16 August

転入したママたちの悩みに応えて!流山市の女性向け創業スクールが目指す未来とは?

掲載日:2022年08月16日   
起業応援・創業ガイド

流山市女性向け創業スクール

起業支援制度を設けている自治体は決して珍しくありませんが、子育て中の母親に向けた起業支援制度と聞くと、物珍しさを感じる方も多いのではないでしょうか。子育て中に起業なんてできるのだろうか?という素朴な疑問を抱く方もいるかもしれません。

しかし、「子育て中の起業」という生き方は潜在的なニーズを秘めており、今後はさらに広がっていくのではないかと予想されます。「母になるなら、流山市。」「父になるなら、流山市。」のキャッチコピーで知られ、2021年の調査において人口増加率全国市で1位を獲得した千葉県の流山市では、女性向け創業スクールが現在大きな反響を呼んでいます。

流山市総合政策部マーケティング課 課長の河尻さん、経済振興部商工振興課 課長の秋元さん、係長の川村さんにお話をお伺いしました。

「母になるなら、流山市。」の先に

DEWKSに向けた緻密なマーケティング戦略

2005年につくばエクスプレスが開通し、流山市は都心まで20分という好アクセスを獲得しました。この流れを受けて流山市では、30代~40代前半の共働き子育て世代、いわゆる「DEWKS(double employed with kidsの略で子供のいる共稼ぎの夫婦の意) 」に選ばれる街を目指そうというコンセプトが決定され、マーケティング課では様々なプロモーションを展開しました。

流山市市役所の前のご担当者三名

「流山市は当時、知名度が低かったんです。そもそも知らないのなら、マイホームを買っての転入先には選ばない。そこで、まずは都心に住むDEWKSの方々に、流山市という存在を知ってもらうところからスタートしました」と河尻さんは当時を回想します。

「母になるなら、流山市。」というキャッチコピーを都心向けに展開し、都心に勤務されているDEWKSの方々に流山市に実際に足を運んでもらえるように、様々なイベントを企画・開催しました。たとえば夏の夜に子ども連れで楽しめるよう噴水ショーなどを展開する外飲みイベント「森のナイトカフェ」では、2019年開催時は4日間で延べ5万5千人が足を運んだそうです。

「「森のナイトカフェ」は残念ながらここ2年間はコロナ禍で開催中止となってしまいましたが、ようやく今年は再開できそうです。大人がお酒を楽しみつつ、子どもたちも遊んで楽しめる。こういうイベントは意外と少ないので、都心からでも足を運んでいただけるんです。そして実際に流山市に訪れ、「都心から近い」「環境が良い」「子育て世代が多い」という体験を得た方は、ここなら子育てにぴったりじゃないか、という考えになるんですね」

流山市で遊ぶ親子

その他にも様々な子育て支援施策が功を奏し、前述の通りに人口増加率全国市で1位という結果につながりました。しかし、子育て世代の人口増加によって、新たな課題が浮上したのです。

女性向け創業スクールの誕生

流山市に移住するDEWKSの中には、男女を問わず都心の企業に勤めて順調にキャリアを積んできた方が数多くいます。子どもを育てていると、そのようなキャリアや経験を活かす場が失われてしまう、という問題が見えてきたのです。

「現状においては特に女性の場合、小さな子どもがいると、フルタイムで働くのは難しい側面もあります。しかしパートで働く場合、それまで培ったキャリアやスキルはなかなか活かしきれない。本人も不満を感じるかもしれないし、何より社会的な損失ですよね」

ここで、女性向け創業スクールに大きく関わることになる、一人の女性を紹介します。2014年に流山市で株式会社新閃力を立ち上げた尾崎えり子さんです。尾崎さんは都内の企業で勤務していましたが、子育てとの両立が難しいという理由で退職し、スキルを活かすには起業しかないと考えて、会社を設立したという経緯の持ち主でした。

当時、効果的な創業支援を模索していた商工振興課では、尾崎さんが流山市で創業する女性のロールモデルになると考え、尾崎さんの意見を参考にしながら、女性向け創業スクールを立ち上げました。女性向け創業スクールの運営は、株式会社新閃力にアウトソーシングするという形を取っています。尾崎さん自身も、自分と同じ境遇の女性は流山市にまだたくさんいるのではないか、という思いを持っていたので、創業支援には意欲的でした。

女性向け創業スクールが反響を呼んだ理由

地元で創業した女性が講師に!

こうして平成27年に始まった女性向け創業スクールの受講生は、170名以上、創業に至った方々は40名以上にのぼります(令和4年7月時点)。初年度は定員が埋まりませんでしたが、年々反響が大きくなり、今年は募集からわずか3日で満員となるほど人気の事業になっています。

「スクールを受講される方々の創業への確度と意識は様々です。既に事業計画をはっきり持っている方もいれば、創業に興味はあるけれど何をしたらいいのかわからない、そういう段階の方もいます。そういった幅広い方に有益となるように、内容を工夫しています」と秋元さんは語ります。

この女性向け創業スクールの大きな特徴は、運営の尾崎さんを始め、流山市で起業した女性が講師を務める点です。そのような「身近な先輩たち」の体験談は創業を考えている方にとって、大きな力と励ましになるのだそうです。

「創業と聞くと、大きな利益を出して事業を拡大しないといけない、と考える方が多いんですね。もちろん事業拡大は喜ばしいことですが、創業者の全てがそこを目指す必要はありません。スモールビジネスで活躍されている方のお話を聞いて、「これならわたしにもできるかもしれない」、「やってみたい」と創業に前向きになる受講者も多いんです」

流山市女性向け創業支援事業のHP

流山市女性向け創業支援事業のHPには、女性向け創業スクールを卒業して創業した方々の紹介ページが設けられています。実際に創業した方を間近に見ることで、自身の創業後のイメージが沸きやすくなるのだそうです。

コミュニケーションを通じて強みを発見

このスクールは自身の強みを発見する場としても機能しています。スクールでの自己紹介で、これまでのキャリアや仕事について話すと、「そんなことができるんだ! すごいね!」と周りから感嘆の声をかけられて、「これは他人からすごいと思われることなのか」と驚く受講者の方も多いのだと、河尻さんは語ります。

企業で積んだキャリアやスキルは、本人の中で強みとして認識されていないことが多く、そのように自らの強みを発見することが創業への第一歩となります。また、そのような強みの発見を通し、受講者同士でお互いの得意分野を補い合って、ビジネスに活かす方もいるとのことです。

「このスクールでは、共に創業を目指す仲間が見つかります。ビジネスで協業しなくとも、励まし合ったり悩みを相談できる相手の存在は、精神的支えになります」

創業においては「人と人とのつながりが大切」とは、起業者へのインタビューでもよく語られる言葉です。こういった受講生同士のコミュニティは、女性向け創業スクールで得られる大きな財産の一つです。

「起業分野が得意な経営コンサルタントを呼んできて、起業のノウハウや注意点について話してもらうのは簡単です。けれど、どんなに経験豊富なコンサルタントでも、「流山市」で「女性」が起業した体験談にはかなわない。起業した先輩や起業を目指す仲間たちに出会えることが、このスクールの強みだと思います」と秋元さんはおっしゃっていました。

子育て中の起業がもたらすもの

創業がもたらす自己実現とつながり

子育て中の女性は、「自分のことは考えてはいけない」、「やりたいことをしてはいけない」という抑圧的な思考になっていることも多いそうです。そのような方が創業スクールや実際の創業を通じて様々な方とつながり、自己実現を行い、人生をより豊かにしてほしい。さらには「流山市に転入してよかった」と思っていただくことがゴールだと、お三方はおっしゃっていました。

流山市市役所職員のインタビュー風景

「しかし、母親が創業して活躍するためには、やはり周りのサポートは欠かせません。身近な存在である夫はもちろん、両親や他の家族、近所の方々、周りのコミュニティからの助けが必要です」と川村さんは語ります。

もちろんそのサポートは一方通行ではなく、可能な時はこちら側が助ける、いわば「持ちつ持たれつ」である必要があります。女性向け創業スクールでは、地域のコミュニティや人とのつながりを大切にしよう、と毎回呼び掛けているそうです。ひいては、それが自身や事業への支えになるからです。

さらなる新しい挑戦へ

現状にとどまらず、流山市は新しい取り組みを始めました。「創業について、もっと専門的なアドバイスを聞きたい」という声に応える形で、行政書士による創業コンシェルジュを、HPやチラシのデザインで悩んでいるという声を受け、デザイナーによるデザインコンシェルジュをそれぞれ開設しました。

これらのサービスを担当する行政書士とデザイナーのお二人も、流山市で創業した女性です。いずれもまだ始まったばかりですが、既に創業した方にも喜んでもらえるサービスではないか、と期待されているそうです。

ちなみに、この女性向け創業スクールに年齢制限はありません。そのため、子育てが一段落したシニア層の女性たちが参加されるケースも増えているそうです。「今回は子育て世代にフォーカスしてお話しましたが、流山市としてはシニア層の起業も応援していきたい。起業する方が増えれば、街に活気が溢れて、さらに人が集まる。その正のスパイラルを、もっともっと広げていきたいですね」と川村さんはお話されていました。

流山おおたかの森S・C

取材を終えて

流山市は、日本の自治体の中では先駆けて「マーケティング課」を設置したことでも有名です。緻密なマーケティング戦略を軸として、柔軟な発想で常にチャレンジしてきたからこそ、創業支援でもこのような実績を打ち立てられたのでしょう。また創業を通じて市民の皆様が自己実現やコミュニティとのつながりを得られたら、と実利よりQOL(クオリティ・オブ・ライフ)を重視していらっしゃるのも印象的でした。
「創業」という言葉が女性にとって、身近な選択肢になる日も近いのではないでしょうか。
(ソリマチ取材班)

※今回ご紹介した女性向け創業スクールの卒業者ではありませんが、流山市に移住して起業した子育て世代の方の起業応援インタビューを掲載しています。ご興味をお持ちの方は、そちらもご覧ください。

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