ネットビジネスの申告漏れに監視の目。副業YouTuberも知っておきたい税金のペナルティ。
税務ニュース
インフルエンサーやYouTuberによる相次ぐ申告漏れのニュースが話題になっています。投げ銭や動画配信による収入があるにもかかわらず、申告しなかったり、期限に間に合わなかったりすると、ペナルティが課されてしまいます。
相次ぐネットビジネスの申告漏れに監視の目
2023年3月、美容系インフルエンサーの女性9人が税務調査を受け、6年間で合計約3億円の申告漏れを指摘されました。追徴税額は、合計で約8,500万円にのぼるとみられます。Instagramや動画投稿サイトの商品紹介で得た収入の一部を申告していなかったのです。
また、同じ月にYouTuberの事案も報じられました。投げ銭など約3,600万円のもうけが無申告であったため、約700万円を追徴課税されたのです。「申告が必要とは知らなかった」という主張でしたが、調査により他のYouTuberが投稿した税務調査対策の動画を観ていたことが発覚しました。意図的な無申告と認定され、重いペナルティが課されました。
このように、インフルエンサーやYouTuberとして活動している配信者が、国税局の税務調査を受け、申告漏れを指摘されるケースが相次いでいます。じつはネットビジネス関連の所得は、税務調査の重点調査項目に位置付けられているのです。動画配信や投げ銭により多額の収入を得ているにもかかわらず、申告を行なっていないケースは少なくありません。納税に不公平が生じないよう、国税局が監視の目を強めているのです。
なぜ申告が必要なの?
そもそも、なぜ私たちは確定申告をしなければならないのでしょうか?それは、確定申告が憲法に定められている「納税の義務」を果たすための重要な手続きの一つだからです。
「国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負ふ。」
日本の税金は、納税者ひとりひとりが税法を正しく理解し、自主的に税務署へ確定申告を行うことで税額を確定させて納税するという前提で成り立っています。これを「申告納税制度」といい、税制を民主化するための制度です。確定申告は、1年間の売上(収入)から必要経費などを差し引いて所得(もうけ)を計算し、申告書に記載して税務署に提出し税金を納めるという一連の手続きです。
これに対して、自治体などの行政機関が税額を確定する方法を「賦課課税制度」といい、地方税ではこの方法が一般的です。
申告しないとどんなデメリットが?
ペナルティが課される
民主的な制度である「申告納税制度」を担保するために税務調査が行われることがありますが、調査の結果、「確定申告をしないで放置していた」「申告すべき収入が漏れていた」などの事実が発覚した場合には、ペナルティが課されます(下図)。ごまかしや隠ぺいなど悪質な場合には、重加算税という「重い」ペナルティが課されます。
〈ペナルティの概要〉
ペナルティの名称 | ペナルティの対象になるケース | 新たに納める税金に対する 課税割合(通常分) |
---|---|---|
過少申告加算税 | 期限内に申告したが、本来の税額より少なかった場合。 | 10% |
無申告加算税 | 確定申告を忘れるなど、期限までに申告しなかった場合。 | 15% |
不納付加算税 | 源泉所得税を期限後に納付した場合・納税の告知があった場合。 | 10% |
重加算税 | 帳簿への虚偽記載などの隠蔽仮装行為が認められる場合。 | 35〜40% |
収入を証明できない
また、確定申告を行わなかった場合、自分の収入を証明することができないという大きなデメリットがあります。賃貸物件の契約や住宅ローン審査などでは、数年分の申告書を求められることがありますが、このような「信用」が必要になる局面で「自分の収入や所得を証明できない」ことは、信用審査に大きく影響します。面倒だからといって確定申告を行わないことは、自らの「信用を落とす行為」でもあるのです。
新たに帳簿の不備に対してもペナルティが
さらに、申告の基礎になる帳簿の不備に対してもペナルティが課されるようになりました。帳簿を保存していなかったり、記載に不備があったりした場合には、ペナルティが加重されるのです。この措置は、記帳水準の向上という目的のために、令和4年度税制改正で新たに設けられました(下図※1)。会計ソフトの利用などにより、普段から正しく記帳しておくことが大切です。
ペナルティの名称 | 加重されるケース | 新たに納める税金に対する 課税割合(加重分) |
---|---|---|
過少申告加算税 | 期限内申告税額と50万円のいずれか多い金額を超える部分 | 5% |
帳簿に収入の1/3以上不記載の場合(※1) | 5% | |
帳簿不提示の場合、帳簿に収入の1/2以上不記載の場合(※1) | 10% | |
無申告加算税 | 50万円超の部分 | 5% |
過去5年以内に無申告加算税または重加算税を課されたことがある場合 | 10% | |
帳簿に収入の1/3以上不記載の場合)(※1) | 5% | |
帳簿不提示の場合、帳簿に収入の1/2以上不記載の場合(※1) | 10% | |
重加算税 | 過去5年以内に無申告加算税または重加算税を課されたことがある場合 | 10% |
ペナルティ軽減の余地は?
意図しない無申告もペナルティの対象に
意図的な申告逃れだけでなく、申告の必要性を認識していないケースもあります。その場合でも基本的にペナルティを免れることはできません。「知らなかった」では済まされないのが税金のルールなのです。
特に注意したいのは、副業でYouTuber・インフルエンサーとして収入を得ているケース。コロナ禍や政府による副業推奨を背景に、給与とは別の収入を得る人も増えましたが、副業でも一定以上の収入があれば確定申告をしなければなりません。たとえ所得を隠す意図がなかったとしても、申告義務を怠れば、本来納めるべき税金だけでなく、ペナルティとして加算税などを負担しなければならないのです。
自発的な申告でペナルティ軽減の余地
税務調査が入る前に自発的に申告を行えば、ペナルティが軽減される余地も残されています。ペナルティで余分な税金を払うことがないよう、期限内の正しい申告を心がけるのはもちろん、誤りや不備に気づいたら、そのまま放置しないよう注意しましょう。
ABOUT執筆者紹介
税理士 武田紀仁
クリエイターとスモールビジネスを支える税理士。クリエイティブ産業で活動する中小法人や、漫画家・イラストレーター・デザイナー・ものづくり作家などの個人事業主(フリーランス)を対象とした税務・会計・経営アドバイザリーサービスを得意とする。また、自身のもう一つのライフワークとして、文化芸術領域の会計と情報開示についての研究活動も行っている。
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