28 April

企業の熱中症対策が6月から罰則付き義務化!必要な対策は?

掲載日:2025年04月28日   
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厚生労働省は2025年1月27日に開催された「第174回労働政策審議会安全衛生分科会」で、職場における熱中症対策を罰則付きで義務化する方針を固めました。労働安全衛生規則を改正することで、6月からの施行を目指します。今後、この新しい規則に適応するために、職場での熱中症対策にどのように取り組むべきなのか? 法改正に向けてきちんと把握しておくべきでしょう。

死亡割合は他の災害の5〜6倍!熱中症の被害数に注目

熱中症は体温が上昇することで、めまいや痙攣、頭痛などの症状を起こす病気です。重症化すると意識障害や運動障害を引き起こし、最悪の場合には死に至ります。

熱中症は他の労働災害に比べて、死亡する割合が5〜6倍多いとされています。日本では昨年、一昨年と2年連続で、熱中症による死亡災害が30人を超え、労働災害全体における死亡者の4%を占めました。2020年〜23年の4年間には103件の死亡災害が発生していますが、ここで問題となったのが「初期症状の放置」と「対応の遅れ」の多さです。死亡災害のうち78件では犠牲者が重傷化した状態で発見され、41件では「医療機関に搬送しない」といった対応が見られました。

労働安全衛生法の労働安全衛生規則 第617 条には、「多量の発汗を伴う作業場においては、労働者に与えるために、塩及び飲料水を備えなければならない」とあります。しかし、熱中症による死亡災害が増えているため、厚生労働省では労働安全衛生規則を改正。熱中症対策の強化を求めることになりました。

6月から義務化される3つの熱中症対策

6月の法改正で対象となるのは、「WBGT28度以上又は気温31度以上の環境下で連続1時間以上又は1日4時間以上の実施」が見込まれる作業です。WBGTとは湿度や日射などの条件も加味した「暑さ指数」で、市販されている専用の計測器で調べられます。熱中症予防に注意が必要な建設現場や工場などでは、計測器を設置しているケースが多いようです。

なお、罰則付きで義務化される熱中症対策は以下となります。

  • 報告体制の整備
  • 実施手順の作成
  • 関係労働者への周知

具体的には「熱中症の自覚がある労働者」、および「同者を発見した者」が、事態を報告できる連絡先や担当者を決めること。「熱中症の恐れがある労働者」を発見した場合に、重篤化を防ぐための手順を作成するとともに、それらを関係者に周知することなどが求められています。

また、厚生労働省では以下のような症状が見られた場合には、「熱中症の恐れがある労働者」かどうかを疑う必要があるとしています。

■他覚症状

ふらつき、生あくび、失神、大量の発汗、痙攣など

■自覚症状

めまい、筋肉痛・筋肉の硬直(こむら返り)、頭痛、不快感、吐き気、倦怠感、高体温など

このような労働者を発見した場合には、作業を中止させるとともに、身体を冷却。意識の異常を確認し、状況に応じて水分補給や医療機関への搬送が必要としています。

厚生労働省が推奨する熱中症対策

厚生労働省では「熱中症対策基本要綱」や「クールワークキャンペーン」などを通じて、過去に熱中症予防に取り組んできました。

これらの取り組みでは、熱中症のリスクをWBGTで把握することの重要さを訴えています。さらに、身体を徐々に暑さに慣れさせていく「暑熱順化」についての提言もあり、7日以上かけて徐々に負荷を増やすことが望ましいとしています。

なお、熱中症のリスクを防ぐとされるWBGT値は、作業の強度によっても異なります。厚生労働省では5段階の作業強度ごとにWBGT基準値を公開しており、例えば建設車両の運転のような「継続的な手及び腕の作業」は28度。暑熱順化されていない場合には26度とされています。さらに、WBGT基準値には、着衣によって「プラス○度」といった補正値が加えられるので、作業着も加味したうえで、適切なWBGTを把握する必要があるでしょう。

そのほか、「熱中症対策基本要綱」や「クールワークキャンペーン」では、以下のような対策が推奨されています。

  • 作業環境管理:WBGTの低減、休憩場所の整備など
  • 作業管理:作業時間の短縮、暑熱順化、水分と塩分の摂取、透湿・通気性の高い服装の着用、定期的な健康状態の確認など
  • 健康管理:熱中症の発症に影響する糖尿病や高血圧などを定期検診で確認、作業日当日に作業員の体調を確認など
  • 労働衛生教育:熱中症の症状や予防法を作業員に周知するなど
  • 救急処置:病院など緊急連絡網の作成・周知、身体を冷やし水分・塩分を摂取するといった処置など

高温多湿な環境で身体への負荷が高い作業を連続して行う際には、休憩場所を用意する、適切な作業計画を立てるといった事前準備が大切です。そのうえで、作業員の体調不良や熱中症の症状が確認できた場合には、作業を中止させるなど、適切な対応が求められるでしょう。

気象庁の観測結果によると、1876年には13.6度だった年間平均気温が、2024年には17.6度と、4度上昇しています。2024年には全国153箇所の気象台などのうち80箇所で、夏の平均気温が歴代1位の高温を記録。熱中症の疑いで救急搬送された人は9万7578人におよび、2023年より6111人増えています。

熱中症による死傷災害は建設業や製造業、運送業、警備業などで多く発生していますが、昨今の気象状況を考えると、予防が必要な現場はそれに留まりません。熱中症が危ぶまれるような環境下で作業を行う際は、管理者が作業環境を整えるとともに、一人一人の作業員が対策を心掛ける必要があるでしょう。

ABOUT執筆者紹介

ライター 丸田鉄平

各種金融系情報誌の編集・執筆業務を行うペロンパワークス・プロダクションに所属。主な担当分野は株・投資信託、年金、不動産など。過去には編集プロダクションや出版社に勤務。雑誌やWeb媒体の制作に関わり、ITやビジネス、グルメ関係のBtoB、およびBtoC案件で企画・編集・執筆を担当。2級FP技能士

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