東海道新幹線の誕生PartⅡ~イノベーションを生み出す経営者の役割
社会保険ワンポイントコラム
前回は「東海道新幹線の誕生~異分野の技術者とサーバント・リーダー」と題して、戦後日本復興のシンボルともいえる東海道新幹線が異分野の若手技術者と、それを支えたサーバントリーダーとの相乗効果によって誕生したことをお話しました。そして、現代のような先行き不透明な時代にも、このような経験則が通用するであろうことを説きました。今回は、その続編として、他の「イノベーション」の例を挙げながら、「イノベーション」を起こすために最も大切な条件とは何なのかを解説していきます。
シュンペーターのイノベーション
イノベーションの父とも言われる経済学者のヨーゼフ・シュンペーターは、「イノベーションとは新結合(New Combinatin)」だと述べています。つまり、「イノベーション」は、「無」から起こるのではなく、「既存の知(すでに保有している)」と「既存の知(まだ保有していない)」が結びつくことによって生まれる「新しい知」のことであるという意味です。
ビートルズの誕生もイノベーション
興味が湧くイノベーションの例を紹介しましょう。筆者の世代にとっては、音楽の神様ともいえる「ビートルズ」の誕生秘話です。ビートルズのメンバー4人(ジョン・レノン、ポール・マッカートニー、リンゴ・スター、ジョージ・ハリスン)はイギリスのリバプール出身です。
イギリス中西部のアイリッシュ海に面したリバプールは、筆者が訪れた30年前には、イギリスの凋落を象徴するように廃れていましたが、元々は海運業が盛んな港町でした。近くのマンチェスターで生産された綿織物などが世界に輸出され、またアメリカやアフリカ等との貿易を独占していたほどでした。
また、彼らの少年時代にはアメリカのニューヨークとの間に大西洋航路が就航しており、当時アメリカで生まれつつあったロックンロールやR&B(リズム&ブルース)のレコードが船員さんによって持ち込まれていました。高校生だったジョン・レノンやポール・マッカートニーは、イギリスで盛んだったスキッフルという音楽に慣れ親しんでいたのですが、アメリカの斬新な音楽をも聴いて育ったのです。
彼らの潜在能力が高かったのはもちろんですが、母国で流行していたスキッフルという「既存の知(すでに保有している)」と異国のロックンロールやR&Bという「既存の知(まだ保有していない)」が結合し、ビートルズサウンズ「新しい知」が生まれたのです。そして世界を席巻しました。
会社ではイノベーションが起こりづらい
このようにして「イノベーション」は起こるのですが、これを会社に置き換えてみましょう。当たり前ですが、会社には連綿と続く「既存事業」があります。この事業が未来永劫廃れることがなければ、これを深化させ生産性を向上させるだけでいいわけです。
しかし、そうでなければ「新規事業」を編み出さないと会社のゴーイング・コンサーンは失われてしまいます。このことが分かっていても、会社は過去の成功体験や短期効率性を重視してしまいがちです。なぜなら、新しい分野へ進出するには、時間や人やお金もかかり、何より失敗することも多く非効率だと捉えられてしまうからです。
会社のイノベーションはリーダーがキーパーソン
前回、今回と「イノベーション」が起こった事例を採り上げました。これらのケースでは、時代や環境といった外部要因が味方して、幸運にも「イノベーション」が起こったとも言えます。翻って、会社の経営に関しては首尾よくレールの上を走れる環境が用意されているとは限りません。スムーズにイノベーションにつながるような環境を作っていくのはやはり経営者しかいません。
ただ、昔と今では経営者の役割が大きく変わっていると思います。昔は、的確な判断力をもって大胆な決定を下し、常に先頭に立って事を進めることが経営者の役割でした。しかし、今は、組織の中で人材を発掘し、その才能を育て、より力が発揮されるような環境を創り上げていくこと。つまり、「トップは縁の下の力持ち」=「サーバントリーダー」に徹することが求められているのではないでしょうか。
経営トップのカリスマ性が高い企業は確かに目立ちますし、伸び盛りのところもあると思います。しかし、先々失速しやすい傾向も否定できません。トップが強すぎて、オールマイティであればあるほど、部下はヒラメ人間になってしまい、組織が機能しなくなるということもあります。
トップは、よい意味で「アホ」に徹する場面も必要だと思います。明治の元勲、大隈重信は白瀬中尉の「南極探検隊」を政治的・経済的に支援したサーバント・リーダーでした。白瀬が南極に出発するときの大隈の言葉がふるっています。曰く「南極は地球の最南端にある。南洋でさえあれだけ暑いのだから、南極はさらに暑いだろう。暑さにやられぬよう十分に気をつけたまえ。」
日本では、御山の大将に固執するケースが往々にして見られます。権力は快感なのです。権力の美酒に驕るより、部下のプロジェクトを一体的に支援していく、これが今後のリーダーのあるべき姿ではないでしょうか。
ABOUT執筆者紹介
大曲義典
株式会社WiseBrainsConsultant&アソシエイツ 代表取締役
大曲義典 社会保険労務士事務所 所長
関西学院大学卒業後に長崎県庁入庁。文化振興室長を最後に49歳で退職し、起業。人事労務コンサルタントとして、経営のわかる社労士・FPとして活動。ヒトとソシキの資産化、財務の健全化を志向する登録商標「健康デザイン経営®」をコンサル指針とし、「従業員幸福度の向上=従業員ファースト」による企業経営の定着を目指している。最近では、経営学・心理学を駆使し、経営者・従業員に寄り添ったコンサルを心掛けている。得意分野は、経営戦略の立案、人材育成と組織開発、斬新な規程類の運用整備、メンヘル対策の運用、各種研修など。
[democracy id=”262″]