げて解説します。
森林環境税という新しい税を知っていますか?
実はすでに、令和6年度から1人1,000円が住民税に上乗せされるかたちで徴収されています。
第4回では、この森林環境税を中心に、環境と税金の関係にスポットを当ててみましょう。
森林環境税を知っていますか?
令和6年度から森林環境税という新しい税がスタートしているのを知っていますか?
森林環境税は、国内に住所を有する個人に対して課される国税です。国内の森林整備などを目的に、住民税に上乗せされる形で徴収されます。
近年、地球温暖化、大気汚染、水質保全などの環境問題が話題にあがりますが、この対策の一つとして世界的に議論が重ねられているのが「環境税」という税金です。
前述の森林環境税は、名前からすると「環境税」の一種のようにもみえますが、森林環境税とはいったいどのような税金なのでしょう?
環境税ってどんな税?
世界の環境税
一般的に「環境税」は、「環境保全を目的として課す税」といわれています。
たとえば、地球温暖化を引き起こすといわれている二酸化炭素排出量に対する「炭素税」がその一例です。
世界で初めて炭素税を導入したのは1990年のフィンランドです。今まであった燃料課税に付加するかたちで、炭素含有量に応じた税率が設定されました。また、オランダでは今まであった鉱油税に加えて一般燃料税が導入され、ドイツでもガソリンや軽油などに対する税率が引き上げられています。
ほかには、たとえば包装容器に対する「包装税」もあります。デンマークでは使い捨て容器や食品包装用ラップに対する課税が、またイギリスでは再生プラスチックの利用率の低い包装材に対する課税が行われています。
これらの環境税(または環境関連税)に関しては、経済協力開発機構(OECD)が世界各国の詳細なデータベースを作成して公開しています。
環境税を課す理由
このようなエネルギーや包装容器に対する税が「環境税」とよばれているのはなぜでしょう?
その理由は、エネルギーに対する課税を行えば、それがエネルギーの価格を上昇させるためにエネルギーの利用量が減少し、結果として、二酸化炭素の排出による地球温暖化や窒素酸化物などの排出による大気汚染などの環境悪化を抑制する効果が期待できるためです。
包装容器に対する課税も同様に、プラスチック容器に対して課税することで、包装容器の使用がおさえられ、結果的に廃棄物が減るため環境悪化を抑制できると考えるのです。
環境税の考え方は、製造または消費により環境汚染を引き起こすようなものに対して汚染防止コストなどを反映させるというものです(汚染者負担の原則)。
また同時に、環境負荷を軽減する技術革新などをもたらす効果も期待できます。
このように、環境税は「環境負荷を減らすための経済的な動機を与える」ことを目的とした税なのです。
日本のエネルギー税は環境税?
日本のエネルギー税
日本でもエネルギーに関連する税がいくつか存在しています。たとえば、ガソリンには揮発油税が、タクシーなどが利用する液化石油ガス(LPG)には石油ガス税が課されています。ほかには、石油や天然ガスの輸入の際の関税である原油等関税、石油・石炭・天然ガスの生産などに課される石油石炭税などがあります。
しかし、このような従来の日本のエネルギー税は、そもそも環境負荷の低減を目的として課されているものではありません。これらの税は、エネルギー対策、道路整備、空港整備などの「特定の財源確保」が目的とされています。
そのため、従来の日本のエネルギー税は、「環境負荷を減らすための経済的な動機を与える」という一般的な環境税とはその性質や目的が異なっていたといえるでしょう。
日本の地球温暖化対策税
その後、平成24年の税制改正で「地球温暖化対策のための課税の特例(地球温暖化対策税)」が導入されました。
この「地球温暖化対策税」は、いままでの石油石炭税に上乗せ税率を加えることで、二酸化炭素排出量に応じた課税を行うというものです。「地球温暖化対策税」を課すことで,二酸化炭素排出の抑制や地球温暖化に対する国民の意識や行動の変化を促すことが期待されます。
世界で最初に炭素税を導入したフィンランドから25年近く経過して、日本でもようやく環境に配慮した税制の枠組みが導入されたのです。
森林環境税は環境税?
地球温暖化対策税と同様に、日本が京都議定書の約束を果たすために導入されたのが、国税としての森林環境税です。
とはいっても、地方自治体による独自財源としての森林環境税は、2003年から存在していました。全国に先駆けて導入したのは高知県です。
それとは別に令和6年度から個人住民税均等割の枠組みを用いて徴収されることになったのが、国税としての森林環境税です。
森林環境税は、令和6年度から個人住民税と併せて賦課徴収される国税です。その税率は年額1,000円ですが、新たに1,000円の負担が生じるわけではありません。
平成26年度から令和5年度までの間、東日本大震災の復興財源として個人住民税の均等割額に年1,000円が上乗せされているしくみがあったのですが、東日本大震災復興税の終了に伴い、このしくみを転用して令和6年度から同額が賦課徴収され、県・市町村に森林環境譲与税として配分されます(図表1)。
(図表1 森林環境税および森林環境譲与税のしくみ)
森林環境譲与税は、市町村が行う「民有林の間伐や人材育成・担い手の確保、木材利用の促進や普及啓発等の森林整備及びその促進に関する費用」に充てることとされています。
森林環境税および森林環境譲与税を一言で説明するならば、森林に関連する事業に必要な「特定の財源を確保するための税」といえます。
そのため、森林環境税や森林環境譲与税は、従来の日本のエネルギー税と同様に、一般的な環境税とはその性質や目的が異なることがわかります。
森林環境税や森林環境譲与税は、環境税という名前はついているものの、森林保全のための経済的な動機を与えるというものではなく、国民ひとりひとりが森林整備に必要な財源を広く等しく共同で負担するという性質や目的の税なのです。
さて、森林環境税というかたちで徴収されて市町村等に配分される森林環境譲与税については、適正な使途に用いられることが担保されるように、その使い道をインターネットなどを通じて公表することが義務付けられています。
新しい森林環境税をきっかけに、税がどのような目的で設けられているのか・税がどのようにつかわれているのかなど、興味をもって調べてみてはいかがでしょうか?夏休みの自由研究の題材になるかもしれませんね。
ABOUT執筆者紹介
税理士 武田紀仁
クリエイターとスモールビジネスを支える税理士。クリエイティブ産業で活動する中小法人や、漫画家・イラストレーター・デザイナー・ものづくり作家などの個人事業主(フリーランス)を対象とした税務・会計・経営アドバイザリーサービスを得意とする。また、自身のもう一つのライフワークとして、文化芸術領域の会計と情報開示についての研究活動も行っている。