02 October

ハラスメントとは無縁のほんわか田舎物語~「佐賀のがばいばあちゃん」

掲載日:2023年10月02日   
社会保険ワンポイントコラム

ある夕ご飯の席のことだった。
「ばあちゃん。この二、三日ご飯ばっかりでおかずがないね」
俺がそう言うと、ばあちゃんはアハハハハ…と笑いながら、
「明日はご飯もないよ」と答えた。
俺とばあちゃんは、顔を見合わせると、また大笑いした。

これは2001年に発刊されベストセラーとなり、映画化もされた島田洋七 さんの「佐賀のがばいばあちゃん」のプロローグの部分です。のっぴきならない状況なのに、何という「幸せ感」でしょうか。島田洋七さんは、続けて

俺は子供の頃、母方のばあちゃんに預けられていた。
ばあちゃんは、明治三十三年(1900年)生まれ。
二十世紀とともに人生を生きた、まさにひと昔前の世代だ。
昭和十七年(1942年)、戦中に夫を亡くし、以来、厳しい戦後を佐賀大学とその附属小・中学校の掃除婦をして、五女二男、合計七人の子供を育てて生き抜いてきた。                

俺がばあちゃんに預けられたのは、昭和三十三年(1958年)で、ばあちゃんは既に五十八歳だったが、相変わらず掃除婦を続けていた。
裕福なはずはないが、いつもとんでもなく元気で、明るい人だった。
そして俺は、冒頭のような、ばあちゃんとの暮らしの中から、人間の本当の幸せというものを学んできたように思う。

この本に描写されているのは昭和30年代の景色です。佐賀という田舎、そして戦後10年という時代背景も手伝って、多くの人たちが経済的には貧乏な暮らしでした。時代が進展し豊かな社会が到来しても、人の心に突き刺さるこの物語は、もう一つの著作「がばいばあちゃんの笑顔で生きんしゃい!」ともども筆者の愛読書のひとつです。

気づかれない気遣いが本当の優しさ

これらの本には、洋七少年とがばいばあちゃんを取り巻く心優しい人たちがたくさん登場します。まずは、洋七少年の小学校の担任の先生たちです。

佐賀で初めての運動会の昼休み、他の子供たちが応援の家族と楽しくお昼の弁当を食べている時、洋七少年が一人ぼっちで、教室の中で質素な弁当を広げていると、担任の先生が教室にやってきてこう言います。

「おう、徳永(洋七さんの本名)。ここにいたか」
「何ですか?」
「あのな、弁当取り換えてくれんか?」
「え?」
「先生、なんかさっきから腹が痛くてな、お前の弁当には梅干しとショウガが入ってるって?」
「はい」
「ああ、助かった。お腹にいいから、換えてくれ」
「いいですよ」

取り換えた先生の弁当には、卵焼きにウインナーやエビフライなど、それまで見たこともないような豪華なおかずがたくさん入っていて、夢中で食べる洋七少年…。それから一年後の小学校3年生の運動会の日にも同じことが起こりました。

さらに、次の年の運動会の昼休み、担任は女性の先生に代わりましたが、また一人で教室で弁当を広げていると、

「徳永君、ここにいたの?先生、お腹が痛くなっちゃって。お弁当換えてくれる?」

純朴な小学生だった洋七少年は、この学校の先生は、運動会の日になるとお腹が痛くなる、と不思議に思っていたそうです。

彼が真相を理解したのは、小学六年生の時、この出来事をがばいばあちゃんに話した時でした。

「変ばい?みんな、運動会にお腹が痛くなるっちゃけん」
「なんば言いよると。それは、先生がわざとしてくれたとよ」
「それが本当の優しさと。昭広(洋七さんの本名)のために弁当持ってきたって言ったら、お前もばあちゃんも気ぃつかうやろ?だから先生は、お腹が痛いから交換しようって言ったとよ」

先生たちは腹痛のフリをして、毎年、洋七少年に豪華なおかずの弁当を御馳走してくれていたのです。
本当の優しさとは、相手に気付かれずにやる事。それは、がばいばあちゃんの信条でもありました。貧乏でも、人の優しい温もりさえあれば、満ち足りるのです。

次の登場人物は、佐賀の赤ひげ先生。
洋七少年が自転車で転んで目を怪我して、学校帰りに一人で病院に行った時の出来事です。

「いつ打った?」
「三日ほど前です」
「どうして、すぐ来んかった?」
「大丈夫と思ったから……」
「あと三日遅かったら、あんた失明しとったよ」
「え?」

診療が終わり薬ももらったが、払うお金なんか持っていません。

「すみません。学校の帰りでお金持ってないんです。あとで持って来ます」

看護婦さんは困ったような顔をして、「少し待ってください」と奥へ引っ込んだ。
さっきの先生が出てきたので、  

「あの……帰って、すぐもらって来ますから……」
「治療代は、いいよ」
「え?」
「おかあさんもばあさんも一生懸命働いてるけんな。よか、よか」
「でも……」
「それより、ここまで来るの遠かったやろう。帰りはバスで帰りなさい」

とバス代まで差し出してくれました。

「後で、あんたんとこのばあちゃんにもろとくけん。よか、よか」

こんな経緯(いきさつ)をばあちゃんに話したら、

「あの先生は、何言うとると。治療代もバス代も、ちゃんと払う」

と家を飛び出したが、結局先生はそれを受け取らなかったそうです。

万事がこんな調子で運んでいく空気が漂っていました。もちろん、時代も異なり、地域性もありますから、現代にあまねく通用するとは思いません。しかし、洋七少年のがばいばあちゃんは苦労ばかりの人生で、辛い目にも遭いながら、それを逆手にとってワハハと笑って生きてきました。色々な悩みを体験し、吹っ切れて、笑い飛ばせる人ですね。

そういう人は、可哀想な人を見たら一緒にボロボロと涙を流して悲しむことができると思います。苦しんでる人にも共感できると思います。また、周りの人たちも当人に気づかれないような立ち振る舞いで、何のためらいもなく助け合って生きています。すばらしいコミュニティ社会だと思いませんか。

がばいばあちゃんを見習おう

皆さんの会社では、社員の間にギスギスした雰囲気はありませんか?ハラスメントは起こっていませんか?

恵まれ過ぎた環境で生きてきた人には、決してがばいばあちゃんのような芸当はできません。しかし、真似することはできます。騙されたと思って、これらの本を手に取ってみてください。そして、現代に再現してみてください。人間的な大きさ、幅、深さ、暖かさを身に付ければ、諍いのない楽しい職場になること請け合いでしょう。ハラスメントとはおさらばです。

参考・引用文献

「佐賀のがばいばあちゃん」島田洋七(徳間文庫)
「がばいばあちゃんの笑顔で生きんしゃい!」島田洋七(徳間文庫)

ABOUT執筆者紹介

大曲義典

株式会社WiseBrainsConsultant&アソシエイツ 代表取締役
大曲義典 社会保険労務士事務所 所長

関西学院大学卒業後に長崎県庁入庁。文化振興室長を最後に49歳で退職し、起業。人事労務コンサルタントとして、経営のわかる社労士・FPとして活動。ヒトとソシキの資産化、財務の健全化を志向する登録商標「健康デザイン経営®」をコンサル指針とし、「従業員幸福度の向上=従業員ファースト」による企業経営の定着を目指している。最近では、経営学・心理学を駆使し、経営者・従業員に寄り添ったコンサルを心掛けている。得意分野は、経営戦略の立案、人材育成と組織開発、斬新な規程類の運用整備、メンヘル対策の運用、各種研修など。

原稿提供元株式会社ブレインコンサルティングオフィス「かいけつ!人事労務」

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