23 August

個人事業主も活用したいクラウドファンディングのしくみと税金[第2回]:購入型クラウドファンディングに係る税金①

掲載日:2024年08月23日   
起業応援・創業ガイド

近年、フリーランスや個人事業主も活用できる資金調達手段として注目されているクラウドファンディング。何回かの連載で、フリーランスや個人事業主が知っておきたいクラウドファンディングのしくみと税金について解説します。第2回では購入型クラウドファンディングに係る税金について、所得税と住民税にスポットをあててみましょう。

購入型クラウドファンディングとは

「購入型クラウドファンディング」は、資金調達者が商品やサービスをリターンとして設定し資金提供を募る方法です。資金調達者は集めた資金を活用して商品・サービスを開発し、プロジェクトに賛同し支援金を支払った資金提供者は、クラウドファンディングの成立後、完成した商品・サービスをリターンとして受け取ります。

このように、「購入型クラウドファンディング」は、商品などの開発資金を大人数で提供し完成品を受け取ることから、実態としては共同購入に近い性質があります。

購入型クラウドファンディングのメリットとデメリット

クラウドファンディングの本来の目的は資金調達ですが、クラウドファンディングによって得られるメリットはそれだけではありません。

まず、資金面のメリットです。「購入型クラウドファンディング」を通じて、資金調達者は、新しい商品やサービスを市場に出す前に予約販売のかたちで販売することができます。購入型クラウドファンディングでは、これから開発予定の商品やサービスをリターンとして提供するのが一般的ですが、開発資金を獲得してから商品やサービスの開発をスタートできるのは、事業者にとって大きなメリットといえます。

次に、マーケティング面のメリットです。購入型クラウドファンディングを活用して、テストマーケティングを行うことができます。新しい商品やサービスを本格的に販売する前に消費者からの生の意見や評価を得ることで、訴求対象となるターゲットの分析や商品の改善につながる可能性があります。

また、広告・PR面のメリットもあります。クラウドファンディングサイトを通じてプロジェクトを公開することで、多くの人に新しい商品やサービスを知ってもらう機会が増えます。たとえ資金調達の成果は出なかったとしても、クラウドファンディング終了後も中長期的に応援してくれるファンを獲得するという副次的な効果も期待できるのです。

その一方で、アイディアやノウハウを、インターネットを通じて不特定多数の人に公開するため、アイディアを盗まれる、安価な類似品が出回るなどのリスクがあります。

また、「購入型クラウドファンディング」は特定商取引法の「通信販売」に該当するため、事業者の連絡先等を公開しなければならないなどのルールがあり、ルールに違反するとペナルティが科される可能性もあります。

資金調達者は確定申告が必要

クラウドファンディングにはいくつか種類がありますが、その種類ごとに関係する税金も異なるため注意が必要です。

「購入型クラウドファンディング」で集めた資金は、資金調達者が事業者であれば事業所得、それ以外の場合には雑所得として、所得税および住民税が課税されます。

個人の所得については、その性格により10種類に区分し、それぞれ一定のルールで計算された所得金額を合算して課税されるしくみになっています。10種類の所得区分については、以下のコラムも参考にしてください。

資金調達者が事業者の場合

まず、資金調達者が事業を営んでいる場合についてみてみましょう。

「購入型クラウドファンディング」においては、資金調達者を支援するというかたちをとっているため「支援」や「応援」といった言葉が使われていますが、その実態は事業者が行う通常の売買取引と同じです。資金調達者はリターンという名目で商品やサービスを提供し、資金提供者は支援金という名目でその対価を支払っているわけです。そのため資金調達者が資金提供者から受け取った資金は、事業所得として所得税および住民税の課税対象となります。

一方で、通常の売買取引と異なるのは、対価が支払われるタイミングです。
通常ならば商品の引渡し後に対価が支払われますが、「購入型クラウドファンディング」では、商品の完成前(商品の引渡し前)に支援金という名目で対価が支払われます。

これは予約販売に該当するため、2つのステップで収益を認識します。すなわち、資金調達者は支援金を受け取ったタイミングでいったん「前受金」として負債を計上し、その後リターンとして商品の引渡しやサービスの提供が完了したタイミングで「売上高」として収益を計上することになります。

資金調達者が事業者以外の場合

次に、資金調達者が事業を営んでいない場合についてみてみましょう。

「購入型クラウドファンディング」は、会社員、学生や主婦など個人事業を営んでいない人でも実施することができますが、資金調達者が事業を行なっていない場合でも、クラウドファンディングで獲得した支援金は課税対象になり、雑所得として所得税や住民税が課税されます。たとえば、会社員などの給与所得者がクラウドファンディングを行った場合は、獲得した資金は雑所得として確定申告することになります。

また、資金調達者が事業を営んでいる場合であっても、クラウドファンディングの目的として告知したプロジェクトの内容が、資金調達者が営んでいる事業とは関係がない場合も雑所得として所得税および住民税が課税されます。たとえば、不動産貸付業を営んでいる人が、新規事業としてパン屋の開業資金をクラウドファンディングを通じて獲得した場合、獲得した資金は雑所得として確定申告することになります。

確定申告不要のケースも

資金調達者が事業を行なっていない場合、確定申告の必要がないケースがあります。

たとえば、以下のようにクラウドファンディングで獲得した資金が少額であった場合です。雑所得の金額が基礎控除額以下の場合は、基礎控除額を差し引くことで課税対象になる所得の金額がゼロになるため、確定申告の必要はありません。

  • 他に所得がない人で、クラウドファンディングによる雑所得の金額が48万円以下の場合

また、支援金が目標額に届かず、収入金額よりも必要費用の方が大きくなってしまうケースのように、クラウドファンディングの結果が赤字になった場合には、雑所得について確定申告の必要はありません。雑所得の金額の計算上生じた損失は、給与所得などの他の所得金額から控除することができないためです。

  • クラウドファンディングで獲得した支援金よりもリターンなどにかかった必要経費の方が多い場合

さらに、資金調達者が会社員などの給与所得者で、雑所得の金額が20万円以下の場合は、一定の条件に当てはまれば確定申告が不要になる特別なルールがあります。たとえば、以下のようなケースです。

  • 勤務先1カ所からのみ給与の支払いを受けている人で、クラウドファンディングに係る雑所得などの合計額が20万円以下の場合
  • 勤務先2カ所以上から給与の支払いを受けている人で、副業の給与とクラウドファンディングに係る雑所得などの合計額が20万円以下の場合
雑所得の金額が20万円以下であるかどうかは、収入額(支援者から集まった金額の総額)から必要経費(プラットフォーム事業者に支払った手数料やリターンの制作や発送のために使った費用など)を差し引いて判定します。収入額はクラウドファンディング事業者からの入金額ではないことに注意しましょう。

注意すべきは、この特別ルールは「年末調整をした人の雑所得が少額(20万円以下)だったら、その雑所得に関する個別の所得税の確定申告は不要」というルールであって、「雑所得は20万円まで非課税」というルールではない点です。

そのため医療費控除や寄附金控除(ふるさと納税)の適用を受けるために確定申告を行う場合や年末調整の対象にならない場合は、クラウドファンディングで獲得した20万円以下の雑所得もきちんと申告書に記載したうえで、給与所得と合算して確定申告を行う必要があります。

なお、住民税にはこの「申告不要ルール」はありませんので、所得税は申告が不要であっても、別途、住民税の申告は必要です。

このように、クラウドファンディングに係る税金は、資金調達者を取り巻く状況によってさまざまです。判断が難しい局面も多いため、事前に専門家に相談するとよいでしょう。

「購入型クラウドファンディング」で獲得した資金にはしっかり税金がかかってしまうため、支援金を有効活用するためには節税方法について検討したり、必要経費を正しく計上したりすることも重要です。次回は「購入型クラウドファンディング」を実施するうえで知っておきたい節税方法や必要経費の考え方について解説します。

(免責事項)本コラムの内容は、投稿時点での税法、会計基準、会社法その他の法令等に基づき記載しています。また、読者が理解しやすいように、原則的な取扱いを簡略化して説明しています。本コラムの情報に基づいて実務や判断を行う場合には、専門家・税務署に相談、または十分に内容を検討のうえ実行してください。本情報の利用により損害が発生することがあっても、当事務所は一切責任を負いかねます。なお、当事務所では本コラムに関する個別のご質問は受け付けておりません。予めご了承ください。
ABOUT執筆者紹介

税理士 武田紀仁

たけだ税理士事務所

クリエイターとスモールビジネスを支える税理士。クリエイティブ産業で活動する中小法人や、漫画家・イラストレーター・デザイナー・ものづくり作家などの個人事業主(フリーランス)を対象とした税務・会計・経営アドバイザリーサービスを得意とする。また、自身のもう一つのライフワークとして、文化芸術領域の会計と情報開示についての研究活動も行っている。

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