公益法人における特定収入と出向負担金
税務ニュース
特定収入とは
消費税の中で最も難しい論点の一つに、特定収入があります。特定収入とは、補助金など消費税が課税されない一定の収入を意味します。消費税が課税されない収入ですので、一般企業では全く問題になりませんが、公益法人ではこれが問題になるのです。
公益法人は、その事業の性質から、補助金や会費などで経営を行うことが多くあります。補助金も会費も消費税がかかりませんが、支払う経費、例えば消耗品費や事務所家賃には、消費税が課税されます。
このため、公益法人は消費税が課税されない収入を基に、消費税が課税される経費を支出する傾向があり、そうなると受け取る消費税よりも支払う消費税が多いということになります。一般企業では、設備投資を行うなどして消費税の支払額が大きい場合、消費税が還付されることになりますので、何も調整がなければこのような公益法人も消費税が還付されることになります。
公益法人の調整
補助金や会費など、消費税がかからない収入が大きい公益法人だからこそ、消費税の還付が受けやすくなる訳で、このような事態を避けるために、公益法人は消費税の計算上、一定の場合を除き、特定収入の調整を行うこととされています。
具体的には、補助金などの特定収入を貰った場合、その特例収入を原資としている経費として一定の方法で計算した金額を、支払った消費税額から除くこととされています。このため、公益法人が受ける収入が特定収入に該当するか重要になりますが、消費税が課税されない収入といっても例外もあり、その判断は非常に複雑です。
特定収入に該当するかで揉めた事例
特定収入の具体例としては、会費や寄附金、そして損害賠償金などがあると言われます。しかし、特定収入に該当するかは個別に判断せざるを得ず、税務署とよく解釈で揉めることになります。先日の裁決事例では、出向負担金が問題になりました。
出向者の給与について、出向先法人が出向元法人に支払う出向負担金は、消費税が課税されませんので、この事例では特定収入に該当するとされました。しかし、出向負担金は出向者の給与に充てられるものです。給与に対しては消費税が課税されませんから、出向負担金をいくら支払っても給与が増えるだけで支払う消費税は増えません。このため、消費税の還付は生じません。このため、趣旨としては、出向負担金を特定収入とする必要はないはずで、実際、「法令又は交付要綱等」によって、消費税の対象にならない人件費などに使途が特定されている補助金などは、特定収入に当たらないとされています。
出向負担金は契約に基づく
しかし、この裁決では、出向負担金の使途は「法令又は交付要綱等」ではなく、「出向契約」で決まるため特定収入に該当すると判断されています。言われてみればその通りですが、給与にしか使えないことは間違いない訳で、非常に酷な判断になっています。
困ったことに、この複雑な特定収入が問題になるケースが現在飛躍的に増えています。なぜなら、一般社団法人も消費税法では公益法人扱いされるからです。一般社団法人は登記だけで設立できますので設立しやすいこと、そして相続税対策にも使えることから、非常に数が多いです。
一般社団法人の処理ミスに要注意
一般社団法人の法人税の申告は基本的には一般企業と同様とされています。しかし、消費税申告では特定収入の調整の対象になり、一般企業の計算とは異なります。この点、法人税の申告と同じように考えてしまい、特定収入の調整を失念するケアレスミスが多く見られます。
とりわけ、中小企業の実務で出向は普通に行われます。一般社団法人の職員を他企業に出向させて負担金を貰うことも普通に見られますから、処理を失念しないよう注意してください。
ABOUT執筆者紹介
元国税調査官・税理士 松嶋洋
昭和54年福岡県生まれ。平成14年東京大学卒。国民生活金融公庫(現日本政策金融公庫)、東京国税局、日本税制研究所を経て、平成23年9月に独立。現在は税理士の税理士として、全国の税理士の税務調査や税務相談に従事しているほか、税務調査対策・税務訴訟等のコンサルティング並びにセミナー及び執筆も主な業務として活動。
著書に『最新リース税制』(共著)、『国際的二重課税排除の制度と実務』(共著)、『税務署の裏側』、『社長、その領収書は経費で落とせます!』『押せば意外に税務署なんて怖くない』などがあり、現在納税通信において「税務調査の真実と調査官の本音」という500回を超える税務調査に関するコラムを連載中。