「働きやすさ」を実現する制度の1つ「時間単位年休」導入方法と注意点を解説
社会保険ワンポイントコラム
2010年の労働基準法改正により、年次有給休暇を時間単位で取得すること(以降、「時間単位年休」)が可能となりました。厚生労働省の2024年発表の調査によれば、時間単位年休を導入している企業は4割程度とのことです。
昨今、働きやすさや休みの取りやすさを重視する労働者も増えており、柔軟な働き方を実現するための制度への関心は年々高まってきています。
そこで今回は、時間単位年休の導入方法から注意点までを解説していきます。
時間単位年休のメリット
時間単位年休には、様々なメリットがあります。
従業員側からすると、「通院のため1時間だけ早く退社したいが半休を取得するのはもったいない」、「急に子どもの迎えが必要になり1時間だけ中抜けしたい」など、様々な事情に柔軟に対応できるようになります。また、まとまった時間での年次有給休暇が取得しにくい企業では、年次有給休暇が取得しやすくなるメリットもあるでしょう。
昨今では、「働きやすさ」「休暇の取りやすさ」が重視されるようになっています。ワークライフバランスの実現がしやすくなり、「働きやすい会社」として従業員の定着も期待できます。
一方、会社側からしても、「働きやすい会社」としてのイメージが定着することは、人材確保の観点からは大きなメリットです。時間単位年休は、年次有給休暇の日数は変えず、取得単位の選択肢を増やすだけです。労働条件や働き方を大きく変えることもなく人件費もプラスせずに働きやすさを実現できる点でも、導入ハードルが比較的低い制度と言えるかもしれません。
時間単位年休の導入方法
時間単位年休を導入する場合、就業規則への追記だけでは不十分で、労使協定の締結が必要です。なお、労使協定は労働基準監督署等への届出までは不要です。
労使協定には必須記載項目が以下のとおり定められています。
①対象者
基本的には全従業員を対象とすべきですが、事業の正常な運営ができない場合にのみ、一部従業員を対象外として定めることができます。1日単位の年次有給休暇と同様、「育児・介護を行う従業員のみ利用可」のように取得理由により対象者を限定することもできません。
②時間単位で取得できる日数
法令により上限は1年で5日です。5日以内であれば会社が上限を定められます。
上限がありますので、20日の年次有給休暇が付与されている従業員が、20日分すべてを時間単位で取得することはできません。
③時間単位年休1日分の時間数
何時間分の年次有給休暇を取得すると1日分と扱うのかを定めます。原則は、各自の所定労働時間に合わせます。また、所定労働時間が7時間30分のように1時間単位の端数があるときには、切り上げます。
具体的には、以下のような扱いです。
1日の所定労働時間 | 「1日」の時間数 |
---|---|
5時間超~6時間 | 6時間 |
6時間超~7時間 | 7時間 |
7時間超~8時間 | 8時間 |
例えば、前述②で時間単位年休の上限を年5日と定めた場合、所定労働時間が7時間30分の従業員は、40時間分(8時間×5日)が時間単位で使えることになります。38時間分(7.5時間×5日した結果を切り上げ)ではない点に注意してください。
④取得単位
取得できる単位を定めます。多くの導入企業では1時間単位の取得ですが、「2時間単位」のように1時間以外の単位で取得させることも可能です。当然ですが、1日の所定労働時間を上回る時間数を指定することはできません。また、1.5時間単位のような指定はできず、整数で定めます。
導入時のポイント・注意点
時間単位年休の基本的ルール
時間単位とはいえ年次有給休暇ですので、会社の時季変更権や取得理由不問、有効期限等の年次有給休暇の基本的なルールは変わりません。そのため、育児や介護、通院など特定の理由ではないと時間単位取得を認めないような運用はできません。
年5日取得義務との関係
年次有給休暇には年5日の取得義務が課せられていますが、この「年5日」には時間単位で取得した分はカウントできません。例えば、1年間で5日分の年次有給休暇を取得しているがすべて時間単位での取得だ、という従業員がいれば、その従業員は年5日の取得義務を果たしていないことになります。1日あるいは半日単位の取得だけで年5日の取得義務を果たす必要があることは必ず押さえておきましょう。
休暇管理
年次有給休暇の残日数管理や取得義務の把握が煩雑になることから、勤怠管理システム(あるいは年次有給休暇管理システム)の導入を検討しても良いでしょう。年次有給休暇管理簿にも、日数と時間数をそれぞれ記載しますので、既存フォーマットの変更は避けられません。導入の際には休暇管理方法の見直しも併せて行います。
子の看護休暇・介護休暇との関係
時間単位年休が未導入の企業でも、育児介護休業法で定められている「子の看護休暇」「介護休暇」では、2021年1月以降、時間単位での取得対応が必須となりました。既に対応できている企業では休暇管理方法も応用できると思いますので、管理の手間が大きく増えずに済む可能性は高いです。本記事とは別の問題となりますが、対応できていない企業では、内容確認の上対応しましょう。
いかがでしたか。働きやすさの向上、ワークライフバランスの実現のため、時間単位年休を検討してみてはいかがでしょうか。
ABOUT執筆者紹介
内川真彩美
いろどり社会保険労務士事務所 代表
特定社会保険労務士 / 両立支援コーディネーター
成蹊大学法学部卒業。大学在学中は、外国人やパートタイマーの労働問題を研究し、卒業以降も、誰もが生き生きと働ける仕組みへの関心を持ち続ける。大学卒業後は約8年半、IT企業にてシステムエンジニアとしてシステム開発に従事。その中で、「自分らしく働くこと」について改めて深く考えさせられ、「働き方」のプロである社会保険労務士を目指し、今に至る。前職での経験を活かし、フレックスタイム制やテレワークといった多様な働き方のための制度設計はもちろん、誰もが個性を発揮できるような組織作りにも積極的に取り組んでいる。