13 May

NPO法人が役員に役員報酬や給与を支給する際の注意点

掲載日:2024年05月13日   
税務ニュース

3月決算のNPO法人は、5、6月は社員総会や事業報告書の準備などで忙しくなる時期だと思います。役員報酬については社員総会または理事会で決定することになりますが、金額を変更するかなど検討されているNPO法人もあるでしょう。

特に収益事業を行っているNPO法人においては、NPO法の規定だけでなく法人税法など税務上の取り扱いも理解した上で役員報酬を決定する必要があります。税務上の取り扱いを正しく理解していないと、支給した役員報酬が損金(税務上の経費)として認められないといったことも起こり得ます。

今回は役員報酬に関するポイントをNPO法と税務の目線から解説します。

NPO法と役員報酬

まず、役員報酬を受けることができる役員は総数のうち1/3以下です。これはNPO法において定められているため、順守する必要があります。ここで言う役員とは、理事と監事のことを指します。ただ、NPOにおいては理事が従業員を兼務して現場の仕事に従事していることも珍しくありません。このような場合まで規制することは合理的ではないため、従業員を兼務する理事に対して従業員として支払った給与については対象とはなりません。 これは代表者や副代表であっても同様です。ただし、監事は従業員を兼務することはできませんので、監事への報酬は必ず役員報酬となります。

なお、役員の総数に対して役員報酬を支給できる人数は次のようになります。

役員の総数 役員報酬が支給可能な人数
4~5人 1人
6~8人 2人
9~11人 3人

役員報酬の金額については、NPO法人の定款により社員総会または理事会において決定されることとなります。そのため、役員報酬については必ず必要な決議を経た上で支給するようにして下さい。必要な手続きを取っていない場合には、社員や理事から指摘されるなどトラブルが生じる可能性があります。

また、理事兼従業員の方が従業員の立場で給与を受け取る場合には、雇用契約や賃金規程に従って給与を設定する必要があります。従業員の立場なので労務管理を行い残業が発生すれば残業代を支給する必要もあります。

役員報酬と税務上の注意点

収益事業を行っていないNPO法人は、法人税などの納税義務がないため、NPO法を順守する形で役員報酬の支払いを行えば問題ありません

しかし、収益事業を行っているNPO法人の場合には法人税などの納税義務があり、役員報酬については定期同額給与など法人税法の要件を満たすものが損金算入されます。定期同額給与の主な要件は次の通りです。

  1. 毎月の支給額が一定であること
  2. 支給額を変更する場合は次のいずれかの条件を満たすこと
    (1) 事業年度開始日から3か月以内に改定されていること
    (2) 役員の職務の内容に重大な変更などがあった場合(臨時改定事由)
    (3) 法人の経営状況が著しく悪化したなど相応の理由がある場合(業績悪化改定事由)

つまり、臨時改定事由や業績悪化改定事由を除けば、事業年度開始の日から3か月以内に役員報酬変更の決議を行う必要があり、それ以降は一定の金額で支給する必要があります。具体的には、役員報酬を変更する場合には、3月決算のNPO法人であれば6月末日までに社員総会や理事会で決議を行う必要があるということです。なお、この扱いは役員報酬部分にのみ適用されるため、従業員と兼務する理事は使用人兼務役員という立場になり、給与部分については役員報酬とは取り扱われません。従業員の立場であれば残業代などで月々給与額が変動することが普通ですが、税務的には問題ありません。

しかし、理事のうち代表者や副代表といった職制上の地位を有する者は法人税法において使用人兼務役員になれないという規定があります。そのため、代表理事や副代表については従業員の立場で受け取る給与についても税務上は役員報酬として取り扱うこととなります。

なお、法人税法の規定により役員報酬とみなされたとしても、NPO法においては役員報酬とは扱われないため、役員報酬の人数制限に影響することはありません。代表者や副代表に対する役員報酬や給与の取り扱いを整理すると次の図のようになります。

  NPO法 法人税法
理事としての職務 役員報酬 役員報酬
従業員としての職務 給与 役員報酬

定款設計の注意点

NPO法では理事は全ての業務について特定非営利活動法人を代表するという規定があり、定款に代表権に関する条項を設けなければ全ての理事が代表権を持つこととなります。ただ、これは実務上非常に面倒であるため、「理事のうち1人を理事長とする」などと記載した上で代表権を制限した方が運営上は便利でしょう。なお、理事長以外にも副理事長など自由に役職を設けることが可能です。

ただし、先ほどもご説明した通り、理事長や副理事長などの職制上の地位を有する理事は法人税法上において使用人兼務役員とは認められません。そのため、定款に代表権を制限する規定が無ければ、従業員として給与を受けていたとしても法人税法上はその全てが役員報酬と取り扱われることとなります。収益事業を行っている場合には定期同額給与に該当しないなどの不利益が生じる可能性もあるため、定款の規定には注意が必要です。例えば、理事長と副理事長を1名ずつ設置し、代表権を理事長のみに制限する場合には次のような定款になります。

(代表権を制限する場合の記載例) 

第〇条
この法人に次の役員を置く。
(1)理事 〇人以上
(2)監事 〇人以上

2 理事のうち、1人を理事長、1人を副理事長とする。

第〇条
理事長は、この法人を代表し、その業務を総理する。
2 理事長以外の理事は、法人の業務について、この法人を代表しない。

まとめ

NPO法人が役員に対して役員報酬を設定する際には、NPO法だけでなく税務上の注意点も踏まえて検討することが必要となります。収益事業を行っている場合には、税務上の取り扱いを理解しておかなければ支給した役員報酬や給与が損金不算入となるなど不利益が生じる可能性もあります。NPO法と法人税法で異なる取り扱いもあるため理解しにくい点もあると思いますが、それぞれの取り扱いを整理した上で役員に対する報酬を検討するようにして下さい。

ABOUT執筆者紹介

税理士
1級ファイナンシャルプランニング技能士
金子尚弘

会計事務所プロースト

名古屋市内の会計事務所勤務を経て2018年に独立開業。NPOなどの非営利組織やソーシャルビジネスを行う事業者へも積極的に関与している。また、クラウドツールを活用した業務効率化のコンサルティングも行っている。節税よりもキャッシュの安定化を重視し、過度な節税提案ではなく、資金繰りを安定させる目線でのアドバイスに力を入れている。ブログやSNSでの情報発信のほか、中日新聞、日経WOMAN、テレビ朝日(AbemaPrime)などで取材、コメント提供の実績がある。

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