14 May

発達障害の方が能力を発揮するために、職場が配慮すべきポイントは?

掲載日:2022年05月14日   
社会保険ワンポイントコラム

主な「発達障害」の分類

「発達障害」とは、生まれつきみられる脳の働き方の違いにより、幼児のうちから行動面や情緒面に特徴がある状態のことです。まず初めに、代表的な3つの「発達障害」の分類をご紹介します。

各障害の内容は、厚生労働省サイト「知ることからはじめよう みんなのメンタルヘルス 総合サイト」より抜粋したものです。

① 自閉スペクトラム症

コミュニケーションの場面で、言葉や視線、表情、身振りなどを用いて相互的にやりとりをしたり、自分の気持ちを伝えたり、相手の気持ちを読み取ったりすることが苦手です。また、特定のことに強い関心をもっていたり、こだわりが強かったりします。また、感覚の過敏さを持ち合わせている場合もあります。

② 注意欠如・多動性障害(ADHD)

発達年齢に比べて、落ち着きがない、待てない(多動性-衝動性)、注意が持続しにくい、作業にミスが多い(不注意)といった特性があります。多動性−衝動性と不注意の両方が認められる場合も、いずれか一方が認められる場合もあります。

③ 学習障害(LD)

全般的な知的発達には問題がないのに、読む、書く、計算するなど特定の学習のみに困難が認められる状態をいいます。

 

職場が配慮すべき“3つ”のポイント

<ポイント①>
発達障害を理解する意義は、対象となる方を知る上での“1つの手掛かり”
注意すべきは、障害の分類にこだわりを持ち過ぎないこと

発達障害を理解することにより、その人に合った仕事を推測することができます。

例えば、コミュニケーションが苦手な自閉症スペクトラム症であれば、じっくりと机に向かって考えるような仕事が合っていると言われています。逆に落ち着くことが苦手なADHDであれば、営業職のような仕事が合っていると言われています。またLDであれば、その人が苦手なことを補う機器を導入することで、仕事を滞りなく遂行するできることにつながります。

一方で、それぞれの発達障害の分類に関して、明確な境界線があるわけではありません。
例えば「自閉スペクトラム症の診断だが、ADHDのような特性もある」「明らかに学習障害の特性があるが、そのような診断はされていない」などです。そのため、自閉スペクトラム症だからといって「コミュニケーション中心の仕事は一切させない」など決めつけることは望ましくありません。障害の有無や、障害の分類内容にこだわりを持ち過ぎることは禁物です。

大事にすべきは「その人が困っていることを知り、その人が自らの力で解決できるための環境をつくること」です。これは障害の有無に関係ありません。もし対象となる方が発達障害と診断されている、またはそのような傾向がある場合に、その人を知る上での“1つの手掛かり“として「発達障害を理解することに意義がある」ということです。

<ポイント②>
「周りにとっては当たり前でも、本人にとっては当たり前ではない」
職場の同僚が「その人の生きづらさ」に寄り添うこと

次のような質問をされた場合、みなさんはAとBのどちらが「気が楽なこと」と感じますか。

A「研修で、受講生1000人の中の1人として、2時間離席せずに講師の話を聴くこと」
B「研修で、講師として、受講生1000人に対し、2時間話すこと」

多くの方は「A」と答えると思います。「B」は『1000人もの前で話をしたら緊張してしまう』『2時間も話せるだろうか』というのが一般的な意見かもしれません。

しかし、もし『頭の回転は速いが、集中力が続かない』という人がいれば、「B」と答える方もいるかもしれません。受講者1000人の中で、ただ1人集中力がない様子で、周りから「話を聴いているのか」と思われるリスクよりは、自らが講師で話をした方が、よほど気が楽ということもあるかもしれません。

このような場合であれば、講師として自らの才能を発揮する場面に巡り合えればよいのですが、そうでなければ「みんなが当たり前にできることを、なぜあの人はできないのか」と周りから思われてしまうことで、その人の「生きづらさ」につながってしまいます。

発達障害を持つ職場の同僚を評価する際に「なぜ、できないのか」という考えに留まるのではなく、その人が「生きづらさを感じていないか」を捉えていきましょう。「現在の部署での仕事が、その人に合っているのか」ということを見定めながら、その「生きづらさ」に寄り添い、理解することで、相手の気持ちに余裕が生まれ、類まれなる才能を発揮することにつながっていきます。

<ポイント③>
「発達障害の理解は、すべての人が働きやすい職場環境へとつながること」
それを実現するために職場内で「高い使命感」を持つこと

発達障害の方は、障害の分類に応じ“こだわりが強い”“落ち着きがない”“計算が苦手”などの要素がとても強いと言えますが、障害の有無に関わらず、人間誰しも「短所」「苦手なこと」はあるものです。しかし一方で、それらの要素は、視点を変えれば「長所」「得意なこと」を形成する要素とも言えます。

そのように捉えれば、職場内に発達障害の方がいるかどうかに関わらず、発達障害を理解することは「1人1人が持っている能力を互いに尊重すること」そして「1人1人が能力を発揮できることで、すべての人が働きやすい職場環境をつくること」への大きなきっかけとなります。

厚生労働省では「精神・発達障害者しごとサポーター」などの事業を通じて、発達障害への理解を浸透させる取り組みに力を入れています。

ぜひ、より良い職場環境を目指すため、発達障害を理解する場面をつくっていきましょう。

ABOUT執筆者紹介

社会福祉士・社会保険労務士 後藤和之

ごとう人事労務事務所

昭和51年生まれ。日本社会事業大学専門職大学院福祉マネジメント研究科卒業。約20年にわたり社会福祉に関わる相談援助などの様々な業務に携わり、特に福祉専門職への研修・組織内OFF-JTの研修企画などを通じた人材育成業務を数多く経験してきた。現在は厚生労働省委託事業による中小企業の労務管理に関する相談・改善策提案などを中心に活動している。

原稿提供元株式会社ブレインコンサルティングオフィス「かいけつ!人事労務」

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