01 July

業務効率の向上だけでは長時間労働は削減できない

update_2019年07月01日   
社会保険ワンポイントコラム

働き方改革により、長時間労働を是正し、労働生産性を向上させる取り組みが進められています。労働法制もそれを後押しし、2019年4月1日からは「年次有給休暇の5日間付与義務化」が施行されており、2020年4月1日からは「法定時間外・休日労働の上限規制」が施行予定(中小企業の場合)となっています。企業によっては、労働時間削減への取組を強化していかないと人材も確保できないなど、苦境に立たされることになります。

IT化や機械化によって業務効率がよくなれば、当然のように労働時間が短くなるはずだと考える人が大半でしょう。しかし過去に遡ってみると、職場にパソコンやコピー機がなかったような昭和50年頃から現在に至るまで、正社員の総労働時間は年間2000時間前後で推移しており変化がありません。手作業や力仕事が減って業務効率は大幅に向上したはずですが、なぜか労働時間は減っていません。昨今の働き方改革=IT化による業務効率、という取り組みも、労働時間削減の魔法の杖とはならない可能性が高いと考えた方がいいのかも知れません。

では、なぜ業務効率の向上を図っても労働時間の削減につながらないのでしょうか?
まず考えられるのは、労働者にとって労働時間の削減が収入の減少につながっている可能性です。業務効率が向上して早い退社が可能になっても、月々の残業代が生活費の一部になっているようであれば早くは帰れません。従って、ゆっくりと仕事を進める、特段必要のない新たな課題や別の業務を作るといったことが起こりがちです。根本的には、「労働時間に応じた賃金を支払う」という労働法の基本的な思想が、労働時間の短縮を難しくしているということなのですが。

二つ目は、業務が効率化されれば人員が減らされるため、一人当たりの業務量は変わらなくなるからです。組織は、効率化された部門の余剰人員を人員不足部門へ配置転換したり、難しい課題や強化すべき業務に担当替えをしたりします。人員がそのままなら一人当たりの業務量は減りますので労働時間も短くなりますが、結果的に業務量に応じた人員に調整されますので労働時間が減ることはありません。

三つめは、労働時間の短縮で早く退社しても、フラリーマンな人が多いからです。日本人は趣味・自己啓発・学習・地域活動への参加など、仕事以外の活動や意欲が低いと言われています。むろん、長時間労働がこれらの活動を阻害してきたという側面は否めませんが。年間労働時間が削減されたとしても、充実したライフを楽しむというスタイルは一朝一夕には育まれないでしょう。そのような状況ですから、「やることがない=早く帰る意味がない」という図式となり、労働時間が減っていくことは考えにくくなります。

長時間労働の削減には、業務の効率化にとどまらず、上記の問題点を把握・整理・解決することが必要です。そのためには、価格競争に巻き込まれることのない、差別化された付加価値の高い商品やサービスを用意することも不可欠です。平たく言えば、儲かる商売を創ることです。当然ですが、研究開発にお金をかけることがキモとなります。もう一つ怠れないのは、社員の能力開発です。一定であり続ける業務量を、より短時間で成果を出すには能力を向上させるしかありません。また、経営戦略の「答え」を創っていくにも、今からの時代は優秀な社員と経営者のシナジーによる以外にありません。

遠回りのように聞こえるかもしれませんが、研究開発投資と人材育成投資をベースに置きながら働き方改革を進めていくようにしましょう。

ABOUT執筆者紹介

大曲 義典

株式会社WiseBrainsConsultant&アソシエイツ
社会保険労務士・CFP® 大曲義典

原稿提供元株式会社ブレインコンサルティングオフィス「かいけつ!人事労務」

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