個人事業主も活用したいクラウドファンディングのしくみと税金[第7回]:任意団体とクラウドファンディング
税務ニュース
近年、フリーランスや個人事業主も活用できる資金調達手段として注目されているクラウドファンディング。何回かの連載で、フリーランスや個人事業主が知っておきたいクラウドファンディングのしくみと税金について解説します。
第7回では、サークルや劇団などの任意団体が実施するクラウドファンディングにスポットをあててみましょう。
なお、執筆時点において、寄附型クラウドファンディングを実施できるのは、公益法人や認定NPO法人など、税制優遇を受けることができる特定の法人格に限定されており、個人や任意団体などは利用できない場合がほとんどです。
そのため本コラムでは、寄付型クラウドファンディングそのものではなく、任意団体が寄附や贈与を受けた場合を想定して解説します。
任意団体とは?
任意団体とは、同じ目的をもった複数人によりつくられた、個人でもなく法人でもない「人の集まり」のことです。任意団体は、個人で活動する・法人を設立する以外の第3の選択肢であり、非営利活動の出発点として活用されることも多い形態です。
任意団体は、認定や届出によりつくられるものではなく、また、その名のとおり「任意」で活動する団体であることから、法人名義で賃貸契約を行うなど、法人のように権利の主体となることはできません。そのため、「権利能力なき社団」と呼ばれることもあります。
任意団体は、劇団や芸術祭の実行委員会のように文化芸術活動を行うもの、または同人誌の創作サークルのように小規模なものや協会のように会費等を集めてスタッフに給与を支払う大規模なものなど、さまざまな目的や規模の団体が存在します。奨学金で有名なあしなが育英会も任意団体として活動していました(2019年4月1日より法人化)。
任意団体の例
- サークル活動(大学サークル、社会人サークル、同人サークル)
- 自治会、町内会、婦人会、マンション管理組合
- PTA、同窓会
- 芸術祭の実行運営委員会、地域スポーツクラブ
- 業界団体、学会、研究会
税法上、一定の任意団体は「人格のない社団等」といいます。人格のない社団等は、「法人でない社団又は財団で代表者又は管理人の定めがあるもの」(法人税法第2条第1項第8号)と規定されています。一般的に、任意団体では代表者や管理者を決めていることが多いため、ほとんどの任意団体が「人格のない社団等」に該当することになるでしょう。
この任意団体(人格のない社団等)が、クラウドファンディングや寄附などを通じて資金調達をした場合、どのような税金が生じる可能性があるのでしょうか?
購入型クラウドファンディングにより資金調達した場合
第2回では、購入型クラウドファンディングは、基本的に通常の売買取引と同様に捉えると解説しました。
購入型クラウドファンディングでは、資金調達者はリターンという名目で商品やサービスを提供し、資金提供者は支援金という名目でその対価を支払っています。したがって、購入型クラウドファンディングにより得た支援金は、通常の売買取引による収益と同様に、所得税や法人税などの課税対象となります。
しかし、任意団体の場合はもう少し複雑で、任意団体が購入型クラウドファンディングで得た支援金については、「収益事業」に該当するかどうかを検討する必要があります。
この理由は、任意団体は、人格のない社団等として法人とみなされ(法人税法第3条)、法人税法上の収益事業から生じた所得にのみ法人税が課税されるしくみとなっているためです(法人税法第6条)。すなわち、購入型クラウドファンディングで得た支援金が、収益事業に該当しなければ法人税は課税されないこととなるのです。
ここで収益事業とは、特定の34業種(たとえば、物品販売業、飲食業、出版業など)のうち継続して事業場を設けて営まれるものをいいます(法人税法第2条第13号、法人税法施行令第5条)。購入型クラウドファンディングのケースでみてみましょう。
まず、対価性のある物品をリターンとして提供する場合は、原則として34業種のうち物品販売業に該当します。ただし、任意団体が日常的に物品販売業を行っていない場合には、「継続して…営まれる」という要件を満たさないため、対価性のあるリターンを提供する場合でも収益事業に該当しないこととなり、法人税は課税されません。
一方、任意団体が日常的に物品販売業を行っている場合は、「継続して…営まれる」という要件を満たすため、収益事業に該当することとなり、法人税が課税されます。
このように、収益事業の該当性を検討するにあたっては、任意団体の日常の活動実態を考慮するため、注意が必要です。
次に、「お礼の手紙」「定期的な活動報告」「Webサイトに資金提供者の名前を掲載」などの対価性のないリターンを提供する場合は、クラウドファンディングにより得た支援金は、収益事業には該当せず、法人税が課税されません。この場合、以下で説明するように任意団体が寄附を受けたケースとして検討する必要があるでしょう。
任意団体が寄附を受けた場合
個人とみなして贈与税が課税される
任意団体が寄附を受けた場合、寄附を受けた任意団体側の課税関係は、寄附をした人が個人であるか法人であるかによって異なります。
まず、個人から任意団体に対して寄附があった場合は、寄附を受けた任意団体に贈与税が課税されるというのが原則的な取扱いです。
この理由は、そもそも贈与税は個人に課される税金ですが、任意団体が寄附や贈与を受けた場合は、任意団体を個人とみなして贈与税が課されるしくみになっているためです(相続税法第66条第1項)。
贈与税は、1月1日から12月31日までの1年間に、1人の人が贈与された財産の合計額から、基礎控除額110万円を引いた残りの金額に対して課税される税金です。
第5回で解説したように、贈与税の基礎控除額110万円は、贈与を受けた人の年間贈与総額に対して適用されるというのが、原則的な取扱いでした。
たとえば、ある個人がAさんから100万円の贈与を受け、さらにBさんから100万円の贈与を受けた場合、年間贈与総額は200万円となり、基礎控除額110万円を超えた90万円に対して贈与税が課税されることとなります。
しかし、任意団体には贈与税の基礎控除に関する特例があります。
その特例とは、任意団体の場合は、年間贈与総額ではなく、贈与者ひとりひとりについて、基礎控除額110万円を適用するというものです(相続税法第66条第1項)。
したがって、前述の例を任意団体に当てはめると、任意団体が、AさんとBさんからそれぞれ100万円の寄附を受けた場合、年間寄附総額は200万円となるものの、それぞれの寄附額が基礎控除額110万円以下であるため、贈与税は課税されないこととなるのです。
贈与税が非課税になる場合
ところで、公益事業用財産に対しては、贈与税は課税されません。すなわち、社会福祉事業や育英事業、慈善事業、学術・研究に関する事業などの公益を目的とする事業を行う任意団体で、公益の増進に寄与するところが著しいと認められる事業を行なっているなど一定の条件を満たすものが、寄附金を公益目的の事業に供することが確実な場合には、贈与税は課税されないことになります(相続税法第21条の3第3項、相続税法第12条第1項第3号も参照)。
ただし、施設の利用など財産の運用や事業の運営に関して特別の利益を与えていないなどの条件に当てはまることが必要です。
任意団体への寄附で、非課税にならない例としては、町内会への寄附が挙げられます。
国税庁によれば、町内会は「その構成員である町又は字の区域その他市町村内の一定の区域内に住所を有する者の利益のために活動するもの」であり、「公益を目的とする事業を行う者」に該当しないことから、非課税とならないことが示されています。同様に、大学サークルや同窓会などについても、公益事業と認められないケースが多いでしょう。
任意団体が資金調達するうえでの注意点
次に、法人から任意団体に対して寄附があった場合には、購入型クラウドファンディングで得た支援金と同様に、収益事業の該当性を検討します。この場合、寄附金収入は、収益事業に該当しないため、基本的に法人税は課税されません。
しかし、任意団体が購入型クラウドファンディングを実施する場合や、任意団体が法人から寄附を受けた場合には、いくつか注意点があります。それは、寄附金収入が実質的に収益事業の対価と判断されるケースです。
たとえば、会費を払った人だけが出版物を手に入れることができる場合には、会費のうち出版物の代金相当部分は出版業(収益事業)の収益とみなされ、法人税の課税対象となる可能性があります(法人税基本通達15-1-36)。
また、同様に、寄附をしてくれた人にノベルティグッズ等を提供する場合や、イベント等への参加権を与える場合には、ノベルティグッズ等に市場価値があったり、イベント等が興行業等の収益事業の一環であったりするならば、その寄附金収入は、物品販売の対価やイベント入場料収入などとみなされる可能性があります。
このように、任意団体の資金調達における課税関係を検討するうえでは、形式的な収益事業の該当性や寄附といった名目による判断ではなく、任意団体の活動実態や経済的実質による判断が重要になるため、注意が必要です。
判断に迷う場合は、最寄りの税務署や専門家に相談することをおすすめします。
ABOUT執筆者紹介
税理士 武田紀仁(たけだのりと)
たけだ税理士事務所 所長税理士
東北工業大学 ライフデザイン学部 経営デザイン学科 准教授
クリエイターや文化芸術団体支援のための税理士事務所を設立し、会計・税務・経営に関するアドバイザリーサービスを行う(たけだ税理士事務所)。大学では、財務会計論、簿記論、租税法実務などを担当。研究では、主に非営利組織体の会計・税務・情報開示に関する実証的な研究に取り組んでいる。