01 September

実は知られていない「自社ビル」の悲劇

掲載日:2020年09月01日   
税務ニュース

開業以来苦節20年、ついに自社ビルの完成である。5階建てのビル、そして来客用として50台は駐車可能なスペース、いくら地代家賃を支払っても自分のものにはならいと思い一念発起した。自社ビルは、今後のさらなる成長を期待させるに十分すぎる雰囲気を漂わせていた。利益も出ているし、同一敷地内で来客用の駐車場も確保できる不動産物件はめったにないという判断から購入したそうです。それから5年後、業績に特段の変化はないのになぜか資金繰りが苦しいという相談依頼です。利益は5年前のよりも2千万円増加しているのになぜなのかというお話でした。確かに年間3000万円の地代家賃としての経費は減少、新たに4億円の不動産購入に伴う元金返済が年間2400万円、固定資産税、支払利息等で600万円の経費が発生しているもののキャッシュベースでは不動産購入前と変わらない。

しかし、2億円の建物の減価償却費は毎年400万円、利益ベースでは3000万円の経費が1000万円(減価償却費、固定資産税、支払利息等)に減少して、結果として利益は2000万円増加します。税率を35%で計算すると税金というコストが700万円ほど増加している。損益計算書だけ見ると税引き後で1300万円利益が増えて、一見良好な損益計算書に見える。しかし、外に出ていくキャッシュは、不動産購入前に較べて確実に税金分は負担増となっています。損益計算書上の利益が増えた一方で、貸借対照表には4億円の固定資産と2億8千万円の借入金残高(5年経過後)で資金繰りは苦しくなっていったのです。不動産購入は金額の大きさに比べ経費の発生は少ない。建物の減価償却費は定額法による長期間の償却になるので大した経費になりません。ほとんどのケースで減価償却期間の半分以下の期間で借入金の返済を済ませなくてはなりません。賃料のように支払額=経費とはなりません。その分利益が出やすくなるのです。そして一番支出の多い土地の購入費は経費になりません。土地の取得では固定資産税と借入金の利息のみが経費に算入できるのですが、一番支出額の多い借入金の返済額はもちろん経費になりません。

すべての不動産購入が失敗だということではありません。しかし、このようなケースでの不動産購入は命取りとなり会社倒産の引き金になりかねません。賃貸であればより良い条件の場所に移転できます。特に飲食業や小売業などは近年のコロナ禍などを踏まえより慎重な対応が求められます。購入をするということは売却をするということもあるということを同時に考察しながら将来設計をすることが肝要です。「利益が出ているから大丈夫だ。家賃を払うよりも購入したほうが得策だ」という安易な考えで事を進めるとせっかく安定的に事業が進められているのに、不動産購入が資金繰りの悪化を招き、本業の足かせとなり、大きな損失が発生することがあります。

不動産の購入に当たっては税金面のみならず、一番肝心な資金繰りについても十分なシミュレーションを行うことをお勧めします。

ABOUT執筆者紹介

代表・税理士 小野英範

人口6万人ほどの九州一暑い日田盆地に密着し、地方特有の少子高齢化の波の中で、お客様の事業存続のために、会計業務の原点である月次決算の重要性と適正な利益による納税が資金繰り改善に最も有効であるこを経営者に説明しながら、元氣企業の創出に日夜奮闘している。

小野英範税理士事務所

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