21 May

令和の米騒動と家事消費の税務処理

掲載日:2025年05月21日   
税務ニュース

はじめに

令和の米騒動が昨年より引き続き世間を騒がせている。古代から日本人の主食とされてきた米、インバウンド効果による和食ブームが人気を集める中、国内消費は毎年10万トンペースで減少しているものの、ここへきて一転米不足が深刻な問題となり頭を抱えている。

今回は令和の米騒動及び家事消費について解説する。農家の方は家事消費の税務処理について、今一度本稿を読んで参考にしていただきたい。記事の記載にあたり農林水産省及び国税庁の公表資料をもとにわかりやすく説明している部分は、著者の個人的な見解も含むことをあらかじめお断りしておく。

米の消費量の推移

上記グラフは国民1年間1人当たりの米の消費量の推移を示したものである。
1962年のピーク時は118.3kg、2023年は51.1㎏。60年余りの間、食の多様化等により半減していることが明確である。

米の流通経路

備蓄米は大手集荷業者が落札・放出するも消費者まで辿り着くには時間を要している。

米品薄・価格高騰の背景

米品薄は猛暑による品質低下やインバウンド需要の増加、地震・台風等いわゆる災害の備えによる買いだめ需要が多くなったためとも言われている。

上記グラフは、稲作が販売金額1位である農業経営体(個人)の年齢構成(2020年)を示したものである。50歳代以下の割合は約1割、60歳以上が約9割と明らかに高齢化が加速している。米の食料自給率がほぼ100%とはいえ、今後さらなる離農が進み安定的に国内で供給するのは厳しくなるのではないかと危惧されている。稲作単一経営の基幹的農業従事者の平均年齢が71.1歳とのデータに驚愕を隠せない方は少なくなかろう。

ふるさと納税にも影響波及

米の産出額(2023年)1位の新潟県でも影響が及んでいる。新潟県魚沼市は、ふるさと納税の返礼品として人気を集めているコシヒカリが一部発送がままならず、また茨城県坂東市でも返礼品の米約1万件が発送できずとのトラブルが発生している。他の自治体によっても然り、申込急増で調達が困難となっている状況が相次いでいる。

ふるさと納税(寄附金控除)とは?ふるさと納税は、地方公共団体への寄附金として、確定申告における寄附金控除の対象となり、ふるさと納税の金額について一定の限度額までは、その金額から2千円を差し引いた金額が所得税と翌年度の個人住民税から控除される。

消費者の米購入先

上記グラフは米穀安定供給確保支援機構より精米購入・入手経路(令和7年3月分・複数回答)を作成したが、米購入先トップ5は次の順番になっている。

1位 スーパーマーケット 49.3%
2位 家族・知人などから無償でもらっている 13.3%
3位 インターネットショップ  9.7%
4位 ドラッグストア 8.2%
5位 生協 6.3%

米の購入先第1位を占めるのはスーパーマーケットだが、皆さんご存じの通り、国から備蓄米が放出されるも、売り場においてはいまだ入荷されず高値のままで入手困難とも言われている。

家事消費における税務処理

上位第2位の家族・知人に無償で農家があげた場合の処理を見てみよう。

家事消費とは農家が米(農産物)を家事などのために消費・人にあげた場合、家事消費という。
無償であげた場合でも税務処理は必要になり、収穫時の生産者販売価額により計算して収入金額に加えることを忘れてはならない。
販売農家の場合{(農産物の販売金額-出荷に掛かった経費)÷販売数量}×家事消費等の数量
販売をしていない農家の場合市場価格などを参考にして求めた単価×家事消費等の数量

確定申告におけるポイント

収穫した米(農産物)を自分で食す、贈答した場合には家事消費として帳簿に記載する。昨年からの米不足で米価上昇している昨今、金額計算には注意を払う必要がある。

この場合帳簿に記載する金額は、原則として家事消費などをした時の価額となるが、その収穫年分の収穫時の価額の平均額又は販売価額(出荷価額)の平均額の金額を計上しても差し支えない。

ここがポイント!米(農産物)などの棚卸資産を家事などのために消費、贈与したような場合も収入金額となるので記載漏れに注意すべきだ。青色申告決算書(収支内訳書)の作成に当たっては、上記、収入金額の家事消費・事業消費金額欄②に帳簿で計算した一年間の金額を記載する。

おわりに

令和の米騒動は平成の米騒動と違い、高温障害による白未熟粒だけでなく米農家の時給が10円(2022年の農林水産省 営農類型別経営統計)と言われているように所得増加に結びつかなかった。肥料、家畜飼料、燃料、生産資材価格高騰にもかかわらず米価は一向に上がらず、これまでが安すぎたとの声が上がる。

平成の米騒動(平成5年)

夏頃に北日本を中心とした異常低温、いもち病の全国的な多発等により大不作となった。

令和の米騒動による価格高騰が止まらず、外食・小売りでは外国産米の調達が進み、消費者はパン・パスタへの切り替えが進むなど影響が出ている。主食用米が不足しているとして飼料用米から移行されるため家畜飼料の確保さえもこれまで以上に困難を極めることになろう。また生産者が離農していく中、高温に対応する品種開発(新潟県の新之助など)も重要になってきた。

就農者減少や高齢化が加速する中で、食料安全保障の観点から農業経営の持続性が今後ますます重要になる。今般の一連の騒動を通じて、日本の食糧難危機打開策を打ち出す良い機会となることを願ってやまない。

ABOUT執筆者紹介

佐藤宏章

公認会計士/税理士
公認会計士・税理士 佐藤宏章事務所 代表

秋田県農家出身(酪農・メロン・水稲)。東京農業大学農学部農学科卒業後、農業経営者に的確なアドバイスをと一念発起し、公認会計士資格取得。監査法人勤務を経て、「日本初の農業に特化した専門家」として独立開業。

農業経営者に会計・税務・経営をわかりやすく伝えることをモットーに、全国各地で活動中。企業・自治体・大学・税理士会等向けに講演、「羽鳥慎一モーニングショー」(テレビ朝日)「めざましテレビ」(フジテレビ)その他メディア出演も多数。かつてないスタイルで唯一無二の存在と信頼を集める。

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