「孤島のスタジアム」に例えればわかる!? 便利になったシンNISA
税務ニュース
便利になって拡充された新NISA
2024年から新しいNISAが導入されます。NISAは、ご存じの通り投資による運用益を非課税とする制度です。今まで、つみたてNISAか一般NISAかの選択制だったものが、新制度では「つみたて投資枠」「成長投資枠」と名称を変えて併用可能となり、保有期間の無期限化、年間投資限度額の増額、総保有限度額の増額など大幅に拡充されています。
ただ、利用しやすく拡充された反面、次の3点の関連性について少々分かり難くなってもいます。
- 年間投資限度額は、つみたて投資枠120万円、成長投資枠240万円
- 総保有限度額は、1,800万円(但し成長投資枠は1,200万円)
- 総保有限度額は、売却すると再利用可能
これらの意味するところは、「売却すれば、また買える」という単純なものではないのですが、文章にすると無駄に複雑なので、大胆に例え話で説明します。
なお、つみたて投資枠と成長投資枠のちがいは、「つみたて投資枠は、お上のお墨付き投信(リスク低め)だけ買える。成長投資枠は、つみたて投資枠で買えるものに加えて国内外の株式や幅広い投信が買える。」とご理解ください。
例え話:孤島のスタジアム
では、例え話に入ります。
- 孤島にスタジアムがあります。
- その島には船で渡らなければなりません。
- 船には、大人240人、子供120人乗れます。
- 大人の席に子供は座れますが、子供の席に大人は座れません。
- スタジアムは、大人1,200人、子供600人収容できます。
- スタジアムも、大人の席に子供は座れますが、子供の席に大人は座れません。
- 船に満員まで乗せれば、5便でスタジアムは満席です。
- スタジアムが満席なら、6便目は出航しません。
- もちろん、船は満員でなくても出航できます。
- スタジアムから、大人が250人帰りました。
ここで問題です。
次に出航できる船の乗客はどの組み合わせでしょうか。
B. 大人240人、子供20人
C. 大人200人、子供50人
正解は、Cです。
船に大人は240人までしか乗れないのでAは出航できません。Bは、船の定員をクリアしてはいますが、スタジアムの席が足りないので出航できません。Cは、船の定員をクリアしており、スタジアムでは大人の席に子供50人を座らせれば良いので出航できます。
いかがでしょうか。この話なら直感的に理解しやすいと思って頂けると嬉しいです。そして、この例え話を次の様に置き換えると、そのまま新NISAです。
新NISA | |
---|---|
大人 | 成長投資枠で買えるもの |
子供 | つみたて投資枠で買えるもの |
船 | 年間投資限度額 |
スタジアム | 総保有限度額 |
加えて、この例え話には、新NISAの重要な要素は全て入っていますので、何かが再利用可能だの復活するだのという話は一旦全部忘れて、船とスタジアムで考えれば「そりゃそうだ」で済む様になっています。
新NISAの立ち位置
現金や預貯金は安全資産と呼ばれ、株式や投信など価格の変動する資産はリスク資産と呼ばれます。
自身の保有する資産を安全資産に全振りすると、元本割れの心配はありませんが、資産から果実を得ることは出来ませんし、物価が上がると買えるものが減るという問題もあります。他方、リスク資産に全振りすると、上手く行けば大儲けの可能性もありますが、下手をすると素寒貧です。
一般にリスク資産への投資は、投資期間が長くなるほど利益が出やすいと考えられています。このような考え方によれば、リスク資産の頻繁な売買により短期間で利益を出して何か贅沢をするという目標は分の悪い戦いと言わざるを得ません。また、NISAは運用益を非課税とする制度ですが、iDeCoや公的年金など掛金の段階でも節税となる制度もあります。ただし、これらに投入した資金は、場合によっては10年、20年という長期間縛られて使えなくなるデメリットがあります。
こうしてみると、新NISAは、直近では使う予定はないが近い将来使いたい資金を、比較的堅実に身の丈に合わせて運用するための制度だと見ることが出来ます。
投資に回せるお金は一定ではない
結局、リスク資産への投資を行なうのであれば、新NISAを利用しない手は無いわけですが、そもそもリスク資産への投資をすべきなのかを考える必要があります。これについては、自身の収入やライフステージなどにより判断すると良いでしょう。
例えば、収入が多ければ、投資する余力がありリスクを取って高いリターンを目指す余地があります。年齢が高くなれば運用の下振れを挽回するチャンスが減るので、安全資産を重視すべきといえます。あるいは、子育て中の世帯では、子供にお金が掛かるので、そもそも投資に回す余力は少なくなります。
堅実に行きたい。どうする?
一般に、個別の株式の価格は上振れも下振れも大きくなる傾向があり、広く分散投資された投信ではこの振れ幅は小さくなる傾向があります。そして、投資期間は長いほど有利といわれています。ゆえに、「よく分散投資された投信をなるべく長期間保有する」のが堅実な投資と考えられます。
ここで問題となるのは、よく分散投資された投信はどれかです。
つみたて投資枠はお上のお墨付き投信のみ買えると前述しましたが、よく分散投資された投信がお墨付きになっています。従って、つみたて投資枠をコツコツ埋めて行くことが、堅実な投資に近いと考えられるでしょう。しかし、毎年120万円の枠を全部使い切る必要はありません。例年、なるべく枠を埋める。そして、相続や贈与があったり、事業で大きな収入が得られたなどのケースで、例年を超えて枠を埋めるようにします。
では、年間のつみたて投資枠を使い切ったらどうですか。堅実投資の方針を続けるのであれば、思い出すべきは「子供は大人の席に座れる」です。すなわち、成長投資枠をつかってお墨付き投信を買うことができます。
よく分散投資された投信を15年間保有し続けると過去のデータからは、元本割れとなったケースはほぼ無いという研究成果もあるそうです。そのため、堅実な投資の例を挙げてみました。ただし、堅実といっても下振れの可能性があることは忘れないで下さい。
ABOUT執筆者紹介
税理士 柳下治人
柳下治人税理士事務所
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1978年埼玉県生まれ
明治学院大学経済学部 卒業
日本大学大学院経済学研究科修士課程 修了
税理士事務所勤務を経て柳下治人税理士事務所を設立
中小企業の経理、税務、経営のサポートやセミナー講師を手がけている。また、外国籍経営者やギグワーカーとも深く関わりを持ち、YouTubeにて「yagishitax税理士チャンネル」を運営し、UberEatsなどの配達員に必要な経理、申告のHowTo動画など税金にまつわる情報を公開している。
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