28 May

退職の引き留めはどこまでOK? 退職のルールを理解しよう!

掲載日:2025年05月28日   
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現代の職業選択の傾向を見ると、大転職時代と呼ばれるほどに、大多数の人が生涯で数回の転職を経験することが当たり前になっています。視点を変えると、キャリアの途中で勤めていた会社を退職する人が増えていると考えられるでしょう。

そんななか、企業が退職を引き止める事案が増加しており、現代社会の課題のひとつとなっています。企業が従業員を引き留めようとした場合、やり方によっては違法となる場合もあるので、無理な引き止めをしないように注意しなければなりません。

従業員の引き止めは違法行為?

「終身雇用制度が崩壊した」と言われて久しい日本社会。かつては、新卒で入社した企業で定年まで働き続けることが当たり前でしたが、時代の流れとともに働き方の多様化が進んだ結果、現代では正社員の転職が珍しいものではなくなりました。

厚生労働省の労働力調査によると、近年の転職者数は年々増加傾向にあり、2019年には過去最高の約353万人をマークしています。コロナ禍で一時約290万人にまで減少したものの、その後は再び増加し、2024年は約331万人となりました。このように、データからも転職者の増加がうかがえます。

しかし、企業からすると、事業に貢献してくれる人材が退職するのは痛手です。たとえば、特定の顧客と良好な関係を構築している営業マンが退職してしまうと企業としてのグリップ力が弱まり、取引を継続できなくなるかもしれません。

そのような事態を避けるために、退職の意向がある従業員を企業が引き止めようとするケースが存在します。

引き止めの結果、従業員が納得して思い止まってくれる可能性はゼロではありません。しかし、すでに退職の意思を固めている従業員を翻意させるのは容易ではないでしょう。

人材流出を防ぐために、後述する強引な方法で引き止めると、「在職強要」と呼ばれる違法行為となってしまう場合があります。トラブルを避けるためにも、引き止めは感情的な言動を避けて慎重に行うことが重要です。

憲法や民法は退職の自由を保障している

原則として従業員には退職の自由が法律で認められています。そのため、退職の意思を侵害するような引き止めをすれば、不法行為となるかもしれません。

憲法の第22条では、職業選択の自由が認められています。職業の選択が自由ということは、当然、退職も自由であると解釈できるでしょう。

また、民法第627条には「当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から2週間を経過することによって終了する」とあります。

従って、契約期間の定めがない正社員の場合、従業員の申入れによって退職が可能です。

契約社員など、期間に定めがある雇用形態の人材は、契約期間中の退職は原則認められません。しかし、民法第628条では「雇用の期間を定めたときといえども、やむを得ない事由がある場合は、各当事者は直ちに契約を解除することができる」とされているので、これに当てはまれば退職が認められるでしょう。ここでいう「やむを得ない事由」には、怪我や病気、介護、引越などが該当します。また、有期契約であっても契約から1年経過していれば、やむを得ない事由がなくても退職可能です。

違法行為に該当する強引な引き止め例

それでは、具体的にどのような引き止めが違法行為となるのでしょうか。

企業が退職届を受理しないのは、よくある引き止めのパターンです。退職の意思を受け付けなければ、民法第627条における「届け出」がされないので、効果的な引き止め方法に思えるかもしれません。しかし、会社の都合で退職届を受理しない行為は、憲法が認める「退職の自由」に反します。

従業員が明確に退職の意思表示をしていれば、企業が退職届を受理していなくても退職できると解釈されます。たとえば、従業員が内容証明郵便で退職届を郵送していたら、企業が受け取らなかったとしても、退職の意思表示があったと判断する根拠になるでしょう。先に紹介した民法第627条で、「従業員は退職する2週間以上前に届け出をすれば退職できる」とされているので、退職届を受け取る、受け取らざるに関わらず、提出から2週間経てば、従業員は退職しても問題ないと考えられます。

なかには、就業規則で退職の届け出から退職するまでの期間を、2週間より長く設定している企業もあるでしょう。就業規則に記載があれば、ほとんどの人がその期間に合わせて退職までの日程を調整してくれます。しかし、実際には企業が独自に決めている就業規則よりも、民法のほうが法的な優先度が高く扱われます。2週間より長い期間を就業規則で設定していても、法律上は従業員に守る義務がない点は注意しましょう。

また、退職しようとしている相手に、不利な条件を提示して引き止めるパターンもあるようです。「退職するなら給与と退職金は払わない」や「懲戒免職扱いにする」といった、脅しとも嫌がらせともとれるパワハラ行為が該当します。これらも当然違法行為なので、従業員が弁護士や然るべき機関などに相談したら、企業の言い分が通る望みは非常に低いでしょう。

なかには、退職しようとする従業員に違約金を請求する企業もあるようです。労働基準法の第16条では「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない」と定められているので、退職で違約金を請求するのも問題行為です。

トラブルを起こさない引き留めのコツ

昨今では、依頼者の代行で企業に退職の意思を伝える、「退職代行サービス」の需要が増えています。個人の性格や職場環境によっては、お金を払ってでも代行してもらいたいと思うほど、退職の意思表示が心理ハードルの高い行為となるようです。

企業としては、引き止め行為が従業員に心理的ストレスを与えるだけで、法律上の効力はないに等しい点を覚えておくべきです。

先に紹介したような強引な手段によって引き止めに成功しても、企業に残った従業員がそれまで通りの働きぶりをするとは考えにくいでしょう。むしろ、無理な引き止めをしたことで、企業への信頼感や業務に対する熱量が低下するのが普通です。そのため、退職の引き止めは企業と従業員の関係性を悪化させ、マイナスをもたらす行為となります。どれだけ企業にとって重要な人材であっても、本人に退職の意思がある以上は、個人のキャリアプランを尊重して応援する姿勢で接するべきでしょう。

従業員から退職を持ちかけられたら、まずは従業員との話し合いの場を設けてください。そのうえで、もしも企業が何らかの改善をすることで、従業員が納得して働けるようになる兆しがあれば、交渉する価値はあります。

たとえば、従業員が待遇面に不満を持っていて、それが退職したい理由になっているのであれば、相手が納得する額まで給料をアップすれば、退職を取りやめてくれるかもしれません。このパターンであれば交渉によって双方がWin-Winの関係になれる可能性があります。くれぐれも、引き止めたい気持ちがエスカレートして、交渉のつもりが在職強要にまで発展しないように注意してください。

退職時期が繁忙期であれば、企業として「せめて引継ぎが完了するまでは業務を続けて欲しい」という思いもあるでしょう。

先に説明した通り、法律上、従業員にはそのような企業からのお願いに従う義務はありません。しかし、仕事に対する責任感や、残される上司、部下、同僚に対する申し訳ない気持ちなどから、一定期間までなら、働き続けることに同意してもらえるケースもあります。

転職における引継ぎ期間は1カ月が目安とされており、退職届の提出から退職までは、1〜2カ月程度が一般的です。そのため、2週間では時間が足りない場合、退職までの期間を1カ月にしてもらえるように相談することは、常識から外れた行為ではありません。

すぐに辞められると困るような状況下では、違法にならない範囲で従業員と交渉を試みるのもひとつの選択肢です。

ABOUT執筆者紹介

内田陽

株式会社ペロンパワークス・プロダクション

金融系の制作業務を得意とする編プロ、ペロンパワークス・プロダクション所属のライター兼編集者。雑誌や書籍、Webメディアにて、コンテンツの企画から執筆までの業務に携わる。金融関連以外にも、不動産や人事労務など幅広いジャンルの制作を担当しており、取材記事の実績も多数。

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