経営相談の現場から[シリーズ第16回]最近は法人口座の開設が難しいって、本当ですか?
起業応援・創業ガイド

Contents
筆者は経営コンサルタントとして、日々経営者の方々のお悩みを伺っています。このシリーズは「経営相談の現場から」というテーマで、中小企業経営者や個人事業主の方から実際にあったご相談内容を取り上げます。
今回は、マーケティング会社を設立したOさんのご相談を取り上げます。
法人口座を開設したい
Oさん 「長年勤めた大手広告代理店を退職して、企業のマーケティングのお手伝いをする会社を設立したばかりです。」
筆 者 「会社設立の手続きを終えて、いよいよ事業活動をスタートできますね。」
Oさん 「はい、今はホームページや名刺を作っているところです。でもまだ法人名義の口座がありません。クライアントあての請求書に個人名義の口座を載せるわけにはいきませんよね。」
筆 者 「個人口座でも取引はできますが、やはり法人口座があると良いですね。」
Oさん 「どの金融機関で口座を開設するのが良いでしょうか。やはり名の知れたメガバンクが良いでしょうか?」
法人口座はどの金融機関で開設する?
筆 者 「どの金融機関を選ぶかはいろいろな考え方があります。例えば、Oさんは法人相手のご商売ですから『クライアントが使っていそうな金融機関に合わせる』という考え方がひとつあります。」
Oさん 「なるほど。もしクライアントが大企業中心ならメガバンク、ということですか?」
筆 者 「その通りです。もし個人事業主や中小零細企業が中心なら信用金庫・信用組合ですね。金融機関にはそれぞれ取引企業規模の傾向があります。一般的には、メガバンク→地方銀行→信用金庫・信用組合、の順に取引企業の規模は小さくなります。」
Oさん 「振込手数料が安いのはどこでしょうか。」
筆 者 「振込手数料はネット銀行が安いですね。メガバンクは他行あてだと比較的高いですから、大企業のクライアントからの入金用にメガバンクの口座を使って、支払用には振込手数料の安いネット銀行の口座を使う、というように使い分けをなさる方もいらっしゃるようです。」
Oさん 「複数の口座を持っておくのですね。」
将来そこでお金を借りることになるかも?
筆 者 「また、金融機関選びで一番重要なのは、将来の融資取引を見据えることです。」
Oさん 「『将来そこからお金を借りることになるかも』と考えて選ぶということですか?」
筆 者 「その通りです。その観点から言えば、Oさんのような新設法人は信用金庫・信用組合の口座を作っておくのがお勧めです。」
Oさん 「信用金庫・信用組合ですか。なぜですか?今までの生活で馴染みがなかったので、考えていませんでした。」
筆 者 「業歴が浅い会社が融資を申し込む先の選択肢は、政府系の金融機関か、民間であれば信用金庫・信用組合になるからです。メガバンクは、零細企業の少額の融資には基本的にあまり対応しません。」
Oさん 「小さい会社がお金を借りられるのは、民間だと信用金庫・信用組合だけということですか?地方銀行もだめですか?」
筆 者 「地方銀行に融資の相談ができるのは、私見ですが売上規模が億単位の会社になってから、という感覚があります。」
Oさん 「それは知りませんでした。でも、今はまだ借りる予定はありません。お金を借りようと思ったときに信用金庫・信用組合に行けば良いのではないですか?」
筆 者 「いざ借りようというとき、口座もない金融機関に申し込むより、日ごろから口座を使っていてお付き合いがある金融機関に申し込むほうが、スムーズなんですよ。手続き上だけでなく、金融機関の担当者の心情的にも違うようです。」
Oさん 「へえ。それなら信用金庫でも口座開設しておこうかな。」
法人口座をつくるのが難しい?
Oさん 「法人口座の開設は、最近とても審査が厳しくなっていると聞きました。」
筆 者 「おっしゃるとおり、どの金融機関でも、法人口座の開設の審査が厳しくなっています。銀行口座が犯罪に利用されることが増えて、金融機関にはマネーロンダリングの防止や反社会的勢力の排除といった社会的な要請が強まっているからです。少しでも不審・不安な要素があれば断られてしまうと思った方が良いでしょう。」
Oさん 「特に厳しい金融機関はどこですか?」
筆 者 「一般的には、ネット銀行→信用金庫・信用組合→地方銀行→メガバンク、の順に、法人口座開設の難度が上がる傾向です。」
どうすれば、法人口座をスムーズに開設できる?
Oさん 「私は法人口座を開設できるでしょうか。どうすればスムーズに進みますか?」
筆 者 「事業内容が不明確とみなされると警戒されるようですから、まずは事業内容を具体的に分かりやすく説明できる事業案内資料を用意しておきましょう。」
Oさん 「『マーケティング会社です』という説明ではだめですか?」
筆 者 「マーケティング会社にもいろいろありますから、ホームページの制作なのか、広報の代行なのか、PR戦略の立案なのか等、もっと具体的に説明できると良いですね。マーケティングやコンサルティングといった事業は特に不明確とみなされやすいです。『誰に(どんな企業に)、何を、いくらで、どうやって提供する事業か』が、誰にでも具体的に分かるように説明しましょう。」
Oさん 「なるほど。それから、資本金が少ないのですが大丈夫でしょうか。」
筆 者 「資本金が1円であるなどあまりに少ないと、本当に事業を営むつもりがあるのか不安に思われることはあるようです。できれば100万円程度はあると良いですね。少額の資本金で始める場合は、他の要素で信頼を得るように頑張りましょう。事業案内資料をしっかり作り込むとか、既に受注している案件の契約書を提示できるようにしておく等です。」
会社の事務所がないのはダメですか?
Oさん 「事務所を構えていないので、自宅の住所で登記しました。これはマイナスになりますか?」
筆 者 「自宅であっても、実際そこで事業をしているのであれば問題ないようですよ。一部の金融機関では口座開設を申し込むと担当者が登記場所を訪ねてくることがあるのですが、そのとき確認されるのは、執務場所が実在しているかどうか、つまり事業の実態があるかどうかです。『自宅以外の場所に事務所がないからダメ』ということはないようです。」
Oさん 「ということは、物理的な執務場所がないバーチャルオフィスの住所で登記したら、悪い評価になるのでしょうか。」
筆 者 「はい。バーチャルオフィスで登記すると口座開設できないというケースは、実際にあるようです。信用金庫・信用組合では、その傾向が特に強いように思います。」
合同会社だと法人口座を開設できない?
Oさん 「私は合同会社を設立したのですが、大丈夫でしょうか。」
筆 者 「残念ながら、合同会社の法人口座開設は、株式会社より難しい傾向があるようです。」
Oさん 「そんな・・・。なぜですか?」
筆 者 「合同会社は株式会社より設立費用が安く、手続きも短期間で済むので創業者に人気ですが、そのメリットのせいで過去に反社会的勢力や詐欺グループが利用したケースが実際にありました。そのため金融機関には合同会社を警戒する姿勢があるのです。」
Oさん 「合同会社だと口座が作れないということではないですよね。」
筆 者 「もちろん、『合同会社はすべてダメ』というわけではありませんから、事業の実態や信頼性を株式会社以上に丁寧に伝える準備をすれば対策できます。」
法人口座開設はゴールではなくスタート
近年は犯罪抑止の観点から法人口座開設の難度が上がっていますが、明確な事業実態のある法人だと示すことで、反社会的勢力や犯罪とは関わりがないと理解してもらえれば良いのです。事前の準備が求められるようにはなりましたが、口座が開設できなくなったわけではありません。
口座開設はゴールではなく事業のスタートです。良いスタートが切れるよう、明確な事業実態があると説明する資料等をしっかり揃えて、口座開設に臨みましょう。
ABOUT執筆者紹介
経営コンサルタント 古市今日子
株式会社 理 代表取締役
経済産業大臣登録 中小企業診断士
外資コンサルティングファームなどで16年間経営支援の経験を積
事業再生に携わるほか、自治体の経営相談員や創業支援施設の経営
中小事業者・起業希望者の経営相談への対応件数は年間約200件















