「職場初」女性社員の妊娠!会社は妊娠中の社員をどうサポートするか?
社会保険ワンポイントコラム
女性社員から妊娠を告げられたときに、前例がなく、また、自身も経験がない場合はどうしたら良いか分からないかもしれません。
妊娠中は、体質・体調の著しい変化が起こり、身体にも大きな影響を与えます。個人差もあり、個別の対応を求められることもあります。
職場で初めて社員が妊娠した際に困らないように、会社としてどうサポートしていくかについて解説します。
1 妊娠中の社員のサポートについて
女性社員が妊娠した際、職場への報告は安定期に入ってからが多いようですが、体調や職種によってはそれよりも早い段階で妊娠の報告がある場合もあるようです。職種によっては、勤務の軽減等を求められるかもしれません。法律ではどのように定められているのでしょうか。
(1) 男女雇用機会均等法における母性健康管理措置や母性保護規定について
男女雇用機会均等法では、母性健康管理措置や母性保護規定について以下の定めがあります。
ア 保健指導又は健康診査を受けるための時間の確保(法第12条関係)
事業主は、女性社員が妊産婦のための健康診査等を受診するために必要な時間を確保することができるようにしなければなりません。なお、義務付けられているのは時間の確保ですので、無給でも大丈夫です。一般的には、有休取得での対応が多い印象があります。
イ 指導事項を守ることができるようにするための措置(法13条関係)
妊娠中及び出産後1年以内の女性社員が、健康診査等を受け、医師等から指導を受けた場合は、受けた指導事項を守ることができるようにするために、事業主は、勤務時間の変更や勤務の軽減等の措置を講じなければなりません。
ウ 母性健康管理指導事項連絡カードの利用
事業主が上記ア、イの母性健康管理措置を適切に講じるように、男女雇用機会均等法に基づく指針により、母性健康管理指導事項連絡カードの様式が定められています。つわり等妊娠における諸症状は個人差があるため、女性社員から勤務の軽減等の相談を受けた際に、判断が難しい場合もあるかと思います。その場合は、「母性健康管理指導事項連絡カード」を提出して頂き、医師の意見を参考にし、会社としての措置を検討することができます。
エ 妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いの禁止(法第9条関係)
事業主は、女性社員が婚姻し、妊娠し、出産したことや、産前産後休業の取得、男女雇用機会均等法による母性健康管理措置、又は労働基準法による母性保護措置を受けたことなどを「理由として」、解雇その他不利益な取扱いをしてはならないとされています。「理由として」とは妊娠・出産等の事由と不利益取扱いとの間に「因果関係」があることを指します。
また、妊娠・出産等の事由を「契機として」不利益取扱いを行った場合は、原則として「理由として」いる(事由と不利益取扱いとの間に因果関係がある)と解され、法違反となります。なお、原則として、妊娠・出産等の事由の終了から1年以内に不利益取扱いがなされた場合は「契機として」いると判断されます。妊娠中・出産後1年以内の解雇は、「妊娠・出産・産前産後休業を取得したこと等による解雇でないこと」を事業主が証明しない限り無効となりますので注意が必要です。
オ 職場における妊娠・出産等に関するハラスメントの防止措置(法第11条の3関係)
事業主は、職場における妊娠・出産等に関するハラスメントを防止する措置を講じなければなりません。
(2) 労働基準法による母性保護措置について
労働基準法では、妊娠中及び産後1年を経過しない女性を対象として、以下の母性保護措置の定めがあります。イ~エについて、「本人が請求した場合」となっておりますが、妊産婦に負担がかかる勤務内容であれば、会社から提案をされても良いかもしれません。
ア 妊産婦等に係る危険有害業務の就業制限 (第64条の3)
妊産婦等を妊娠、出産、哺育等に有害な業務に就かせることはできません。
イ 妊婦の軽易業務転換(法第65条第3項)
妊娠中の女性が請求した場合には、他の軽易な業務に転換させなければなりません。
ウ 妊産婦に対する変形労働時間制の適用制限(法第66条第1項)
変形労働時間制がとられる場合であっても、妊産婦が請求した場合には、1日及び1週間の法定時間を超えて労働させることはできません。
エ 妊産婦の時間外労働、休日労働、深夜業の制限(法第66条第2項及び第3項)
妊産婦が請求した場合には、時間外労働、休日労働、又は深夜業をさせることはできません。
オ 罰則(法第119条)
上記の規定に違反した者は、6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処せられます。
2.妊娠中の社員をどうサポートするか
法律の定めは1.に記載したとおりですが、実際のサポートはどうしたらよいでしょうか。以下のようなサポートが考えられます。
(1) 妊娠中の通勤の緩和
交通機関の混雑により、つわりの悪化や流・早産等につながる可能性もあります。フレックスタイム制度の適用や、時差出勤等の提案が考えられます。
(2) 作業の軽減
重量物を取り扱う作業や、身体の負担が大きい作業等については、デスクワーク等負担の少ない作業への転換を提案し、負担の軽減を行うことが望まれます。なお、女性社員から他の軽易な業務への転換を請求された場合、請求した業務に転換させる必要がありますが、過去の通達では、新たに軽易な業務を創設する必要まではないと、されています。(S61.3.20 基発・婦発69)
(3) 休憩室等、休めるスペースを確保する
妊娠中は突然お腹が張ったり貧血になったりなど、急に体調が悪くなることがあります。そういったときにすぐに休憩できるスペースがあると良いかと思います。
(4) 在宅勤務を推奨する
新型コロナウィルス感染防止のために在宅勤務制度を導入した企業が増えましたが、妊娠中の社員について、在宅勤務を推奨するということも考えられます。
(5) 相談窓口の設置
管理職が男性ばかりだと、女性の社員は相談しづらいこともあるかもしれません。他の女性社員に相談窓口になって頂くなどの対応が考えられます。また、困ったときは労働局雇用環境・均等部(室)に相談もできますので、もしものときは活用しましょう。
妊娠中の社員のサポートは様々なことが考えられますが、たとえ本人の体調を考えてのことでも、会社の一方的な判断で勤務内容や時間を変えることは避けた方が良いので注意が必要です。まずは、本人に提案をした上で、働きながら安心して出産を迎えることができるようサポートをしていきたいものです。
ABOUT執筆者紹介
松田法子
人間尊重の理念に基づき『労使双方が幸せを感じる企業造り』や障害年金請求の支援を行っています。
採用支援、助成金受給のアドバイス、社会保険・労働保険の事務手続き、給与計算のアウトソーシング、就業規則の作成、人事労務相談、障害年金の請求等、サービス内容は多岐にわたっておりますが、長年の経験に基づくきめ細かい対応でお客様との信頼関係を大切にして業務に取り組んでおります 。
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