02 May

東海道新幹線の誕生~異分野の技術者とサーバント・リーダー

掲載日:2022年05月02日   
社会保険ワンポイントコラム

もはや戦後ではない

筆者の生まれた1956年は「もはや戦後ではない」と経済白書で宣言された年です。「東海道新幹線」が東京~新大阪間で開業したのが、それから約10年後の1964年でした。まだまだ戦後の痕跡があちこちに見られ、ほとんどの道路は未舗装で、公衆衛生も黎明期でした。

この年は、「東京オリンピック」開催の年でもあったのですが、聖火リレーランナーを務めた従兄を沿道から応援した記憶が甦ってきます。さて、「新幹線」は英語でも通用するほど海外でも浸透し、日本の誇るべき資産となっていますが、開業前の東京~大阪間は「つばめ」や「こだま」といった特急電車で所要7~8時間でした。それが4時間(翌年からは3時間10分)に短縮されたわけですから、まさに「夢の超特急」だったのです。1964年は10月1日が「東海道新幹線」開業、10月10日に「東京オリンピック」開会式、と九州の片田舎にも彼方の羨ましい光景が白黒画面から飛び込んできました。

高速鉄道化は一大国家プロジェクト

このような時代背景の中、当時70歳代の第4代国鉄総裁・十河信二氏と鉄道事故の責任をとって国鉄を辞していた50歳代の島秀雄氏の復帰。この総裁と技師長のコンビが新幹線開業の立役者だと言われています。もちろん、その下に多くの鉄道技術者が居たのは言うまでもありません。

当時、東海道線の高速鉄道化は日本経済復興のシンボリックな一大国家プロジェクトだったのですが、まだまだ戦後が色濃く残っている時代です。ドラスティックなことが起こらなければ、プロジェクトが成功するはずもありません。「イノベーション」が必要だったのです。現に、この時代に時速200キロで軌道を走らせる超高速列車は原理的に不可能だというのが、鉄道技術者の総意でした。高速化により、レールに歪みが生じて脱線してしまうと考えられていたのです。時速200キロ以上で走らせることなどできるはずがない、と鉄道の専門家ほど強硬な反対論を持っていたそうです。

自動車や鉄道といった異分野の技術者

プロジェクトのメンバーには、少数派ながら戦前の航空機開発のエリート若手技術者も含まれていました。戦前の日本は、航空機技術では世界の最先端を走っていたのですが、戦後GHQからすべて葬り去られてしまいました。旧陸海軍の研究・開発部門はもとより、数多くの民間航空会社も同様でした。中でも有名なのが、「中島飛行機」です。会社は解体され、航空機部門はなくなりましたが、自動車部門に進出し、「富士重工業」となりました。現在の「スバル」です。このように、航空機産業自体が壊滅したため、そこにいた優秀な技術者も職を追われました。そして、自動車や鉄道といった異分野の技術者として生き残っていました。

東京~新大阪間を三時間半で走破する夢の超特急の誕生

彼らこそ、新幹線プロジェクトを成功裏に導いた影の立役者だったのです。

例えば、前述のとおり、鉄道技術者は高速鉄道で脱線が起こるのは「レールの歪み」にあると考えていたのに対し、新参の航空機技術者は「振動の問題」であると考え、ゼロ戦の機体の揺れを制御技術でコントロールした経験から、油圧式バネを使った台車により高速走行での振動を克服します。また、走行の安全面に関しては、旧軍で信号技術を研究していた技術者が中心となり「自動列車制御装置」(ATC)を開発しました。さらに、空気抵抗の少ない流線型の車体の設計は、飛行機の機体設計の経験がいかんなく発揮されたと言います。

こうして、数多の課題をクリアーしながら、ついに昭和38年の試験走行で、当時の世界記録時速256キロを打ち立て、その1年後の昭和39年10月1日、東海道新幹線は東京~新大阪間を三時間半で走破する夢の超特急として開通したのです。「イノベーション」が成就した瞬間です。技術的な最大の功労者は、鉄道技術者ではなく異分野の航空関連技術者、そして30歳代の若手技術者だったのです。もちろん、50歳代の島秀雄技師長の効果的なマネジメントがあってプロジェクトが成功したとも言えるでしょう。

もう一人、忘れてならないのが70歳代の十河総裁です。開業から遡ること6年、異分野の若手技術者たちの熱いプレゼンに「新幹線プロジェクト」にゴーサインを出し、「国会への説明」「世界銀行との8000万米ドルに及ぶ融資交渉」などトップリーダーとして獅子奮迅の働きぶりだったそうです。まさに、サーバント型リーダーシップを遺憾なく発揮されたすばらしいリーダーでした。

サーバント型リーダーシップを発揮したリーダー

この東海道新幹線の例で分かるように、「イノベーション」は自律的で熱意のある中堅・若手(特に異分野の)と老獪なサーバント型リーダーの相乗効果によって起こります。多くの組織では、人事異動において「経験者」を優先しがちです。平時で、すでに未来の「答え」が分かっている場合には、それでも良いかもしれません。

しかし、今日のように一寸先は闇の時代においては、いい意味での「賭け」も必要だと思います。リーダーは、縁の下の力持ちとして社員を支え、彼らの熱意を絶やさないようにしなければならないでしょう。

ABOUT執筆者紹介

大曲義典

株式会社WiseBrainsConsultant&アソシエイツ 代表取締役
大曲義典 社会保険労務士事務所 所長

関西学院大学卒業後に長崎県庁入庁。文化振興室長を最後に49歳で退職し、起業。人事労務コンサルタントとして、経営のわかる社労士・FPとして活動。ヒトとソシキの資産化、財務の健全化を志向する登録商標「健康デザイン経営®」をコンサル指針とし、「従業員幸福度の向上=従業員ファースト」による企業経営の定着を目指している。最近では、経営学・心理学を駆使し、経営者・従業員に寄り添ったコンサルを心掛けている。得意分野は、経営戦略の立案、人材育成と組織開発、斬新な規程類の運用整備、メンヘル対策の運用、各種研修など。

原稿提供元株式会社ブレインコンサルティングオフィス「かいけつ!人事労務」

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