26 November

資本的支出と旧通達

掲載日:2025年11月26日   
税務ニュース

資本的支出と修繕費

税務調査で問題になるポイントの一つに、資本的支出と修繕費の区分があります。固定資産を使用する場合、必然的に修理などのコストが発生します。両者はこの修理などのコストに関わるものですが、税務上の取扱いは大きく異なっています。

通常の維持管理において発生するメンテナンスコストは、税務上は修繕費とされ、原則として経費になるとされています。その一方で、敢えて特殊材料を使って行う修繕など、通常のメンテナンスの範囲を超えて、改造と言えるような修繕を行うこともあります。このような費用は、修繕費ではなく資本的支出にあたると言われます。

修繕費は、固定資産を常に使えるように維持するために必然的に発生する反面、資本的支出は固定資産の耐用年数や価値の増加につながるものです。このため、修繕費とは異なり、支出した段階においては原則として経費にはならず、固定資産の取得価額に加算することとされています。

このような大きな差がありますが、困ったことに、修繕費になるか資本的支出になるか、単純明快な基準はありません。結果として、税務調査では往々にしてこの区分が問題になります。

旧通達が有効な根拠

この資本的支出と修繕費の区分について、参考になる具体的な基準として、昭和44年に廃止された通達(旧通達)があります。この旧通達では、自動車のタイヤの取替など、一定の具体例を示した上で、この具体例に該当する修繕については、無条件で修繕費としていいと記載されています。

通達とは、国税庁が税務職員に対して発行する指示文書をいいます。税法の解釈は複雑で解釈が人によって変わることもありますので、あらかじめ税法をこのように解釈するように指示する場合に、国税庁は通達を発行します。税務職員は国税庁の指示に従わなければなりませんので、通達の通りに処理することから、納税者にとっても大いに参考になる情報です。

ご注目いただきたいのは、この旧通達の廃止理由です。それは、「法律を読めば誰にでも分かるので、敢えて通達で明記する必要はない」というものです。結果として、現在においても、修繕費と資本的支出判断においても、旧通達の内容は現在も使える基準なのです。

塗装は修繕費

この旧通達においては、「家屋や壁の塗装」が修繕費になると説明されています。塗装は税務調査において、往々にして資本的支出に当たり経費にならないと指導されます。なぜなら、調査官は、税務調査で資本的支出と修繕費を判断する際、固定資産の外観を見て判断することが通例だからです。

外壁の塗装は、建物の外観を見ればすぐに何らかの修繕をしたことが分かりますし、外壁が新しくなれば、それだけで建物の価値が上がったように見えます。このため、建物の外壁塗装工事を実施すると、それだけで修繕費と資本的支出が問題になることが非常に多いです。実際、外壁塗装については、資本的支出に該当するとして課税処分がなされた事例もあり、むしろ資本的支出に当たると判断される傾向が強いと言えます。

しかし、建物の塗装は旧通達を見れば、原則としては修繕費とされています。実際、専門書などにおいても、特殊材料を使った塗装などは別にして、材質が変わらない材料による塗装であれば、原則としては修繕費で問題ないと解説されています。

書籍では反論にならないが

書籍の記述は参考になるにしても、法律ではありませんから調査官がその記述を信用して課税を取りやめることは基本ありません。しかし、通達は従うべき命令ですから、それが古い内容であっても、調査官に対し大きな説得力を持ちます。

このため、旧通達の内容を知っておくだけでも調査官に対する有効な反論材料となりますので、資本的支出と修繕費の判断に迷う場合には、参照してみてください。

ABOUT執筆者紹介

元国税調査官・税理士 松嶋洋

昭和54年福岡県生まれ。平成14年東京大学卒。国民生活金融公庫(現日本政策金融公庫)、東京国税局、日本税制研究所を経て、平成23年9月に独立。現在は税理士の税理士として、全国の税理士の税務調査や税務相談に従事しているほか、税務調査対策・税務訴訟等のコンサルティング並びにセミナー及び執筆も主な業務として活動。

著書に『最新リース税制』(共著)、『国際的二重課税排除の制度と実務』(共著)、『税務署の裏側』、『社長、その領収書は経費で落とせます!』『押せば意外に税務署なんて怖くない』などがあり、現在納税通信において「税務調査の真実と調査官の本音」という500回を超える税務調査に関するコラムを連載中。

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