07 August

いつもつけている帳簿、管理会計に活用してみませんか

掲載日:2023年08月07日   
税務ニュース

「管理会計」あまり馴染みのない言葉かもしれません。会社や個人事業主の方が作成している会計帳簿。1年に1度の確定申告の時に、まとめて記帳する方もいらっしゃるのではないでしょうか。最近は、お金をかけて会計ソフトを導入する方も多くなりました。せっかく記帳している帳簿、お金をかけている会計ソフトをもっと有効活用するのはいかがでしょうか。

今回は、帳簿や会計ソフトを有効活用する方法のひとつとして、管理会計を紹介させていただきます。

1. 管理会計って何?

管理会計は、自分たちの事業の経営判断に役立てるために行う会計業務です。現時点の事業の業績や財政状態を把握し、将来どうしていくかの意思決定をサポートします。1番身近なのは、月次決算ではないでしょうか。毎月、前月分の記帳を完了させ、取締役会の意思決定の材料にする。すでに行っている会社は多いです。管理会計の目的は、事業の将来を予測して将来をよりよくすること、つまり業績改善です。

 

2. 財務会計との違い

会計の種類にはもう一つ、財務会計があります。財務会計の目的は、企業外部の利害関係者に会社の財政状態や業績を説明することです。企業外部の利害関係者には、投資をしている株主、会社にお金を貸している銀行などの債権者などがいます。

また、確定申告のために決算書を作成することは、税務署に対して企業の状況を説明するために行う財務会計にあたります。その情報を利用する投資家や債権者、税務署の立場からすると、会社や個人毎に違ったルールで会計帳簿を作成されるのはとてもわかりづらい。他の企業との比較もしづらいし、税金面では同じルールでないと不公平が生じるかもしれないので、みんな同じルールに基づいて作成されます。そのため、財務会計は法律などルールが定められ、必ずしなればいけないものになっています。

一方の管理会計は、経営者・事業者が自分たちのためにする会計なのでしなくてもいいです。また、事業や会社などにより管理したい内容が異なるため、会社や事業主毎に自由に作成することができます。つまり、管理会計のルールは、その情報を利用する経営者・事業者が自由につくることができます。経営者・事業者が意思決定する際に役立つ情報が作れるように、経営者・事業者が自らルールを決めるのです。

他にも、財務会計は過去を表しますが、管理会計は過去だけでなく将来も扱います。また、管理会計では会計の数字以外の数字、例えば労働時間や従業員数など財務会計では扱わない数字を利用することもあります。そのため、管理会計は財務会計よりも守備範囲がとても広くなります。

  財務会計 管理会計
ルール 会社法、税法など なし
目的 利害関係者の保護
適正な税務計算
経営者の経営(意思決定)に役立つ
日々の行動の管理
利用者 社外の株主・税務署・銀行 社内の経営者
出典:「すぐわかる中小企業の管理会計『活用術』」14頁
 

3. 主な管理会計

次に管理会計の代表的なものを4つお伝えします。

① 予算管理

予算管理は、体重コントロールに似ています。目標体重を設定して、どうやってその体重になるか計画を立てます。そして、日々体重を測定して現状把握し、目標体重になるための作戦をリアルタイムで考え、実行します。

同じように、予算管理は、簡単に言うと目標設定、今後の事業の未来予想図になります。確定申告で帳簿を入力すると試算表が作成されます。予算管理では、未来の試算表や財務諸表を作成します。今後、見込まれる売上や経費を入力すると、将来どれくらい儲けが出る予定か把握することができます。すでに決まっている数字を入力することもできますし、まだ決まっていないけれど、目標の数字を入力することで、実際にその目標を達成するにはどうしたらいいか戦略を考える材料になります。

また、先に見通しを立てておくことで、利益がたくさん出そうな場合は、その年に経費を多めに使うことや、個人事業主の場合はふるさと納税の計画を立てることもできます。

 

② 資金繰り管理

黒字倒産という言葉を聞いたことがありますか。黒字倒産は、利益が出ているのに、資金がなくなり倒産してしまうことです。利益が出ているのに、なぜ資金がなくなるのでしょうか。

例えば、ライティングの仕事を受けた場合、4月に記事を納品して取引先に請求書を発行しても、実際に取引先からお金を受け取るのは5月末になるなど、売上と入金の時期にズレが生じます。実際には、もっと前の月の売上金の入金があったり、余剰資金があったりするので、問題なく資金を準備できる場合が多いです。しかし、事業の規模が大きくなると扱う金額も大きくなるので、資金繰り管理を行う必要が出てきます。

資金が潤沢にある方は、資金繰り管理をする必要がないかもしれません。資金繰り管理も必要な人とそうでない人がいます。

 

③ 原価管理

原価管理は、売上を上げるのにどれくらい原価がかかっているかを把握します。例えば、商品を仕入れて販売する事業の場合、商品を仕入れる金額だけでなく、商品を管理する人の人件費や商品を保管する場所代などもかかってきます。原価を細分化することで、商品の保管場所をもう少し安い場所に変えるなど他の方法を採用することで原価を下げることを検討したり、商品の価格設定をしたりするのにも役立てることができます。

また、実際の原価と、目標とする原価を比較することで、改善ができるか検討し、改善策を実行することで、同じ売上高からより多くの利益を得る体制をつくることもできます。

 

④ 経営分析

私たちは健康診断を受けると結果表を受け取ると思います。経営分析は、事業の健康診断のイメージです。決算書などの数字から、投資した金額に対してどれくらい利益が出ているか、またどれくらい効率よく運用できているかを把握することができます。

経営分析では、過去の業績や予算との比較、引き算や割り算が多く使われます。例えば、今期の売上高と前期の売上高を比較して、その差の原因を把握します。予算の売上高と比較して、予定通りの売上高だったのか、もし差がある場合はその原因を把握し、今後の事業や予算の立て方の改善に役立てます。また、利益を売上高で割って利益率を求めることで、売上に対してどれくらい利益が出るかを把握できます。同じ売上なら利益が多く残る方がいいので、どうすれば利益率を上げることができるか考える材料になります。

 

4.管理会計のメリット

上記で見てきたように、管理会計を実施すると、以下のようなメリットがあります。

  • リアルタイムで経営状態を可視化できる
  • 将来の予測を立てやすくなる
  • 改善策を考えやすくなる

事業規模が大きくなった時に必要なものと捉える人も多いと思います。確かに事業をはじめたばかりの頃は、目の前の仕事をこなすことが一番大事だったりもします。私も開業したばかりの時は、将来のことを考える余裕など全くありませんでした。ただ、目の前のことに追われた時、予算管理や資金繰り管理をやってみたら現在地を確認でき、気持ちを落ち着かせることができました。

また、これからどうやって大きくしていこうか考えるきっかけになり、将来のことを考えるとワクワクしました。管理会計は、今の自分の状況や将来を数字で見えるようにすることで、客観的に自分の事業を見ることができ、安心することができると思います。もちろん、これからどうしようか戦略を考えるきっかけにもなります。ただ闇雲に目の前の業務に追われている時、ふと今後に不安を感じた時に取り入れていただくのはオススメです。

また、個人事業主の場合は、資金繰り管理は生活費にどれだけ使えるかにも関わってくるので、すでにしている方も多いと思います。私も開業してから、お金の心配が増えました。会社員の時は定期的にお給料が入ってきますが、自分で事業を始めると定期的に入ってくる収入がありません。社会保険料や食費など最低限の資金をまかなえるかどうか把握するのに資金繰り管理はとても役に立っています。

 

5.まとめ

こうしてみると、管理会計は特別なことではなく、すでに自然とやっている方も多いと思います。上記でお伝えしたもの以外にも、複数の営業部など部門ができると部門ごとの業績を把握できる部門別管理を取り入れたりすることできます。

管理会計はエクセルなどの表計算ソフトから気軽に始めることができます。そのため、確定申告のためだけに帳簿をつけるのではなく、折角なら将来の作戦を立てるのにも会計を使うことで、より戦略を明確にしてワクワクすることも増やしていくのはいかがでしょうか。

ABOUT執筆者紹介

公認会計士・税理士 喜多弘美

喜多弘美公認会計士税理士事務所

2010年公認会計士試験論文試験合格後、上場会社経理部に所属。その後、大手監査法人で会計監査、グループ会社で内部監査・人事に携わる。2020年4月から個人事務所を開業し、2020年11月税理士登録。現在は、管理会計支援、税務業務をメインに従事している。

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