就業規則が分厚いと社員のモチベーションが高いワケ
社会保険ワンポイントコラム
人は予測できないことに不安を感じる
人の心理として、予測できないことに不安を感じます。たとえば、転職してきた人が、会社のルールが分からず不安というのも、この予測可能性が低いことが原因です。
そして、不安を感じると、社員のモチベーションにも影響を与えます。これはみなさん経験的に分かるのではないでしょうか。そのため、予測できないことをできるだけ少なくしていくことが社員のモチベーション維持や向上に必要です。
就業規則の周知が予測可能性を高める
会社には就業規則をはじめ、慣習的なものや暗黙知のようなルールが存在します。このようなルールはできるだけ周知して社員の予測可能性を高めましょう。
特に、就業規則は法令で周知が必要とされています。よく言われる例え話の中に、「就業規則を社長の机の中や社内の金庫にしまっているのはNG」というのがありますが、実際に私が関わった会社でも本当にあった話です。
周知の方法は、「社内に掲示」、「書面で交付」、「データで共有」などがあります。会社の規模などにもよりますが、クラウド上にデータで保存しておくのがベターでしょう。これだとテレワークで働いている社員も常に確認することができます。
服務規律の項目が大事
私の関与先の中で、「社員が活き活きと働いている」と感じる会社(離職率も低い)では、就業規則の中の服務規律の項目がしっかり規定されていることが多いです。
服務規律というのは、「~してはならない」「~すること」といった社員が守るべきルールを示したものです。この服務規律の部分が分厚いのです。分厚いというのは、量もですが、質も高い。つまり、ネットで拾った就業規則サンプルをそのまま利用するのではなく、自社の内実に合わせて文言や内容を工夫しているのです。
本来なら社員の行動を規律するルールは逆にモチベーションを下げてしまいそうなものです。この理由は、ルールが明確であればあるほど「これ以外は自由」「こんなこと言っても罰せられることはない」といった安心感が生れるからだと、私は考えています。
逆に、ルールが明確でないと、結果に対する予測可能性が低くなるため発言や行動を控えることになります。これでは仕事に対するモチベーションが上がるはずはありません。
国民にとって刑法があることで、刑罰を受ける行為と受けない行為が明確となり、行動の結果予測ができます。これは自由に行動するためにはとてもありがたいことです。
就業規則も同様に、ルールを定めることで、逆に自由を保障しているのです。社員が安心して働くための土台であり、モチベーション維持向上にも大きく寄与するのです。就業規則の服務規律の内容を質量ともに見直してみてはいかがでしょうか。
ABOUT執筆者紹介
三谷社会保険労務士事務所 三谷文夫
三谷社会保険労務士事務所
大学卒業後、旅館や書店等で接客や営業の仕事に従事。前職の製造業では、総務担当者として化学工場での労務管理を担う。2013年に社労士事務所開業。労務に留まらない経営者の話し相手になることを重視したコンサルティングと、自身の総務経験を活かしたアドバイスで顧客総務スタッフからの信頼も厚い。就業規則の作成、人事評価制度の構築が得意。商工会議所、自治体、PTA等にて研修や講演多数。大学の非常勤講師としても労働法の講義を担当する。趣味は、喫茶店でコーヒーを飲みながらミステリ小説を読むこと。