【令和6年能登半島地震】雑損控除、災害減免法?災害時の税務対策を順番に解説
税務ニュース
今年1月1日、能登半島で震度7の地震が起きました。被災地では混乱が続き、復興には時間がかかると見られます。ここで気になるのが税金です。1月は源泉所得税の納付のほか、法定調書や給与支払報告書の提出、償却資産の申告があります。しかし落ち着いて税務をこなす余裕はありません。そこで今回は、災害という緊急事態が生じたときの税務対策を、時間の流れとともに解説します。
「雑損控除」「災害減免法の軽減免除」は後回しの理由
災害時の税務対策で最初に思いつくのは「災害減免法による所得税の軽減免除」「雑損控除」かと思います。
しかし実際は、すぐに活用しません。今回の能登半島地震なら、来年考えます。
なぜかというと、2024年1月1日に起きた災害で影響を受けるのは2024年分の所得税や2025年度の個人住民税だからです。2024年分の所得と税額を計算して申告するのは2025年3月15日期限の確定申告となります。つまり、実際に計算するのは来年になるわけです。
このほか、目の前に迫った申告や納付、申請や届出の期限にも対処しなくてはなりません。
そう考えると、災害時の税務対策は、税務のイベントを時系列で整理した上で考えていく方がよいわけです。今回の能登半島地震で考えるなら、税務対策の順番は次のようになります。
1.なるべく早めにしておきたい税務対策
なるべく早めにしておきたい対策は「被災した家屋や家財の撮影・り災証明書の取得」です。
自宅や家財、事業用の資産が地震で損害を受けたのなら、写真撮影をしておきましょう。り災証明書の取得に必要だからです。
り災証明書とは、地震や風水害などで家屋や家財に被害を受けたとき、その被害の程度を証明する書類です。生活再建に必要な支援金の支給や仮設住宅への入居手続きの他、雑損控除や災害減免法による軽減免除、住宅ローン控除の重複適用や納税の猶予で必要となります。
なお、り災証明書の申請期限は自治体ごとに異なるようです。射水市は、原則として災害発生から3か月以内となっています。
2.落ち着いたらしておきたい税務対策
次の手続きは、被災状況が落ち着いたら、なるべく早くにしておきたい手続です。
「期限の延長」の申請(税務署)
1月、事業主は税務イベントが目白押しです。国税なら、次の手続きを税務署に行います。
- 2023年12月分源泉所得税の納期限(原則)…1月10日
- 2023年7月~12月分源泉所得税の納期限(特例)…1月20日
- 法定調書の提出…1月31日
- 2023年11月決算法人の法人税の申告・納税…1月31日
このほか、新規開業の方の手続きもあります。個人事業主の方なら開業・廃業などの届出や青色申告の承認申請、新規法人なら設立届出書の提出が気になるところです。
被災してすぐにこういった手続きを行うのは難しいものです。このようなとき「災害による申告、納付等の期限延長申請書」を提出しましょう。承認されれば、期限は災害のやんだ日から2月以内の日で延長されます(国税通則法第11条、同法施行令第3条第3項・4項)。
ここでいう「災害のやんだ日」とは、税務申告や納付をするのに支障がない程度に復旧した状態をいいます。具体的には、次のような状態です。
- 災害により直接被災した場合…災害が引き続き発生するおそれがなくなり、その復旧に着手できる状態になった日
- 交通の途絶があった場合…交通機関が運行を始めた日
期限延長の申請は「期限までに行わなければいけない」というものではありません。被災状況が落ち着いてからでも間に合います。
なお、上記は期限の延長のうち「個別指定」というものになります。今回の能登半島地震については、もしかしたら国税庁から地域指定による期限の延長が告示されるかもしれません。そうなった場合、この申請書を提出しなくても期限内の申告や納付として扱われます(国税通則法第11条、同法施行令第3条第1項)。
「災害等による期限の延長」の申請(地方自治体)
税務イベントが多いのは国税だけではありません。地方税にもあります。
- 給与支払報告書の提出…1月31日
- 償却資産の申告…1月31日
- 2023年11月決算法人の法人住民税・事業税等の申告・納税…1月31日
地方税にも国税と同じく、災害等による期限の延長制度があります(地方税法第20条の5の2第1項)。ただ、細かい手続きは都道府県や市町村ごとの条例に定めています。たとえば石川県です。税条例で次のようになっています。
この条例に対応した期限延長申請書は、石川県のWEBサイトからダウンロードできます。
今回の地震で被害を受けた自治体の1つである輪島市にも、次のような期限の延長に関する条例があります。
輪島市のWEBサイトには期限延長の申請書の掲載はありませんが、必要事項を記載した申請書を提出するか、市の窓口に直接相談した方がよいかと思われます。
なお、地方税の期限延長の申請も、被災状況が落ち着いてからで十分です。
3.ゆっくり考えていい税務対策
復旧したら、次も考えるとよいでしょう。
国税
- 災害減免法による源泉所得税等の徴収の猶予・還付…給与所得者・公的年金生活者向け
- 納税の猶予(積極財産への損失が20%以上)…2023年12月決算の法人税、2023年12月末までに課税期間の末日を迎えた消費税、2023年分申告所得税、2024年1月1日以前に発生した相続・贈与の相続税・贈与税など
地方税
固定資産税や住民税の減免申請を検討しましょう。先ほどの輪島市だと個人市民税と固定資産税・都市計画税の減免について、地方税法と市の条例の他、減免規則が設けられています(地方税法第45条・第367条・第702条の4の2、輪島市税条例第47条・第79条、輪島市災害による被害者に対する市税の減免規則)。
ただ実際は、市町村の窓口に相談した方がいいでしょう。この他、納税の猶予も検討材料となります。
まとめ
災害時の対策を時系列で並べると次のようになります。
今回お伝えした以外にも税負担を軽減する制度があります。まずは身の安全を確保し、落ち着いてから順番に対策を考えていきましょう。
ABOUT執筆者紹介
税理士 鈴木まゆ子
税理士・税務ライター|中央大学法学部法律学科卒。ドン・キホーテ、会計事務所勤務を経て2012年税理士登録。ZUU online、マネーの達人、朝日新聞『相続会議』、KaikeiZine、納税通信などで税務・会計の記事を多数執筆。著書に『海外資産の税金のキホン』(税務経理協会、共著)。