22 November

【契約書の基本】トラブル防止のためのチェックポイント①業務委託契約書(フリーランス向け)

掲載日:2024年11月22日   
起業応援・創業ガイド

今回から数回にわたって、契約書の基本を解説します。1回目の今回はフリーランスの方向けです。よく使われる業務委託契約書のポイントをわかりやすくお伝えします。

フリーランスに多い「業務委託契約書」とは?目的を確認

業務委託契約とは、企業が業務をフリーランスや法人などに外注する際に締結する契約形態のことです。コンテンツ制作やシステム管理などを中心に、幅広い業務委託で行われます。この契約を締結する際に作成するのが「業務委託契約書」です。

本来、口頭でも契約は成立します。それなのに、なぜわざわざ契約書という書面を作成するのでしょうか。これには次のような目的があるからです。

合意内容を明確にする

口頭での約束は、言った側と言われた側で解釈が異なることがあります。

例えば「納期は依頼日から2週間後が目安」という決め事です。言った側は2週間より前を期待しているかもしれません。一方言われた側は「2週間を多少過ぎてもいいや」と受け取っている可能性があります。双方の理解が食い違っていると、業務開始後にトラブルに発展するかもしれません。

契約事項からあいまいさをなくし、より具体的に決めるには、書面に落とし込むことが重要です。

「言った」「言わない」の争いを防ぐ

口約束でもっとも多いトラブルは「言ったはずだ」「そんなの聞いていない」という水掛け論です。口頭での約束だけで済ませてしまうと、それぞれが自分の都合のよいように解釈する可能性が高くなります。また、人間の記憶も変わりがちです。そのため、口頭だけだと報酬額や納期、支払期日について争いが生じる可能性が高くなります。

契約内容を書面にし、双方が確認の署名をすれば、こういった無用な争いを防ぐことができます。

契約事項の抜け漏れをなくす

口約束だと、気になるところだけを決めてしまいがちです。「トラブルが生じたときはどうするか」「期日通りに納品できなかったらどうするか」といったことについての決め事が抜け落ちる可能性があります。書面にすると、目で契約事項が確認できるので、こういった抜け漏れを防ぐことができます。

契約を守るための意識づけ

口約束だと、決め事をしてもいい加減になりがちです。しかし、書面という形で残すと、目で確認できる効果もあいまって「いったん決めたのだから守らなくては」という意識が生まれます。

業務委託契約書を作成するまでの流れ

業務委託契約書を作成するまでの流れは通常、次のようになります。

業務委託の依頼を口頭で承諾すると、すぐに依頼者から契約書の草稿が送られてくることがあります。また、依頼そのものは担当部署が行いますが、契約書の作成や確認は企業の法務部などの管理部門が行います。契約事項の一部について「こうしてほしい」という要望を出しても、管理部門が拒否することもめずらしくありません。このような場合、交渉をし続けるか否かなどを再度検討する必要があります。

なお、管理部門が確認するからといって、受託者側に不利な内容がないとは言い切れない点にも注意が必要です。

業務委託契約書で確認すべきポイント

委託される業務内容によって契約事項は異なりますが、共通するものもあります。次のような事項です。それぞれ、確認すべき点を解説します。

業務内容

受託者が行う業務の内容を記載します。「どのような業務を行うのか」だけでなく量や頻度、業務を行う場所や納品方法、納品期日についても定めます。この項目は、解釈の余地が生じないように定めましょう。また、付随する業務が発生したときにどうするかの対処方法も決めておくとトラブルを防ぎやすくなります。

報酬の額・支払時期・支払条件

報酬については金額だけでなく、消費税(内税化外税か)や源泉所得税についても確認します。消費税については「内税か外税か」だけでなく、インボイスを発行しない場合の値決めも焦点になります。また、支払時期については、独占禁止法や下請法などに違反していないかどうかも確認が必要です。

契約期間

業務の開始日・終了日を明確にします。このほか、契約の自動更新をするかしないか、自動更新するとしたら事前通知をするか否かもあわせて記載します。自動更新等の記載がなければ、契約期間終了後、あらためて依頼があったのなら再度契約する必要が生じます。

秘密保持

秘密保持とは、業務に関し委託者と受託者の間で共有した情報を第三者に漏洩しない旨の取り決めです。記事執筆などでは取材先や執筆テーマを外部に漏らしてはならない旨を記載するのが一般的です。この場合、裁判所や警察などといった行政機関から開示するよう要請があった場合など例外的な扱いについても記載しておくとよいでしょう。

成果物の権利

記事やデザイン、システム開発などでは、成果物の著作権などといった権利の所属先が問題となります。この場合の所属先を記載します。

上記のほか、次のような事項も契約書内で記載することが一般的です。

  • 契約不適合責任…成果物に瑕疵があった場合の対処法を取り決めます
  • 禁止事項…業務内容によっては再委託が禁止事項となります
  • 再委託…通常は再委託不可。ただし委託者の了承があれば可能となることも
  • 契約解除…契約解除となる条件、タイミング、方法など
  • 損害賠償…契約解除や契約違反となったときの賠償責任や訴訟となるときの第一審裁判所を決めます

業務委託契約書の注意点

業務委託契約書を作成する場合、フリーランスは次の点に注意しましょう。

納得いくまで話し合う

契約書はていねいに確認し、疑問になる箇所や変更してほしい箇所があったら必ず申し出ましょう。ここで大事なのは「納得がいくまで話し合う」ことです。「先方の言い分をきちんと聞く」「変更してほしいなら、その理由も伝える」などを心がけましょう。

形だけの契約書など存在しない

契約書の作成にあたり「形だけのものですから」と先方から言われることがあります。しかし、実際にトラブルが起きたときに効力を持つのは書面です。また、形だけで実質がないのなら、そもそも契約を文書化する必要などないこととなります。「形だけ」という言葉を鵜呑みにしてはいけません。

まとめ

今回、業務委託契約書のお話をしましたが、商取引でもっとも大事なのは信頼関係を築くことです。業務委託契約書の作成は、その第一歩に過ぎません。契約書の作成段階から、取引先の姿勢を見つつ、こちらも誠意を見せ、お互いが気持ちよく仕事を行えるよう、心がけて行きましょう。

ABOUT執筆者紹介

行政書士 鈴木良洋

1974年生まれ。1996年行政書士試験合格、1998年中央大学法学部政治学科卒業。2002年行政書士登録。建設業、司法書士事務所、行政事務所勤務を経て2004年独立開業。20年超、外国人の在留手続を専門に外国人の起業・経営支援を行う。これまでの取扱件数4000件超。元ドリームゲートアドバイザー。

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